第68話 彰人、獣王と会見する

 今俺とラミオンは、虎女サーベラと一緒に獣王の乗る巨大な馬車の中にいる。

 そして、俺達の前に座っている獣人が獣王だ――


 サーベラは、ラミオンの「パンダは仲間」という言葉を信じたわけではないようだが、それでもラミオンを怒らせるのは危険だということは理解したようで、ラミオンの要求通り俺達を獣王の元まで連れて行ってくれた。

 それでも正直、俺は獣王に会うのは難しいと思っていたが、獣王自らが俺達に馬車に乗るように言ったのだ。


「お前は『パンダ』ではない!」


 獣王を見たラミオンの第一声は『それ』だった。


「キサマ、獣王様に向かって何という無礼なことを!?」


 サーベラは剣を抜こうとする…… コイツ、短気過ぎだろ。ラミオンに勝てるわけないのだから、少しは冷静になれよ。


「フハハハハハ!! サーベラ、構わぬ!」


 ラミオンの言葉に豪快に笑う獣王。流石は獣王―― 器がでかい。

 そして、笑い声まででかいため、俺の頭に響く。


「ラミオンとやら。何故儂が『パンダではない』と思うのだ?」


「決まっている。パンダは可愛いが、お前は可愛らしくない!」


「キサマ! またしても獣王様に向かって、無礼であろう!」


 サーベラは怒りを露にしてラミオンを睨み付ける。


「フハハハハハ!!」


 再び豪快に笑う獣王。

 そして、またしても俺の頭の中に笑い声が響き渡る。サーベラは耳を折り畳んで声を防いでいた。


 確かにラミオンの言葉は無礼であるが、言ってることは正しい。

 目の前の獣王はパンダではない。身長4m以上ある巨体に長い鼻―― どこから見ても『象』だ!

 もっとも、『パンダ』というのは獣王の名前らしいから、見た目が象でも仕方ないのだが、象の名前にパンダとつけるセンスは、犬に『ネコ』と名付けるようなものだ。

 もしかすると、獣人族的キラキラネームなのかもしれない。


「ところで、お主らはこの世界の人族ではないであろう?」


 獣王の質問に不意をつかれ、俺は驚いた顔を晒してしまった。


 獣王は、俺達が異世界から来たことを知っているのか? 一体どうやって、そのことを知ったんだ?


「それに―― ラミオンとやらは、人ではあるまい?」


 まさかラミオンの正体にも気付いているのか!? 恐るべし獣王……


「あんたは、ラミオンのことを、知ってるのか?」


「そんなに不思議がることはない。王家に伝わる伝承の中に『神獣と神の使い』の話があるのだ」


『神獣と神の使い』の伝承? どこかで同じような話を聞いたような……


「それは、いつ頃の話だ?」


「その伝承が記されたのは、千年近く昔のことだと聞いておる」


 もしかして、大昔にラミオンがマスターと共にベトラクーテへ来たということか?

 そういえば、エシューゼにもラミオンとマスターの伝説があったし、ベトラクーテにも来ていたとしても不思議ではない。


「獣王様。その伝承がこの者達と何か関係があると仰るのですか?」


「サーベラ、考えても見よ! 只の人族の幼子おさなごに、河馬族の兵士を退ける力があると思うか? 否、人族の中にそのようなことができる者などおらぬであろう」


 まあ、その通りだ。あの外道勇者共は分からないが、それ以外のモブ兵士達では、あの河馬兵士に全く歯が立たないだろう。


「確かに…… しかし獣王様、その『神獣と神の使い』とは一体……」


「その伝承は王家にしか伝わっておらぬ故、サーベラが知らんのも無理はない。

 だがサーベラ、お前も【ベゲーヌ火山の大噴火】のことは知っておろう?」


「はい。それは約千年前に起きた大災害のことでございますね」


 俺とラミオンをほったらかして、獣王はサーベラに『ベトラクーテの昔話』を語りだした。


――――――――


 話は、約千年前―― 獣人族の領内にあるベゲーヌ火山が、歴史的な大噴火を起こした時のこと。


 当時の獣王とその部下が、噴火の調査に出向いたところ、火山の上空に禍々しい姿をした魔獣を発見した。

 魔獣は炎を吐き、火山の活動を促していたのだ! 火山の噴火は自然災害ではなく、その魔獣によるものだった!


 調査隊は魔獣の討伐を試みようとするも、燃え盛る火山に近付くことも敵わない。


 このままでは、獣人族の多くの町がマグマに呑み込まれてしまう!


 どうすることもできず、絶望に打ちひしがれながら魔獣を見ていた一行……


 その時彼らの前に、人族の幼子と大人の女性と思われる2人組が現れた。

 2人はその場にいた調査隊の横を通り過ぎ、そのまま燃え盛る火山を登っていったのだった。


 調査隊は2人の放つ底知れぬ気に圧倒され、黙って2人を見送ったが、突然その幼子が金色に輝いたかと思うと、見たこともない『獣』に姿を変えたのだった。

 もう1人の大人の女性がその金色の獣に跨がると、獣は空高く舞い上がり、魔獣に向かって突っ込んでいった!


――――――――


「空中では、この世の物とは思えぬ不可思議な力による激しい戦闘が、数日間に渡り繰り広げられ、魔獣は退治されたという。

 そして、火山の噴火も鎮まり我らは救われたのだ」


「そのようなことが、本当に在ったのですか!?」


「そうだ。だから儂はその幼子を見て、ピンときたのだ!」


「まさか獣王様は、この者達がその『神獣と神の使い』だと仰るのですか!?」


 サーベラは胡散臭げな目で俺達を見る。

 そんな話、簡単には信じられないわな。


 だが、これはチャンスだ! ラミオンをその『神獣』だと思わせることができれば!


「ラミオン。第2形態に……」


 俺が言うより早く、ラミオンの背中から、金色に輝く大きな翼が現れていた!


 そのラミオンの姿は、まるで天使のような神々しさを感じるものだった!

 っていうか、ラミオン―― そんな変身ができたのか!?


 俺は勿論、サーベラもラミオンの翼を見て驚いている。そして獣王は、予想通りという感じで頷いていた。


「驚いたか、マスター。ラミオンの服を翼の形にして魔力を通した。

 この翼は魔力操作でラミオンだけなら飛ぶことも可能だ。ネットで見つけた情報から思い付いた」


 そりゃ、凄く便利だね。第2形態に成らずに飛べるって、もう何でもありだね…… って、こんな能力がネットの情報で得られるのか?


「ところでお主らは、何のためにここへ来たのだ?」


「パンダをラミオンの仲間にするためだ!」


 そうそう。パンダを仲間にするために来た…… じゃないだろ!

 俺達は獣人族と人族の戦争を止めるために、話し合いに来たんだぞ!


「儂をお主の仲間にするため? それはどういうことだ?」


「違う! お前は仲間にしない。ラミオンに必要なのはマスコットキャラだ!」


 えーっと、ラミオンさん? それは何のために必要なんですか?


「ラミオン……『マスコットキャラ』が、何故必要なんだ?」


「マスター、分からないか? 魔法戦隊には『癒し系のマスコットキャラ』がいなければならない。そして、マスコットには『会話ができるパンダ』がベストだと『桜』が言っていた」


 まさかと思うが、ラミオンが獣人族を守ろうとしていたのは、パンダを仲間にするためなのか? 獣人族を気にしていたのは、パンダを探していたから?


「お前達の中に『パンダ族』はいないのか?」


「その『パンダ族』とは、どのような姿をしておるのだ?」


「白ベースで耳や目の周りや首の所が黒で、体つきはコロコロしているこんな獣人だ」


 ラミオンはそう言うと、空中にパンダの映像を出した。


「サーベラ、このような姿をした獣人族の者を知っておるか?」


「いえ、私は存じません」


「本当にパンダ族はいないのか?」


「ウム。残念だが、この世界にはおらぬな」


「そうか。なら仕方ない。マスター、もうこの世界に用はないから帰るぞ」


 ラミオン…… 俺達はパンダを探しにきたんじゃないぞ。


「違う! 俺達は、獣人族と、人族の戦争を、止めに来た!」


 その瞬間、馬車の中の空気が一変した?


「お主…… 今、何と申した……」


 あれっ? さっきまでフレンドリーに笑っていた獣王が…… プルプルしている?


「ぶわっかものがアアアァァァ!!」


 いきなり、獣王の右腕が振り下ろされた!


 ドゴン!


「なっ!? 獣王様の『獣王痛恨撃』が片手で防がれた!?」


「ヌグググ…… ぬ、抜けぬ……」


 獣王は必死に掴まれた右手を抜こうとするが、俺の話を聞いてくれるまで、掴んだ右手を離す気はない。


「落ち着け。俺に、争う気はないから、俺の話を、聞いてくれ」


「ぐおおお…… 離せ……」


「よし、話すぞ」


 俺は獣王に、ニャコンを襲った外道勇者共が死んだこと、それによって獣人族との戦争を企んだ教団の力が今後衰えることを、できるだけゆっくりと丁寧に話した。


「ぐおお…… は、早く離せ……」


 ちょっとゆっくりと話しすぎたようだ。俺は話すスピードをアップする。


 教団の嘘に気付いた人族の王が、戦争を止めるために動き出そうとしていること、教団に騙されていた人々の洗脳も解けることも話した。


「さっさと離せ!」


 何!? これ以上話せと言われても、人族側の事情は殆ど話したぞ。他に何を話せばいいんだ?


「だ、だから…… さっさと手を離せと言っておるだろ!」


 そうか! 獣人族と人族とが話し合うには、どうすれば良いか―― その方法を話せということか!


 王同士の会見の場を設ける必要があるな。

 教団を解体させ、人族から獣人族の被害に対する謝罪と賠償をさせることを考えなければならない。それでも、獣人族の怒りを鎮めるのは難しそうだ。

 色々と難題が見えてくる……


「済まんが、簡単には、話せそうにない」


「簡単に離せるだろ!」


 獣王め…… 簡単に話せるわけないだろ!

 俺に無理難題を吹っ掛けてくる。


「頼むから、そろそろ離してくれ……」


 いきなり泣き落としに変わったが、俺にもまだ『良い手』は浮かんでないからな……


「まだ、話すのは、無理だ」


「何故だ! 儂の手を掴んでおるその左手を離すだけだろ!」


 獣王が叫んだその時だった!


 突然地面が大きく揺れた!


……


 地震か?


 否、これは普通の地震じゃない。

 何かが地中から出てこようとしている!?


 ドドドババーン!!!


 大きな音が聞こえたと同時に、凄まじい力の塊が空に上って行くのを感じた。


「獣王様!」


 馬車の外から兵士の慌てた声がする。

 俺は直ぐに馬車の外へ出る。


「頼むから右手を離してくれエエェェェ!」


 獣王の絶叫が後ろから聞こえた!


 そして、俺は見た―― 体長20m程の真っ黒な双首の怪獣の姿を!


「ま、まさか…… あれは伝承にある魔獣では…… そうか…… 今日が『封印の日』から『35万日目』だったのか!?」


 獣王は上空に浮かぶ双首怪獣の姿を見ながら、そう呟いた。

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