史上最強のエンチャンター、パーティがブラックだったから独立する~俺を騙して散々こき使っておいて後から都合よく戻ってこいと言われてももう遅い。おまえらに復讐しながらハーレムを作って魔王をぶっ倒す
第41話 ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメル ソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノ
第41話 ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメル ソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノ
「――で、どうするんだ。ユウト」
ビト組の領地を出た俺たちは、ポセミトールの中で途方に暮れていた。
そして途方に暮れていた俺たちは、なにかに引き寄せられるように、繁華街にある喫茶店の、二階テラス席でくつろいでいた。
さすが都会。
人がゴミのようだ。――じゃなくて……何もいきなり、途方に暮れていたわけではない。
もちろん、俺には策があった。
ビーストだ。
ヤツの鼻は利く。いや、実際どれくらい利くかは知らないけど、まあ、人間の鼻よりは利くだろうと、思っていた。
だから、俺は麻薬犬さながら、ビーストを麻薬猫として活用しようとしていたのだが……、どうやら、この薬はビーストにも効くことがわかった。
みっちゃんの提供してくれた失楽園を、何倍にも希釈させ、タオルに染み込ませたうえでそれをビーストに嗅がせたのだが、それを嗅いだビーストの容態が、突如急変したのだ。
いや、別に廃人になったとか、本来の薬物的な症状がでたとか、そういったものではなく、またたびを嗅いだ猫のように、俺に体を擦り付けてくるようになったのだ。
「あのぅ……、ビーストさん?」
「うにゃにゃーん、にゃんにゃんにゃん……ごろごろごろ……」
ビーストは目を細め、マーキングするようにして、俺に頭や顎、背中を擦り付けている。
「おい、ユウト。どうするんだ」
「……どうするもなにも……、こいつをくっつけたまま、歩き回れないからな……。まさか、最終兵器が使えないどころか、足をひっぱる存在になるとはな……人生はほんと、どう転ぶかわからんよ……」
「……アーニャ、ユウトがなんか、いきなりそんなジジくさい事を言いだしたぞ」
「ユウトさん、若返ってください!」
「アーニャ、その励まし方もどうかと思う……て、あれ? そういえば、ユウは何も言わないのだな。ビーストがあんなにユウトにくっついてるというのに」
「うん。やっぱり猫だし。そこまでムキになる必要もないかなって……。あたしもそろそろ、おにいちゃんの迷惑になるようなことは、控えようかなって」
「……そ、そうか。じゃあ、その……紫色に変色するまで、つねっている太ももは、虫刺されかなにかなんだろうな……かゆくて仕方がないんだな」
「さて、無駄話は終わりだ。さっさと次の作戦に移るぞ」
「なんだ、あるんじゃないか作せ――」
「ぬァい! これで振出しに戻ってしまった。全くもって打つ手なしだ。ビーストがこんな調子じゃ、調査も報告もクソもないからな」
「おいおい、勝手に八方ふさがりになるな。八方ふさがるな! ミシェール殿から、これまでの売人出現場所を記した、ポセミトールの地図と、売人がこれから現れるであろう、予測をたてたポセミトールの地図、両方をもらったじゃないか。これを元に、これから張り込みをかければいいじゃないか」
「えー……、めんどくさくない? 地味だし」
「な、情けないことを言うな! ミシェールさんの頼みなのだろう! きちんとこなさないと、その……あれだ、ダメなんだぞ!?」
「よし、じゃあ、こういうのはどうだろう。四人に分かれて、その地点にはりこみをかける。それで、怪しそうなやつを見つけ次第、そいつを観察……、余裕があれば追跡だ」
「それをさっきから言っているのだが……、まあいい。やる気が出てきたのなら、そういうことにしよう」
「それで、どういたしましょう! 誰がどこに張り込みしますか!」
「ど、どうしたのだ、アーニャ……楽しそうだな」
「それはそうよ、ヴィッキー! だってわたし、いま、最高にわくわくしているのだもの!」
「理由は……まあ、聞かないでもわかるな。……よし、ユウト、さっそくわたしたちの配置を考えよう」
「甘い。……配置はもう決まってるのだよ」
「む、そうなのか? 仕事が早いのだな」
「任せとけ。ユウはここ……ポセミトールの西。麻薬取引の本命だな。ここはスラム……とまではいかないが、ポセミトールのなかでも、とりわけて治安が悪い。おまえ単独での、戦闘能力を鑑みての配置だ。文句はあるか? ないな? あるはずもないな?」
「ないよ」
「よし、じゃあ決定だな」
「いえす。まいますたぁ」
「……つぎ、アーニャは……、ここだ。東地区。ここは一番安全で、特に何も――」
「ユウトさん!」
「は、はい……なんでしょうか」
「わたしは、いちばん危険なところがいいですっ!」
「いやいや、アーニャ様をそんな、危険なところになんて……」
「ユウトさん!」
「はい」
「わたしは、いちばん危険なところがいいですっ!」
アーニャの目は、これ以上ないほどにキラキラと輝いていた。
なんというかもう、俺の言葉が届きそうにない。有無を言わせてくれそうにない。
かといって、アーニャのような、可憐な幼女を戦地にほっぽり出すほど、俺の騎士道精神は腐敗していない。
だったらどうするか。
「――じつはね、アーニャちゃん。ここは、ほんとうは、全然安全じゃなくて、ポセミトール……いや、世界で一番危険な場所なんだ。ここはもう何年も内紛状態にあって、暴力や汚い金にまみれ、それらが常時横行しているんだ。一度足を踏み入れれば最後、生きて出られる保証なんかないんだ。ほんとうはこんなところ、行かせたくないんだけど……」
「わたし、ここにしますっ!」
「おっけー、じゃあ、アーニャちゃんはここね」
――嘘をつくしかないだろう。
視線を感じ、ふと横を見ると、ヴィクトーリアが俺の事をじっと見ていた。
『よくもそんな噓八百を並べられるな』という顔で、俺を見ているが、アーニャちゃんの為だ。
そんなものは取るに足らない。何とでも言うがいいさ。
「ありがと」
しかし、ヴィクトーリアの口から出たのは、罵りの言葉でも蔑みの言葉でもなく、感謝の言葉だった。『おまえのやり口は気に食わないけど、アーニャを気遣ってくれてありがとう。大好き』という意味だろう。
「な、ちが……、だ、だだ……、大好きなど、思ってない! 勝手に脚色するな!」
大好きとは思っていなかったようだった。
「き、嫌いでもないが……」
嫌いとは思っていなかったようだった。
「……次に、ヴィクトーリアはここだ。北地区」
「嫌い区!?」
「落ち着け。ここはまあ……とりたてて説明するほどのところでもない、特徴のない地区だな。人間でいえば、中肉中背で黒い目出し帽をかぶった、黒ずくめの男で、将来の夢は強盗王――」
「特徴がないというか、むしろ特徴の塊じゃないか! 特徴の塊過ぎて、もはや無個性じゃないか! ……あれ? 無個性ってなんだっけ、特徴ってなんだっけ? なんかわからなくなってきたぞ!」
「……気が済んだか?」
「うん。ありがとう。最後はユウトだな。話の流れ的に南地区か?」
「いや、俺はここだ」
「……は?」
「俺はここを見張っているから、みんなは頑張ってくれ」
「いやいや、ここを見張るっていったって、喫茶店じゃないか。おまえは一体、何を見張るんだ? マスターのコーヒーの淹れ方か?」
「ああ、それもあるが……」
「あるの!?」
「ちがうちがう。よくよく考えてくれ。こんな状態のビーストをよ、おまえは放っておいて、なにかあったら責任取れんのかァ!!」
「ひぅ!?」
「それでも、仲間かよ!? 見損なったぜ!! まったくよぅ!」
「い、いや……それは……その……、そんなつもりはなかったんだ……」
「ああ!? 言い訳する前に、ビーストさんになにか言うことがあるだろうが! 謝罪すべきことがあるだろうが!」
「ごめ……ごめん、なさい……」
「よし、ということで、決して深追いはせず、何かあったらすぐに連絡すること! 報告! 連絡! 相談! これ、鉄則だから。わかったか!」
「ひゃ、ひゃいぃ……」
「解散!」
俺が宣言すると、全員が喫茶店から、自分の持ち場へと散っていった。
すこしイジワルが過ぎたが、まあ、大丈夫だろう。
本命はユウだし。
たぶん、売人もユウのところに現れる。
なぜかって?
勘です。
それにあいつなら、俺の言う通りに、臨機応変に対応してくれるだろうしな。
なんやかんやで要領のいい奴ではある。
でも、これでもし、ヴィクトーリアのところにいたら……、うん、たらればの話はやめておこうか。
あいつもあいつで、うまいことやってくれると思う。
問題はアーニャちゃんだけど、アーニャちゃんの場合は……逆に売人が可哀想なことになってそうだな……。
とりあえず俺は、飲んでいた『ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノ』をおかわりすべく、店員を呼びつけようと手を上げる。
「すみませー……」
しかし、俺はそこで口をつぐんでしまう。妙なものを視界の隅に捉えたからだ。
なんというか、胡散臭さマックスの男が。俺の席から机ふたつ挟んで『ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメル ソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノ』を、泥水のようにジュルルルルルルル……と、啜っていた。
何故、俺は同じ『ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメル ソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノ』を飲んでいるその男には、シンパシーを感じずに、胡散臭さを感じたのかというと、その男が目出し帽に、全身真っ黒で、ピッチピチのスーツに身を包んでいたからだ。
確かに俺も、布を顔面にグルグル巻きにしているわけだけど、さすがに、そこまで変態じゃない。
というか、なんなんだ、あのピッチピチのスーツは。
一言でいうと、すっごい気持ちが悪い。
だけど、なぜかその男から目を離すこともできない。
ホモではない。
やがて男は俺の視線に気が付いたのか、『ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメル ソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノ』を手に、俺の席、真正面へと移ってきた。
あまりの出来事に、俺は面食らってしまい、おもわず狼狽えてしまう。
「な、なんなんですか、あなた――」
「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます