第62話 発覚
「みんなでやることを考えていこう党」通称、「
「その話しは本当ですか?」
津路木の問いに、大使は答える。
「本当です。我が国のエージェントが掴んだ情報ですので、間違いありません。」
「その情報通りであるなら、六代政権を攻める絶好のネタになります。さっそく、予算委員会で糾弾してやりますよ。」
某国大使と共に同席していた、某国諜報機関の長から、情報をまとめた資料を受け取り、「どのように六代かなめを糾弾するか。」の手引き書を受け取って、興奮ぎみに、津路木は帰っていった。
「しかし、外部の機関の我々ですら、少し調査すれば、これだけの情報が出てくるというのに、気づかないとは。あれがこの国の野党第一党の代表とはあきれますな。」
諜報機関の長が幻滅したように、大使に話しかける。
「そうだな。奴からは、あの程度の反応しか帰ってこないことは予想はしていたが、これだけの利権が発生する重要案件なのに、目的は、政権を糾弾するだけとは。
普通に考えれば、日本政府は異世界と公式な外交を行っていることを公表していないのだから、それをタテに自分達だけであちらの中央機関とコンタクトをとり、自分たちが公式な窓口だ。というような交渉をすれば、異世界の莫大な利権を、支配下におけるというのにな。」
「六代政権は、ある程度の期間で、この情報がメディアや、野党の手に渡って、情報共有をしたうえで、発表できるように、さりげなく、情報をリークさせていた様子ですが、どのメディアも野党も全く気づかないとは・・・。」
「まあ、やむを得まい。この国の報道機関も、野党も、独自の調査機関と言うのを実質、失ってしまっているし、自分達で取材や情報収集。情報の裏取りをしようという気概もない。メディアの情報源はSNSぐらいだし、野党の情報ソースは、そのメディアの雑誌や新聞を読むことぐらいだからな。奴にしても、我々の情報の裏も取らず、こちらの作ってやった台本を、そのまま読みあげるだけだろうしな。」
「まあ、この段階では、我らが姿を見せて介入することはない。せいぜい、彼らには、この状況を引っ掻き回してくれれば、それでよい。」
◇◇◇
「ようやく、野党が情報を掴んでくれたようです。」
「やっとか。あれだけ、あちこちに情報の根をばらまいてやったのにな。」
「しかし、ソースは、某国経由のようです。」
防衛省情報本部。DIHの担当官から、<異世界>の情報が<みん考党>に渡った報告を六代は受けていた。
「情報を掴んでくれたのはよいが、某国経由とはまずいな。この情報をどんな風に活用するかのマニュアルも渡っているだろうしな。」
担当官からの報告に、彼は顔をしかめる。
当人たちは、意識していないが、<みん考党>の実質スポンサーは、某国である。
そのスポンサー国経由で、情報が伝わったということは、某国がこちらを攻め立てるネタとして、彼らを代理人として利用することに等しい。
「できれば、マスコミに情報を掴んでもらって、文○あたりで特集記事が掲載されて、それをソースに、野党が我々に対する・・・。というのが、一番よかったんですがね。」
<異世界>案件の窓口として、外務省より出向扱いの
「このタイミングで、情報を渡したのは、予算委員会でやらせるためでしょうからね。先日の〈セクハラ問題〉も、対して与党のダメージにならずに終わりましたからね。今回は、ある程度ましな<ネタ>ができて、野党一同は、今頃、プラカードづくりに大忙しでしょうね。」
以前、野党が掴んだ、某大臣のセクハラ問題とは<大臣が女性職員に、うな重の出前を注文させたのは、性交を連想させるセクハラ行為だ。辞任に値する>などという言いがかりも甚だしいネタであったが、そのネタで、半年以上も、野党とメディアは六代政権を攻め立て続けたのだ。
あまりのばかばかしさに、最初は煽り立てていたマスコミでさえ、最後は「野党はもう、いい加減にしろ。」と矛をおさめさせた。
◇◇◇
「ソーリ!これは、我が党の独自調査でつかんだ情報ですが、日本政府は<異世界>と交流しているとは本当ですか!」
国会。予算委員会で、大量の写真やボードをカメラに向けながら、みん考党随一の論客、波川としのりは、六代総理大臣に質問を投げる。
六代は、苦笑いしながら、「
この情報は、波川が国会で六代政権を糾弾するときまでどこにも言わないように。と津路木が、党員に箝口令をしいていたにも関わらず、メディアに注目されたい一部の口の軽い野党議員のみなさんのおかげで、週刊誌や各種メディアに情報はすでに出回ってしまっており、波川が指摘している事項に関しては、テレビを見ている国民には、ほぼ伝わってしまっている。
ただ、こんな突飛な話を与党が認めるかどうかの確認と言った意味合いの場が、今日の予算委員会であった。
「<異世界>には、広大な土地と、資源が豊潤にあることが予想されるそうですが、それを、我が国だけで独占してしまってよいのでしょうか!」
日本の国土も日本独自の資源も、世界中の人々と共有すべきだ。という基本思想を持つみん考党の波川が、某国のシナリオ通りに、質問を行う。
「ええ・・・、我が国の政府は、<異世界>にあると思われる代表的な機関とは、交渉はもちろん、接触すら行っておりません。現在、<偶然>異世界への扉を見つけ、日本政府とは関係なく異世界と交流を行っている、某民間会社に依頼して、これからの対応の糸口をつけようと検討中でございますので、資源や他国への情報の共有等は、まだまだ、議論にのぼるような段階ではございません。」
六代の答えに、
「そんなわけがあるかあ!」
「5年も経っていて、何ひとつ、成果がでていないなんてありえないだろう!」
「与党だけで、資源を独占するつもりではないのかあ!」
これも、某国のマニュアル通りの野次があがり、各議席では、
<資源の独占反対!異世界の資源は世界共有!>
<与党は説明責任をはたせ!>
<六代政権ひとりじめずるいよね>
等の、野党おなじみのプラカードがテレビ局のカメラに向かって上がる。
「現在、現地の民間企業に依頼して、現地へ調査、交渉に赴く準備を行っておりますので、それまで、お待ちいただければと思います。」
六代が答えて、いつものように嵐のような野次と、プラカードの林の乱立で、この日の予算委員会は終わった。
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