第70話 彰人、親父と話す

 デュゴラを倒して、獣王と『人族との戦争を止める約束』を取り付けた俺達は、再び人族の王都マドロッコにある王城にやって来た。そして俺達は、今回も王の個室へと通された。


「おお! それでは無事に、獣人族との戦争は回避できたのだな!」


「そうだ。だが、お前達は、獣人族に、償う必要がある」


「勿論分かっておる。早急に、使者を獣人族の国へ送る予定だ」


「戦争中止の決定に、教団の信者達は、暴動を、起こさないか?」


「心配はない。教皇も、最初はショックを受けておったようだが、今は冷静に成ったのかまるで憑物が落ちたように穏やかな顔をしておった。戦争の中止にも賛成しておる」


 王はかなり素早く行動を興していた。

 これなら教団の解散も問題なく進みそうだし、獣人族との交渉もそつなくこなすだろう。獣人族関連では、これ以上俺が首を突っ込む必要は無さそうだな。


 となると、あとは俺の目的を果たしておこう。あの外道共の召喚について、教皇から話を聞くことができれば、俺の学校で起きた転移魔法についての手掛かりが得られるかもしれない。


「教皇と、話がしたい」


「よかろう。実は、教皇もお前達と話したいと言っておったので、城に呼んでおるのだ」


……


 暫くして、教皇が部屋にやって来た。

 教皇は大広場で演説していた姿からは想像できないほど、穏やかな優しい表情をしていた。


「一体、私はこの数年間、何をしておったのだろうな……」


 俺達の正面に座った教皇は、彼が『勇者教団』を設立する切欠となった夢の話から、勇者召喚に至るまでの経緯を語った。


 もし俺が十日以上も連続して同じ夢を見たとしたら…… きっと『予知夢』の能力に目覚めたと勘違いするだろう。つまり、俺でも騙されていた可能性が高いということだ。


 しかも、相手に思い通りの夢を見させた能力―― 口で言うのは簡単だが、実際には容易くできることではない。勇者召喚で異世界から複数人を同時に転移させる能力も含め、教皇を裏で操っていた相手は、想像を絶するほどの力を持った魔術師に違いない。

 能力以上に、『そいつ』の目的が全く見えないことに、より不気味さを感じる。

『そいつ』とは絶対に関わり合いたくない、というのが俺の正直な気持ちだが、そうもいかないだろう。


 教皇の話を聞いて、もう1つ分かったことがある。

 あの外道共は、クスリ漬けの影響で人格崩壊していたと思っていたが、召喚前から人格崩壊した外道だったようだ。

 これで俺は、奴らの死に全く良心を痛めなくてすんだ。


「私は勇者教団を解散するつもりです」


 まあ、それは当然だな。教皇も騙されていたとはいえ、結果的に多くの信者を騙していたことになるわけだからな。


「そして、新たな対象を信仰する宗教を興す予定です」


 おいおい! 教皇は懲りずにまだ宗教に手を染めるつもりなのか?

 また、誰かに騙されてるんじゃないだろうな? それに――


「新たな、信仰対象?」


「私は今朝、金色に輝く鳥が西の空へ向かって飛び立つ神々しい姿を見たのです。

 あの鳥を見たときに私は確信しました!

 あの鳥こそ『真の神の使い』であると!」


 金色に輝く鳥だと?


「それって、ラミオンのことか!?」


 思わずツッコミいれてしまった。


「ラミオン? それは、あの神鳥の名前なのですかな!?」


 教皇はラミオンの名前を知って、ちょっと興奮しているのか?

 口の中でブツブツと「ラミオン…… ラミオン……」と繰り返した後


「王よ! 新教団名は【ラミオン教団】に決定しますぞ!」


「ラミオン教団か…… うむ。本日をもって勇者教団は解散、そして新たにラミオン教団の設立を許可する!」


 王様…… そんな簡単に許可して、本当にいいのかよ?


 兎に角、このベトラクーテに『ラミオン教団』という訳の分からん宗教団体が誕生してしまった。



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「よくぞ、こんなに早く目的を達成してくれた! アキト、礼を言う」


 グラスコが俺に頭を下げた…… が、グラスコは俺より遥かにデカいから頭は俺よりずっと上にある。


 俺とラミオンは王城を後にして、扉を祀っている粗末な建物まで戻ってきた。


「今回は、ほとんど苦労なく、済んだから、気にするな」


「そうか。では、もうお前達の世界に帰るのだな? アキト、達者でな」


「ああ、グラスコも、元気でな」


 俺が扉を通ろうとしたとき


「マスター、このシロクマの耳と目と胸回りから手足を黒く塗ったら、パンダになると思うか?」


 ラミオンは何を言ってるんだ?

 まさか、グラスコをパンダの代わりにマスコットにする気なのか!?

 否、絶対パンダの代わりにならないし!


「ラミオン、それは無理だ。グラスコは、黒く塗ってもパンダみたいに可愛らしくならないぞ!」


 ラミオンは少し考えた後


「マスターの言う通りだ。コイツでは、リボンを付けても可愛さが足りない」


 もしグラスコを俺の世界に連れていったら、きっとグラスコは研究所でモルモットにされるだろう。ラミオンが諦めてくれて良かった。


 今度こそ扉を通ろうとしたとき


《彰人、また遊びにおいでよ。キュウちんも待ってるから》


《ああ、また来るから、キュウちんも元気でな!》


 そして、俺達は自分の世界へと戻っていった。



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



《彰人様、随分お早い帰還でしたね。無事救世主のお役目を果たされたので、またポイントが増えたと主も喜んでおります!

 それから、寛紀様もお戻りになられています》


「そうか、親父も帰ってるのか。

 さぶろう、転移のことは親父に伝えてくれたか?」


《はい。その事は寛紀様に伝えてあります》


 転移事件のことは、できれば親父に任せたい。事件の背後にいる魔術師は、もしかすると俺の手に追えないかもしれないからな。


 俺は蔵を出て親父の部屋へ向かった。


……


「成る程な…… 最近この世界では、彰人の学校で起きた転移事件のような事が何度も起こっていて、それが異世界で『勇者召喚』として連れ去られた可能性が高い、というわけだな」


「ああ。親父は転移事件について、何か思い当たることはないか?」


「そうだな…… 不可解な失踪事件が、世界中で起きているのは確かだ。俺も仕事で捜査の手伝いをしたことがある」


 何だって!?


 親父は…… 仕事をしていたのか!?

 俺は、親父は無職のプーだとずっと思っていた…… 仕事をしていたなんて初耳だ。


「だが、失踪事件の手がかりは全く掴めていない。まさか、異世界転移だったとは思いもしなかったから驚いたぞ」


 俺も、親父が仕事をしていたとは思いもしなかったから驚いた。


「となると、手がかりは彰人の見た『魔法陣』だけだな」


「でも俺は、魔法陣の模様を全く覚えていないんだよ」


「ラミオンがいるだろ? マスターの記憶が共有されているから、ラミオンに頼めば記憶映像が見られる筈だぞ」


 でも俺はラミオンに『情報のブロック』をしているから、ラミオンと記憶の共有ができてないんだよ。

 こんなことなら、『情報のブロック』をしなけりゃ良かったが後の祭りだ。それに、映像の共有くらいなら妥協できるが、浅層域とはいえ心を読まれるのは嫌だしな。


 その事を親父に言うと


「心の中だけブロックすればいいだろ?」


「えっ? そんなことができたのか?」


「彰人…… 取説は隅々までしっかり読んだ方がいいぞ」


 親父は呆れたようにそう言った。


……


「なあ、親父は異世界に行ったとき、言葉はどうしてるんだ?」


「ん? 彰人も『自動翻訳機』を持っていただろ?」


「自動翻訳機? なんだよ、それ?」


 親父は首に付けていた鎖を外して、俺に見せた。鎖には小さな球が付いている。


「この球が自動翻訳機だ。彰人も、卒業記念に美樹さんから貰っただろ?」


 そう言えば、怪しげな首飾りを貰ったが、似合わないから机の引き出しにしまい込んだ気がする。確か、俺の首飾りには『髑髏』が付いていたが…… あれが翻訳機なのか?

 美樹さん…… もう少しデザイン考えてくれよ。


 親父は翻訳機の使い方を説明してくれた。


「最初に単語と文法を登録する必要があるが、後は念話の要領で思念を送れば、勝手に翻訳して翻訳機が話してくれるんだ。声のバリエーションも、自分の声から別人の声まで色々用意できる」


「随分高機能だな」


「ああ。しかも学習機能付きだから、使っているとどんどん賢くなっていくぞ。

 この世界の言語は勿論、異世界の言語でも問題なく使えるから便利だぞ」


 デザインは兎も角、翻訳機があれば言葉の問題はかなり解消できそうだ。


 俺がニヤニヤしていると、親父が思い出したように


「そうだ、美樹さんから、お前を呼んでくれと頼まれていたんだ。ラミオンと一緒に美樹さんの研究室へ行ってくれ」


 美樹さんが呼んでた? しかもラミオンも一緒に? 何か悪い予感がするな。



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「彰人、待っていたぞ。ラミオンも連れてきたな」


 俺はラミオンと一緒に美樹さんの第1研究室へやって来た。


 部屋に入ると、美樹さんがソファーに座っていて、その前で麻衣さんが青い顔をして床の上で正座していた。


「ど、どうしたんですか…… 麻衣さん」


「このバカが、最新の特殊素材を使って『変な服』を作っていた」


 机の上に『変な服』が置かれていた。


 アッ!? それ、麻衣さんがラミオンに頼まれてた衣装だ!


「彰人、その服の材料費―― いくらするかわかるか?」


 一体、いくらするんだろう? 俺には想像もつかない。


「この服、一着作るのに約3億円―― それが4着分だ」


 麻衣さん…… 何で選りに選って、そんな高価な素材を使ったんですか?


「もう作ってしまったものは仕方ない。だが―― この服を作った目的は教えてもらう」


 美樹さんの目は普段以上に冷静だ。つまり、冷酷な殺人鬼の10倍恐ろしい。


「目的は魔法戦隊の活動のためだ」


 流石ラミオン。美樹さんに怯まず答えた。


「魔法戦隊? それは何だ?」


 美樹さんの目に力がこもる。まるでビームでも出しそうだ。


「世界平和のために人知れず活動する、正義のヒーロー戦隊だ」


 つまり、ラミオンの『ヒーローごっこ』の為に、約12億円掛かったわけですね。


 美樹さんが俺の方を向いた。間違いなく怒っている。こ、怖い……


「彰人、お前も魔法戦隊の一員なのか?」


「そうだ。マスターは予備隊員1号だ」


 ラミオン! 頼むから、変なツッコミ入れないでくれ。これ以上美樹さんを怒らせたら、俺の命がヤバいことになる。


「そうか…… なら、彰人の戦闘データもしっかり記録しておいてくれ」


 美樹さんはそう言うと、ソファーから立ち上がった。


「木崎―― お前は全員の戦闘データを死ぬ気で分析しろ。12億はお前の借金に付けておく」


 美樹さんは研究室から出ていった。


 助かったのか?

 俺は全身から冷や汗が流れていた。


「借金だけですんで良かったわ…… 絶対殺されると思った」


 正座していた麻衣さんが、足を擦りながら起き上がった。


「麻衣さん…… 12億円の借金って、大丈夫なんですか!?」


「大丈夫大丈夫。12億くらい、3年で返すわよ」


 麻衣さん、一体給料幾ら貰ってるんだ?

 俺も研究所に就職したくなった。

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