2 先読み
彩音は考える。
ただ翔真達との陣取りごっこに興じているだけでは、いけない。
「位置情報、監視カメラの映像。それ以外の方法で、もっと彼らの意図を探れないでしょうか。今までの情報では、彼らの過去と現在が分かるだけです。リスクに対して後追い、対処療法にしかなりません。ラビットが優れたAIなら、セキュリティ対策としては先読みを仕掛けるべき段階です。侵入者が次にとる行動を予測し先回りする。そのためには、あの子達の情報がもっと欲しいですね」
「なるほど。……たとえば?」
「音声はどうでしょうか。二人で行動しているなら、会話をしているはず。あの子達は、侵入者に見立てられているとはいえ、技術者としてのスキルはありません。ですからおそらく、二人でざっくばらんに意見を交換しながら行動を決めているでしょう。言葉や口調は感情を乗せ、感情は未来を描きます。そこから、次のあの子達の行動を予測してみたいんです」
「いいですねえ、AIの学習プロセスさながら。事実の把握から、次は予測の段階へ。学習の深化が進んでいるように見受けられます」
潮見の誉め言葉に、彩音は微笑して見せた。
彩音の意図はそれだけではない。
会話から滲み出る、言葉のウラにあるものを探りたいのだ。
ラビットが、人間の感情や思考をどこまで読み取れるのかは、もちろん分からない。
翔真と優菜の会話から、ラビットには読み取れないものを、彩音なら見付け出すことが出来ないだろうか。
それを足掛かりにして、ラビット=潮見さえ出し抜く一手を考えたいのだ。
今の彩音の思考すら、VR空間内でのデータとして処理され把握されているのだとしたら、いずれにしても意味のないあがきではあるが。
それでも。
かすかな不信感がある限り、AIの後手に回るわけにはいかない。
ただの先読み合戦ではヒトはAIには勝てないが、AIが汲み取れない要素においては、主導権を引き寄せることも不可能ではないだろう。
「発電所のほうには、お店や人家はありませんが、二人のすぐ近くに、エネルギースタンドがありますよ。ガソリン、天然ガス、水素、充電の一括供給ステーションです。そこに、監視カメラとチミー端末が設置されていますから、画像なら先ほどのように持ってこられますが……」
「いえ。そこまでで結構です」
彩音は潮見を遮った。自分でも驚くほどのきっぱりとした意志で。
潮見の言葉が、彩音の意識内の何かを電撃的につなげたのだ。
智峰島に来てからの環境変化で浮かされていたようだった彩音の思考に、瞬発力が戻ってきたようだった。
「ちょっと、自分で調べてみます。やれそうな気がしてきたんです」
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