Hungry Years(短編集)

作者 キタハラ

20

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★★★ Excellent!!!

キタハラさんの文章はすごく上手い。淀みなく演奏されるピアノのように過不足なく響く。冗談じゃなくて、読んでいると音楽を聴いているかと思えてくる。もしかして音楽家なんじゃないかと思う(結構真剣に)

僕が読ませていただいたところ、キタハラさんのテーマは
1 欠落した家族
2 不在で確かめる存在
3 同性愛(主にゲイ)

だ。特に、一部欠落した家族については、きっとキタハラさんが死ぬまで囚われるテーマなんじゃないかと僕は感じている。この短編集を読んでそう思った。家族について書かれた作品については、頑張ってください、応援してます…なんて気軽に言えない切迫した雰囲気を突然纏いはじめる。家族との関係性は作家の方向性をある種運命的に決定付けるのではないか、と身をもって感じた。キタハラさんの家族との関係性について、僕は何も知らないのだけど。一転、恋愛について書くと、割とお洒落な雰囲気だ。僕を上野とすると、ミッドタウンだ。僕をアフリカとすると、フランスだ。フランスで革命が起こったころ、アフリカでは象を捕まえる為に罠に仕掛けていた。火を起こす為にウホウホと5人くらいで寄ってたかって相談していた。平たく言うと、そういう違いだ。

不在で確かめる存在は、自分でも上手く言おうとして言えないのだけど、ドーナツの空間のようなものだ。もしかしたら僕が知らない、頭のいい人が死ぬ程集まってる所で熱い議論になっているかも知れない。不在を確認する事で、そこに存在する事を知る。存在するものを「あるね」「そうだねー」では、確認にしかならない。無いことを確認することで、人はそこにあった事を知るし、失われた大切なものや、好きだったものを思い出す。もちろん、そんな事ができる小説は良質なモノに限られる訳で、キタハラさんの書くものたちがつまりそれという事だ。凄い事です。お金払いたい。

3の同性愛については、ゲイ行為(僕はそ… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

10年に渡り書き継がれ、本作に収められた短編はどれも一定の水準を超えて、しかし150キロ投げられる投手が140キロで執拗にコントロールを磨いている趣があります。
おそらく、キタハラ氏における重要なテーマを長編に結実するには、それだけの修練が必要で、そして氏は「熊本くんの本棚」を物しました。

覚醒したのです。前途洋々です。
しかしキタハラ氏のような作家における前途洋々とは、必ずしも売れるとか評価されるを意味せず、比喩として「傷だらけになって」キタハラ氏における真実の言葉を今後書き紡げるということではないでしょうか。

ここまで記して、私の好む作家像、或いは幻想を氏に当てはめているだけの気もします。
けれどいいのです。

人と人は分かり合えない、その前提に立ちながらも小説を書き、何かを伝えようとする、その点は共通しているのですから。

次のお作も楽しみにしています。