第20話 ミーティング
仕事が終わったある日の夜。
町の宿屋・・・。メテオスの手配したいわゆる「街道宿屋」で、町で買い込んだよくわからない肉が入ったパイや、乾燥果実、腸詰をつまみに、エールやワインを飲みながら、3人はミーティングを行っていた。
この世界の宿屋というのは、「娯楽」として宿泊するものはほぼなく、あくまでも、旅の途中の中継地点という位置づけらしく、食事ももてなしも、工夫も気遣いもなかった。
商会が作った書面に記載されていた「メシがつく」をアテにしていったら、夕食は具の入っていない、トウモロコシのような味のポタージュスープもどきと、硬いパン、チーズが1かけらという、我々の世界からすると、すさまじく質素な食事しか出てこないので、こりゃ、身が持たん。と結局、給金を使って、食堂へ行ったり、今回のように、町で買い込んだ食材を部屋で食べる。という感じになっていた。
「まずは、この世界の現場での建築工程と必要な手配を整理しよう。」
いすみが切り出す。
① 材料を現場に運んでおく。→ 運んでくる人工と、車両の手配。
② 材料をとにかく積み上げる。→ 単純労働者を集める。
③ ある程度、材料が積みあがったら、魔法士によって、各工程で仮強化魔法をかけて、固定する。
→特殊技能者「魔法士」の手配が必要。仮のゲイアサプライヤーは魔法士が手配する「材工」扱いなので、手配は魔法士に一括でまかせればよい。
④ 組み終わったら、本ゲイアサプライヤーを設置して、建物全体に、恒久的な強化魔法をかけて、終了。
「概ね、こんな感じだな。かかるコストは、材料費、
田尾が、いすみが整理した事象を我々の世界の仕事と比較して、問題点を定義する。
「メテオスさんの話しだと、今回は<建物が完成するまで一括>っぽいすね。ゲイアサプライヤが、大分余りそうだ。って喜んでましたよ。」
腸詰をかじりながら、長谷部が言う。
いすみたちの段取りと、新たな作業の進め方。秩序をもって作業を行ったドワーフ達によって、仮ゲイアサプライヤの使用量が、用意していた半分程度で済みそうな見通しのようだ。
「当然、仮ゲイアサプライヤの分も、利益は載せているんだろうから、ローコストで考えるんなら、魔法士だけを常用で頼んで、どのくらいのゲイアサプライヤが必要か、こっちで、必要量を原価で発注して・・・。という感じになるんだが、それはあんまり気分がいいもんじゃないな。」
<常用>というのは、職人に施工の手間賃だけを払って、材料は発注者が手配するというやり方だ。
最近だと、タイル施工業者やクロス施工業者に、工事を依頼する際、材料のタイルやクロスは、インターネット等で、発注主が手配して。職人には1日働いていくら・・・。という施工費用のみを払う。というやり方だ。
この方式だと、施主は、最低限の費用しか払わなくて済むが、職人は、材料を手配することによって、「材料を売る」ことができなくなるため、最低限の実入りしか入らなくなる。
さらに、建築素人の施主や設計者が手配した材料が、現場に適合しなかったり、足りなくなった場合は、材料が届くまで、職人は「遊んで」しまうことになって、実務的には非効率このうえない。
職人が手配すれば、このようなこともないので、現場はスムーズに、工期通りに終わるし、もし、材料が現場に合わなかったり、足りなかった場合も、その分のリスクも含んでの材料もコミの受注になるわけだから、その場合は職人が責任を取る。
そういった意味でも、効く範囲、期間、効力の具合がわからない我々が、ゲイアサプライヤの手配をするのは、危険だと思われるので、今のところは「材工」で魔法士に発注するのがよいだろう。というのが、いすみの結論だった。
「あとは、今回のドワーフ達のような、効率よく動ける<職人>をいかに手配するか。だな。」
いすみたちの教練によって、ドワーフ達はもはや<作業員>ではなく、<職人>という様相を呈していた。
「あいつらみたいなチームを見つけるのってのも難しいぜ。こっちの世界でも、職人捜しか。」
と田尾が言う。
工務店は、常に自分たちの施工チームを持っているが、現場が立て込んだり、親方の高齢化等で、やめてしまうことも多々あるので、常に、新しい職人捜しを行っている。
だから、華江のやっているような事業は、工務店にとっては、なかなかありがたいものなのだ。
「いっそ、華ちゃんにこっち来てもらって、職人の選定と教育でもやってもらったら、いいんじゃね?」
「それは、考えていた。多分、彼女なら、それなりの成果を上げると思うが、まあ、まずは俺たちで動けるチームを作ることを考えよう。」
いすみも、アンズのような果実を噛みながら、田尾に答える。
「おーい!3人でなに、ごちゃごちゃやってんのさ!もう、みんな集まってるぞ!」
すでに、できあがった様子のメテオスが、ドワーフ達を従えて、いすみたちの部屋に上機嫌で飛び込んできた。
ゲイアサプライアが大分余ることが分かったあたりで、フトコロがあたたかいメテオス主催の宴が、ここしばらく、頻繁に開かれている。
ドワーフや、最近は「ラジオ体操仲間」の町の人々も時折、加わるので、かなりの払いになると思うが、この世界の飲み代が安いのか、工事用のゲイアサプライアがそんなに高価な部品なのか、その辺はまだ、いまひとつわからないが、3人はありがたく御相伴に預かっている。
いすみはメテオスに腕を組まれて、今夜も泊まっている宿屋から、道ひとつはさんだ食堂へ向かった。
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