第27話 マイナミ商会
王都でのギルドとの交渉は、いすみと安西の2人で出向いた。
建築ギルド<アルテ>側は、ギルド長のエドガルドと、ガンボ町の支社長、ルクレード。書記役として、アウグストと名乗った、ハーフエルフの妙齢の女性が同席していた。
すでに、顔見知りとなっているルクレードが、まず口を開いた。
「君たちの仕事ぶりは、賞賛に値します。通常の2/3の工期で、あの事務所が完成しました。ゲイアサプライヤと、魔法士の手配は材工一式でしたが、人工が大幅に減ったので人件費が減り、利益率が向上しました。」
途中で離脱してしまたっため、気になっていたガンボの町の現場は、無事完工したと聞いたのはよかったが、人工が大幅に減ったということは
その表情を見て取ったのか、ルクレードがいすみに伝える。
「人足たちの支払いなら大丈夫です。イスミがドワーフ達に教えた方法で、工期が短縮され、
「そうですか。よかった。」
メテオスにも礼を言っておかなければいけないな。といすみは思う。
「今まで、いろいろな人間の現場人足に会いましたが、君たちのように他の人足のことまで気にしている者には初めて会いました。
ドワーフ達も、
メテオスも、ドワーフ達も、現場限りの<日雇い>扱いの者ではあるが、身分が確かで、きちんと労働をする者たちは、どこの世界でも貴重な財産なので、<アルテ>では、こういったケアはていねいに行うスタンスのようだ。
対して、人間たちの不真面目ぶりと、放蕩ぶりには疑問を感じるが・・・。
「ありがとうございます。本題に入る前のお話しが長くなって、恐縮なのですが、メテオスさんと言い、ドワーフのみなさんといい、真面目でお仕事に対して誇りを持っていると思います。対して、人間のみなさんの一部は、労働に対するスタンスが、基本的に違っていると感じたのですが・・・。特に、違法行為や、暴力行為に関して。」
自分たちの世界の常識で考えれば、現場。もしくは、作業に関する事案での労務者の安全確保に関しては、管理者である、ギルドが責任を持っているにも関わらず、管轄内で襲われかけたことに関しては、ギルドの責任を追及できるレベルの大問題である。
だが、直接、糾弾するのではなく、オブラートに包んで、問いかける。
ここで、ギルド長のエドガルドが話し始める。
「君たちへの危害に対しては、ルクレードに聞いている。現場を管理するギルドとしては大変申し訳なく思っている。
原因は、ほとんどの人間の労務者は、君たちと同様、レ・ブン商会から手配されたものということだ。」
「レ・ブン商会は、王都で唯一の、大型高出力のゲイアサプライヤーを扱うことの出来る商会だ。我々は顧客ではあるが、彼らのゲイアサプライヤーの供給がなければ、実質、建築工事を行うことができない。その納入条件の一環として、現場の2割の人員をレ・ブン商会から受け入れることになっている。
要するに、派遣されている連中は、仕事をしようがしまいが、給金を受け取ることができる立場の者ということだ。
そして、君たちも見たと思うが、その報酬の中の数パーセントは、レ・ブン商会の実入りになる。今回の現場で、彼らはゲイアサプライヤーの納入利益と、人足の
これは、我々側の世界でもよくある話なので、いすみも納得した。
例としては、建築家や設計者や商社といった、工事を直接請け負うわけではないが、なんらかの形で、施工者より優位な立場のものが、工務店といった、工事を直接請け負う者に対して、自分の手配の業者を、現場に入れるように求める。そして、その工務店は、紹介料という名目で、彼らにバックマージンを渡す。
それは、仕事を出してもらったり、今後、仕事を出してもらうための「お礼」だったり、今回のように、その組織でしか用意できない資材や工法を入れてもらうための条件だったりもする。
「レ・ブン商会は、ゲイアサプライヤーを扱えるだけの老舗であり、貴族とも近しい関係の力のある商会だ。先代は、建築ギルドとも友好な関係を築き、人員に関しても、選別したうえで、送ってきたので、現場のトラブルもなかった。君たちが遭遇したような非道なこともしなかった。」
「だが、先代が亡くなり、代が変わったところで、一変した。新しい会長は、ゲイアサプライヤーの納入を条件に、我々ギルドや、その配下の組織に、様々な無理難題や、
「そこで、現れたのが、我々というわけですね。」
一連のギルドの動きの話しから、概ねの状況を読み取った、安西が話し始める。
「そうだ。我々は、レ・ブン商会との関係を再構築したいと考えていた。この状態で商売を続けることは、お互いにプラスにはならない・・・。いや、このままでは、こちらが一方的に搾取されるだけの関係になりかねん。最近では、サプライヤー本体の金額に関しても、大幅な値上げをにおわせ始めていた。
そこで、聞こえてきたのが、サプライヤーと魔法士だけに頼らない、新たな工法を持っている、異国の者たちの話しだ。これを使えば、レ・ブン商会の供給する大型サプライヤーに頼ることなく建築ギルドの活動を継続することができる。」
「そして我々は、君たちが何者なのかはあえて聞かん。噂に聞いているような身分であってもだ。
それを含めて、君たちは我々に<借り>がある。それは心得ておいてくれ。」
それまでの、なごやかな口調から一変。ドスの効いた口調に変換して、エドガルドが話し始める。
高橋の捜索と救出については、無償ではなく、あくまでも、なんらかの見返りを求める<先払い>だ、と言っているのだ。
この要望については、安西もいすみも、出てくることは想定済だったので、問題ない。ただ、その<借り>をどのように返していくかで、自分たちのメリット、負うことになるリスクが変わってくる。
ここで、緊張した雰囲気を和ませるように、ルクレードが話に割り込んだ。
「まあ、ギルド長もそんなに構えないで下さい。要するに、お互いにメリットのある方法で、双方の目的を果たしましょう。ということですよ。」
「簡単に言えば、我々は、あなたたちの技術が欲しい。あなたたちは、王都に
情報収集力や機動力がない我々を無償で援助してくれたことに関しても、異存はないし、現時点で、彼らに見せている技術が、相手が求めている最大のレベルであれば、今後の対応カードは十分に残せる。
「わかりました。我々の技術が、どこまであなたたちのご要望に応えられるかはわからないですが、<我々が祖国から持ってきた、我々の祖国の技術>をできるだけ、あなたたちに伝えましょう。
ついては、今後、王都やその他の衛星都市に赴く、我々の仲間の行動の自由と、安全の保証をお願いします。」
<祖国の技術>をことさら、強調して、安西が答える。
「了解した。王都及び、衛星都市での君たちの行動と、安全面、必需品の供給については、<アルテ>が全面的に責任を持つ。」
エドガルドがこたえる。
「それとは別に、あなたたちが、巷に流れている噂通りに<コトを起こす>時には、我々<アルテ>は全面的にあなたたちを支援します。それも心得ておいて下さい。」
ルクレードは、確認するように、エドガルドの方を向き、安西もうなずく。
いすみが驚いて、安西の顔を見るが「黙ってろ。」という安西の表情に、これ以上はなにも言わないことにした。
4者はこの世界でも用いられている交渉成立の証・・・。握手を交わし、その後は、実務面での打ち合わせになった。
いすみたちは、「マイナミ商会」の屋号を与えられ、王都、衛星都市での<アルテ>傘下での行動、商売の権利を得ることができた。
「また、一緒にラジオ体操をやりましょう。とタオにも伝えておいて下さい。」
ルクレードがいすみに言って、交渉は終了した。
第一章「現調編」 完
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