6 翔真

「それではまず、お二人とも、宿に行きましょうか。お二人の生活拠点であり、同時に、お仕事をしていただく拠点でもあります」


潮見に促され、彩音と少年はワンボックス車に乗った。

潮見が運転し、後部に彩音達二人とその荷物。


車が動き出してからも、彩音は悟られない程度に翔真少年を観察した。


同じプロジェクトといっても、さすがにAIエンジニアとは思いにくい。ゲームとなれば、テストプレイヤー、デバッガー側だろうか。


いずれにしても、自分と同じ目的でこの島に来ていることが分かると、まだわずかとはいえ、勝手な仲間意識を抱きつつあった。整った顔立ちをしているのに、どこか暗さを感じさせるところも気になった。


しかし翔真は寡黙で、なかなか自分から会話をしてくる気配がない。

自分と同じタイプの人間かも知れない、と彩音は思った。とすると、年上の自分が突破口を開くしかない。

このまま沈黙してしまうのもよいが、もしプロジェクトチームのようなものなのだとしたら、煩わしいことではあるが、早めにコミュニケーションを成立させておかなければ。


「そういえば…。翔真…君は、Uターンって、先ほど村長さんが言ってたけど…」


「…はい」

翔真が静かに答えた。


「えっと、つまり、この島にご家族が?」

「はい」


「でも、泊まるのは宿なんですか?」

「…はい」


翔真は寡黙だ。なかなか必要最低限のこと以外に口を開かない。


潮見が会話に入ってきた。

「ええ、まあ、そうなんですよ。この島は歴史的にも一つの共同体みたいなものです。一蓮托生なんですね。厳密にはお二人の役目は違いますが、ですから、プロジェクトの間は僕が皆さんをお預かりします」


「役目か…。私はVRMMOのAIエンジニアって」

彩音はスマホの求人概要を示しながら訊ねた。


「AIエンジニア?」

翔真の顔に疑問が浮かぶ。理解されなかったようだ。

「うーん、AIの仕組みを考えるプログラマーみたいな」

「ああ、プログラマー? …頭、いいんですね」


彩音は苦笑した。まあ大概の人にとって、AIやプログラマーに対する一般的イメージなど、そんなものだろう。

「じゃあ、望月君は…?」

「…俺? 俺は、たぶん、テストプレイヤー」


彩音はうなずいた。だいたい、予想通り。

それに、まだ一言だが、コミュニケーションらしいことがやっと成立した。

共同生活とは、なんとなく、合宿や寮のイメージが浮かぶ。

自分には苦手な世界だが、皆、この少年のように控え目な感じなら、なんとかなりそうだが、どうだろうか。


車は海岸沿いの道を静かに進む。

信号は一つもない。そもそも対向車だってまだ一台いたかどうか。数えるほども来ない。これほど静かな場所が、本土からそう遠くもない場所に、まだあるのだ、と彩音には新鮮だった。


空はどこまでも青く、海はそれよりさらに青く、近くに遠くに形を変えて見える陸の姿は濃い緑色で。AIにこの景色の美しさは理解できるだろうか。


「さ、もうすぐ着きますよ」

潮見が言った。


車で十分も走れば島は回れてしまうようだ。

事前に頭に入れていた島の地勢データからしても、そんなものだろう。

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