第69話 彰人、伝説の魔獣と戦う
王都から近い場所にある【パンドル山】の上空に現れた魔獣――
漆黒の胴体からつき出す2本の長い首の先には、蛇のような頭が付いていて、それぞれの蛇は口から炎を吐いている―― 何とも禍々しい姿だ。
だが、今のところ、魔獣は空中に浮かんでいるだけで攻撃してくる気配はない。
伝承の魔獣は、神獣と神の使いに退治されたはずだし、あの魔獣は伝承にある魔獣とは関係ないのかもしれないな。
「獣王様。伝承の魔獣は退治されたのではなかったのですか?」
馬車から降りてきたサーベラが、空に浮かぶ魔獣を見ながら獣王に尋ねた。
「伝承では、神の使いは魔獣に止めを刺さずに『パンドル山の地中に封印した』と伝わっておる」
「どうして神の使いは、止めを刺さなかったのですか?」
「止めを刺さなかった理由は、儂にも分からぬ。
ただ、神の使いは『35万日後に魔獣の封印は解ける』というお告げを残し、何処かへ去ってしまったのだ。
それで、我らの祖先は968年前に王都をパンドル山の側に移し、魔獣の復活に備えることにしたのだ」
「パンドールへの遷都は、魔獣対策のためだったのですか?」
「そうだ。魔獣の封印が解けた後、すぐに魔獣を攻撃できるように―― という理由から王都を移したのだが、まさか今日が封印の解ける日だったとはな……」
そんな昔から魔獣対策をしていたのなら、魔獣を倒す手段も準備できている筈だな。
「じゃあ、今すぐ、攻撃したほうがいいぞ」
「ところがだ! 封印が解けるのは、まだまだ先のことだと思っておったから、対空攻撃の手段は全く準備できておらんのだ。フハハハハハ!!」
おい! 準備できてないのかよ! それなのに、コイツは何呑気に笑ってるんだよ……
「マスター、アレは【厄災の魔獣デュゴラ】だ」
「ラミオン、あの魔獣のことを知ってるのか?」
「デュゴラは【世界を破滅に導く物】と言われ、世界にとって最も危険な存在の1つだ。ラミオンは、デュゴラを発見したら最優先で排除するように、と創造主様から言われていた」
厄災の魔獣デュゴラか…… 名前を聞くだけでヤバイのが分かるな。
そうなると、余計に止めを刺さずに封印した理由が気になる。
「ラミオン。何故ヤツに止めを刺さずに封印したのか、理由は分からないか?」
「それはラミオンにも分からない。が、今のデュゴラは、本来の3分の1以下の力に抑えられているようだから、倒すなら今がチャンスだ」
まだデュゴラの封印は完全には解けていない。恐らく封印の効力が弱まったことで、強引に地中から出てきたようだ。
とはいえ、封印が完全に解けるのは時間の問題だろう。
「お主らに、あの魔獣の退治を頼んでも構わぬか?」
獣王は俺達に『魔獣退治』を依頼してきたが、頼まれなくてもデュゴラの退治はするつもりだ。
「勿論だ。俺とラミオンで、あの魔獣を、退治しよう」
俺は獣王に返事した。
「それは有り難い! のだが…… 済まぬが、いい加減右手を離してくれんか」
……
ラミオンは第2形態へと変身する。
俺がラミオンに乗ると、ラミオンは魔獣に気付かれないように急上昇し、雲の上まで出た。
「ラミオン。ヤツに弱点はあるのか?」
「デュゴラの背中―― 羽の付け根の所を破壊すれば、魔力回路を狂わせることができるはずだ。
デュゴラの最も厄介な能力の【再生】を使えなくするために、背中の魔力回路を破壊する必要がある」
狙いは背中の羽の付け根か!
ラミオンは、急降下してデュゴラの背中を攻撃する気だ。俺も同時にデュゴラの背中に棍を叩き込むぞ!
「マスター、行くぞ!」
ラミオンは真下に向かって急降下する!
デュゴラの姿は、ゴマ粒くらいの大きさにしか見えない。
更にラミオンのスピードが上がる!
デュゴラの姿が段々と視認できてきたが、デュゴラはまだ俺達に気付いていない。
俺は棍を握る手に力を込める。
デュゴラまで500m―― という所で、ラミオンがいきなり第3形態に戻った!?
ラミオンは『天使形態?』に変身―― 翼を広げて上空で停止し、攻撃体勢を取った。
そして俺は…… そのままデュゴラに向かって落下する。
まさかラミオンは、俺ごと攻撃するつもりなのか!?
ラミオンから発射された光の束が、俺の後ろから飛んでくる!
俺は空中でそのビームを必死に避けた。
ドーン!!
ラミオンのビームがデュゴラに命中した!
ギャオオオォォォ!?
デュゴラは苦しそうな鳴き声を上げたが、倒すまでには至らなかった。
デュゴラの2つの頭が俺の方を向く―― 絶対に俺が攻撃したと思っているぞ。
頭から真っ逆さまに落下する俺は、無防備で完全にヤバイ状況だ。
デュゴラの背中には、その巨体に似合わない昆虫のような透明の羽が付いていた。
その透明の羽が光り、同時にデュゴラの2つの口が大きく開いた!
2本の熱線が落下する俺に向かって飛んでくる!
バシッバシッ!
俺は空中で棍を振って、2本の熱線を防いだ。
熱線の威力はラミオンのビームと比べると大したことはなかったが、本来の威力はコレの3倍以上だと考えると、危険であることに間違いない。
俺は落下する―― どんどんデュゴラが大きく見えてくる。デュゴラの羽がまた光りだした。そして、今度は2つの口から炎が吐かれた!
俺は炎に向かって真っ直ぐ落下中―― この炎は避けられない。
俺はそのまま炎の中を突っ切る覚悟を決めた! そのとき――
ヒュン!
俺の横を猛スピードでラミオンが通り過ぎ、炎の中へ突っ込んだ。そして、そのまま――
ドカッ!!
ラミオンはデュゴラの頭を殴り飛ばし、炎の向きが俺から反れた。
ラミオン、ナイスだ! 俺は落下の勢いのまま、デュゴラの背中に向かって棍を伸ばした!
ドゴッ!!
棍がデュゴラの羽の付け根に命中する! そして、同時に霊気を一気に叩き込んだ!
手応えあり! デュゴラの魔力回路に大ダメージを与えたはずだ!
ギャオオオォォォン!? 凄まじい絶叫を上げる2匹の蛇。
だが、攻撃はそれで終わりじゃないぞ!
ラミオンが追い打ちのビームを撃つ!
ドーン!!
ギャオオオォォォン!? 再び2匹の蛇から悲鳴が上がり、羽の動きが完全に止まった。
デュゴラはゆっくりと墜落しだした……
……
「獣王様! 魔獣が落ちてきます!」
「ウム! 全軍、魔獣を包囲し攻撃するのだ! 絶対にここで仕留めるのだ!」
オオオォォォォ!! 獣王軍の兵士達は、掛け声と同時に墜落するデュゴラに向かって走り出す。
ドドドーン!!
デュゴラは地面に激突し、大地を揺らした。
……
俺は墜落したデュゴラの上に着地した。
よし! デュゴラの背中の魔力回路は完全に破壊したぞ!
これで再生能力は使えなくなったはずだ。
下を見ると、獣王軍の兵士達が次々とデュゴラに攻撃を仕掛けている。
まるで、ピ●ミンが巨大な敵キャラを攻撃しているようだ。
グガアアアァァァ!!
怒ったデュゴラの2つの頭が、地上の獣王軍に向かって熱線を吐く。
ドゴーーン!!
あちゃ…… 獣王軍に結構な被害が出たようだ。蜘蛛の子を散らすように、獣王軍の兵士達はデュゴラから離れていく。
デュゴラの2つの頭が、再び熱線を吐こうとしたその瞬間―― 俺の頭の上から強力なエネルギー反応がした!
「ラミオン・ライトニングシャワー!」
声と同時に、無数のビームがデュゴラ目掛けて降ってきた。
デュゴラの背中に乗っている俺のことも、少しは気にして欲しい……
ギュゴオオオォォォ!?
デュゴラは、全身を無数のビームに貫かれ、大ダメージを受けた!
俺も危うく巻き添えを食らいそうになったが、デュゴラから飛び降りて、なんとか流れ弾を受けずにすんだ。
これはもしかして、デュゴラの『討伐完了』したんじゃあ!?
そう思ったのも束の間…… 俺は、デュゴラの体内エネルギーが大きく膨らむのを感じた!
あっ!? これ、ヤバイやつだ……
……
ラミオンが俺の横に着地する。
「マスター、デュゴラは自爆するつもりだ」
やっぱり、そうか……
「爆発の威力は『ラミオンバスター・ワイド』の1.5倍以上だ」
それ、ヤバすぎだろ!? この辺一帯どころか、下手すりゃ世界の大半が消滅するぞ……
もしかすると、『こうなること』を予測したから、千年前はデュゴラを倒すことを諦めて封印することにしたのかも……
「ラミオン、爆発までどれぐらいあるか分かるか?」
「爆発まで、推定120秒だ」
2分か…… それじゃあ、俺とラミオン以外は避難することも無理だ。
万事休すか……
「マスター、ラミオンのマスター試験で使った『あの技』を今使えるか?」
「ああ。アレなら爆発を防げるとは思うが、それにはデュゴラの全身を何かで包み込む必要があるんだ」
「わかった。ラミオンがデュゴラの全身を包むから、マスターは『あの技』の準備をしておけ」
えっ!? デュゴラの全身を包めるような大きな袋を、ラミオンは持っているのか?
って考えている場合じゃないな。
俺は全力で霊気を溜めることに集中することにした。
……
「マスター、準備ができたぞ」
1分程でラミオンが戻ってきた。
俺の前には、裸のラミオンが立っていた。
そして、デュゴラを見ると―― 巨大な風呂敷に包み込まれていた。
「ラミオンの服を変形させた」
ラミオンの服って、こんなこともできるんだな。
「よし! 俺の準備もできているぞ!」
俺は巨大な風呂敷の前に立ち、全力で風呂敷に霊気を送った!
「神明流奥義―― 絶界!」
……
一体、どれくらいの時間『絶界』を張り続ければいいんだ?
風呂敷の中の様子が分からないから、兎に角俺は30分以上、風呂敷に霊気を送り続けている…… 流石にもう大丈夫だよな?
爆発が外に漏れている様子はない。
『絶界』は完全に爆発を封じ込めた! 筈だよな…… 多分……
――――――
神明流奥義『絶界』――
かなりの体内霊気を消費する技だが、絶界の張られた空間内は、外部からの干渉を完全に遮断する。そして、その強度はラミオンバスターでも破壊できないほどだ。
――――――
俺は絶界を解除した。
すると、デュゴラを包んでいた風呂敷が力なく萎んだ。
ラミオンは風呂敷を回収し、服に戻した。
すると、服の中から直径20cm程の大きさの『紅く煌めく球』が出てきた。
「ラミオン、それは何だ?」
「マスター、これはデュゴラの【魔核】だ。これはラミオンが預かっておく」
そう言うと、ラミオンは魔核を胸の中にしまい込んだ。
「あの魔獣は倒したのか?」
声を掛けてきたのはサーベラだ。
「ああ。魔獣は、完全に、消滅した」
「そうか! 獣王様がお前達に話があるそうだ。付いてこい!」
……
再び俺達は、獣王の乗る馬車の中に入った。
「此度のお主らの活躍、見事であった。獣人族を代表して礼を言う」
獣王が俺達に頭を下げる…… といっても、デカすぎて頭は俺達よりもずっと上にあるが。
「お主らには今回の褒美を遣わせる。何なりと申すが良い」
ラミオンは全く興味なさそうだ。俺も特に欲しい物はないが
「褒美は、物でなくても、構わないか?」
「勿論構わぬぞ! 何なりと申すが良い!」
「人族との、戦争を、止めて欲しい」
獣王のこめかみがピクリと動いたように見えたが
「良かろう……」
「獣王様!? よろしいのですか!?」
サーベラは驚いて獣王を見る。
「構わぬ! 獣王に二言はない!」
そして、獣王は俺を真っ直ぐに見ながら話しだす。
「勘違いするでないぞ。戦争は中止するが、だからといって我ら獣人族が人族の行いを許したわけではない。再びあのようなことが起これば、次は確実に人族を攻め滅ぼすだろう!」
「分かっている。だが―― ありがとう」
俺は獣王に礼を言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます