第58話 彰人、2人組に襲撃される

 傷心の俺は、すぐにでも鬼追村を離れたかったのだが、美樹さんに呼び出されたので、仕方なく再び『美樹第2研究室』にやってきた。


 そこには、さっきのダンディオヤジと和真かずまの2人もいた。

 ダンディオヤジは『間藤まとうすばる』という名前らしい。


 そして間藤は、俺にあの『禿男』のことを語り始めた。


―――――――


『禿男』は、『暗殺者アサシン』という異名を持つ世界を股に掛ける殺し屋であったが、ここ数年はアサシンの仕事と思われる要人暗殺事件はなかった。


 アサシンが能力者であることは裏社会の常識で、間藤達も当然知っていたが、奴の姿や能力は全くの不明で知る者はなかった。


 しかし、今から3年前―― アサシンはある暗殺依頼を実行したとき、傷を負った。

 その傷は、アサシンのターゲットだった人物の護衛によって付けられたのだ。


 その護衛は勿論能力者だった。

 その能力者のおかげで1度はアサシンの襲撃を阻止したのだが、結局その能力者が護衛を離れた後にターゲットは殺された。


 しかし、その時の傷からアサシンの血液の採取には成功したのだった。


 そして、アサシンはその仕事を最後に裏社会から姿を消したのだった。


―――――――


「そして、アサシンに傷を負わせた護衛が、この俺『間藤昴』――」


「ではなく、SMCO所属の【番犬】こと【ポチ】だ」


 和真が間藤の言葉を遮って答えた。


「ポチ? 犬みたいな通り名だな」


「ああ、犬だからな。アサシンも、まさか護衛が犬とは思わなくて油断したんだろう」


 そうか、犬なのか…… SMCOという組織名にはなかなかなセンスを感じたが、犬がメンバーとは相当ショボい組織で間違いなさそうだ。少なくとも俺はこんな組織には絶対に入りたくない。

 しかし、それ以上にあの『禿男』がそんな有名な暗殺者だったということの方が、もっと信じられない。


「まさかS市に潜んでいたとはな……」


 間藤の呟きに美樹さんが応える。


「調べてみるとアサシンの手口にそっくりな事件が、S市で何件か起きているな。

 被害者が大物ではなかったから、アサシンの仕業とは思いもしなかったが……」


「そうなるとアサシンに仕事を依頼した者がS市にいる、ということになりそうだな」


 間藤の言葉に和真も頷いている。


「ところで彰人。お前はどうしてアサシンと接触したんだ?」


 そういえば、何であいつは俺の部屋を覗いていたんだ?

 どう考えても、俺にはあいつがその有名な暗殺者ではなく、只の覗き趣味の変質者としか思えないのだが……

 とりあえず俺は、今朝からの『禿男』とのやり取りを、思い出せる限り話した。


「アサシンがターゲットの行動を監視している―― その噂は聞いたことがある。

 だが、アサシンの監視に気付いた者がいなかったから、噂の真偽は分からなかったが、事実だったということか」


「つまり、俺が『暗殺のターゲットだった』ってことか!? おいおい冗談でしょ?

 俺はつい2日前までS市に行ったこともなかったんだぜ! 誰が俺を殺そうと思うんだよ?」


「彰人、よく思い出せ! 本当に誰ともトラブルを起こしていないのか?

 何か恨みを買うようなことがなかったか?」


 美樹さん、顔をそんなに近づけられると今でも怖いです……


 それにしても…… 俺、何かトラブル起こしたかなぁ?

 トラブルといえば、高校を停学させられたことくらいしか思いつかない。


「そういえば、あいつ――『骨河が同類』とか何とか言ってたな」


「骨河? 誰だそいつは? 和真、調べられるか?」


「ちょっと待ってください。データサーバーにアクセスします。

 有りました『骨河猟兵』―― ランクDの超能力者ですね」


「そいつがアサシンと何か繋がりがあるのか?」


「いえ、それはなさそうです。ですが骨河の名前が出たということは、依頼者の方と関係がある可能性があります」


「なるほど、アサシンの依頼者との繋がりが見つかる可能性があるな」


 間藤と和真の2人は何かを考えているみたいだが、骨河の関係者なら『アイツ』で間違いないだろう。

 俺はスカルギャングの連中を平和的に脅して、俺に『付き合いたい』と言ってきた『危ない男』の情報を聞き出していた。


「『郷山』という奴が、俺に骨河をけしかけてきたぞ」


「郷山? ま、まさか!? 『郷山グループ』の郷山か!?」


「郷山グループか…… 間藤、えらい大物が裏に見えたな」


「ああ…… 美樹、お前にも協力して貰うぞ。

 しかし、あの【郷山ごうやま剛満たけみつ】が『暗殺者アサシン』を雇うとは信じられないな。あの男は、超一流の経営者で一本筋が通った人物だと思っていたが……」


「確かに、傑物だと聞いていたが、裏では『そういうこと』もしていたのかもしれんな…… まあ、そこを調べるのは間藤―― お前の得意分野だろ」


「そうだな。和真、すぐに裏を取れ! 任せたぞ!」


 いつの間にか俺だけ蚊帳の外になっている。


 あのー、俺、もう帰ってもいいんでしょうか?


 気が付いたら、第2研究室には俺だけしか残っていなかった……



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 結局、第2研究室に置き去りにされた俺は、これ以上は研究所ここでやることもないから、S市のマンションに帰ることにした。


 俺が研究所の中庭に出ると、2人のラミオンがいた。

 2人は何かを言い合っているようだ。


「ガンマ。お前のマスターは大したことない」


「イプシロン。確かにマスターは、お前のマスター程の力はない」


「あれで、付いて来れるのか?」


「今は無理だ。だが、マスターには大いなる可能性がある」


「可能性は感じるが、何年かかるか分からない」


「マスターは、イプシロンのマスターのDNAを継いでいる。数年後には十分通用するようになるはず」


 どうやら、親父のラミオンが俺をディスって、俺のラミオンが俺を擁護しているようだ。

 あのラミオンが、俺の肩を持ってくれている。

 何の話か分からないが、それでも俺は嬉しいぞ!


「それに、マスターはラミオンのマスター試験に合格している」


「そうか。ラミオンのマスターは、マスター試験をする必要もなかった。見ただけで合格だった」


 親父はマスター試験を受けることなく、ラミオンのマスターにさせられたのか。

 流石だな…… でも、全然羨ましくない。


「それに、悠長なことは言っていられない。ガンマも、ベータが起動していることに気付いているはず」


「ん! ベータもマスターに出会えた」


「あと起動していないのは、アルファとデルタ。あの2人が目覚めたら……」


 ラミオンが俺に気付いたようだ。2人の会話が止まった。


「マスター、良いところにいた。これから麻衣の所に行く」


「麻衣さんの所? 何をしに行くんだ?」


「マスター、気付かないか?」


 あ! ラミオンの衣装がいつもと違う。


 色が赤ベースに白い線の入った物に変わって、胸元には大きなリボンが付いている。

 そして、イプシロンも緑の同じような衣装になっていた。


「ラミオン。衣装が変わっているようだけど……」


「マスター、気付いたか。情報収集の賜物だ」


 そう言って、ラミオンは事細かく変化した部分の説明をしてきた。色が変わったことは分かるが、大半は俺にはチンプンカンプンだ。


 そうか、ラミオンは衣装を自分の意思で変化させられるのか。

 便利だね。俺にはどうでもいいけど……


 ていうか、ラミオンの『情報収集』って衣装の情報だったんだ!


「美咲と桜がラミオンの衣装を気に入ってたから、麻衣に頼んで黄色とピンクの衣装を作ってもらうことにする。マスターの分も頼んでほしいか?」


 美咲も桜ちゃんもラミオンみたいな衣装が好きなのか。そうかそうか。


「ラミオン。俺はそんな可愛い衣装を着たくないぞ」


「マスター、安心しろ。この世界では『可愛いは正義!』だ」


 確か、そんな決め台詞の魔法少女物のアニメがあったような……


「男が着ると、それは『悪』になるんだよ」


「魔央には青色の衣装を作ることにした」


 えっ!? 魔央さんもラミオンみたいな衣装を着るのか!?


 それは是非見てみたい。


「それで、衣装が揃ったら【魔法戦隊】を結成する」


 赤に青に黄に緑にピンク―― しっかり押さえているな。


「ところで、参考までに聞かせてもらうが、俺の衣装は何色の予定だ?」


「決まっている。透明だ」


 えっ!? それって丸見え?


「マスターは、マスターのコレクションのような『裸』が好きに違いないと魔央が言っていた」


『裸』―― ええ、好きですとも。そりゃもう、大好きですよ!


 でも、それは『女性限定』だ! 自分がその衣装を着るのは、絶対にゴメンだ!


…………


『美樹第1研究室』には、麻衣さんがいた。


「ラミオンちゃんみたいな衣装、研究室の特殊素材で作っておくわね。

 サイズはわかるかしら?」


「青色は、身長175cmでB92―W58―H89だ」


 ラミオン、ナイスだ! 俺は魔央さんの3サイズをしっかり頭に刻み込む。


「むっ! 凄いナイスな体型ね…… 羨ましいわ」


 麻衣さんもそう思いますか。


「黄色は、身長155cmでB……」


 俺は美咲のサイズに興味なかったので聞き流した。


「ピンクは、身長1……」


 そのデータも不要。


「最後に透明の衣装を作ってほしい。身長17……」


 ん? それってまさか?


「透明? 光学迷彩ということかしら? それに、女性にしては珍しいサイズね」


「マスターのだ。マスターも欲しいらしい」


 いやいや。俺は『いらない』と断ったはずだが。

 麻衣さんがジト目で俺を睨んでいる。


「ち、違います、俺は断った! ほ、本当ですよ。麻衣さん、信じてください!」


「まあ、いいわ…… 兎に角、全部完成するのは2週間後ね。ラミオンちゃん、期待しておいて!」


「麻衣は、魔法戦隊研究所長に任命する」


「ふふふ。所長―― 良い響きね。喜んで務めるわ」


 麻衣さんがニコニコしている。麻衣さん、そんなに子供好きだったのか?

 それにしては、美咲や桜ちゃん達には、そんな顔をしていない気がするが。


「やっぱり、『自動人形オートマタ』って最高ね」


 俺は、麻衣さんの呟きを聞き漏らさなかった。



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 S市のマンションに帰ってきた。


 俺は、早速部屋にカーテンを取り付けた。

 このカーテンは研究所製で、銃弾は勿論、その辺のレーザーガンでも穴が開かないらしい…… その辺のレーザーガンがよく分からないが、かなり強固な繊維でできているということはわかる。

 それに、少々の透視能力では覗けない『アンチマジック』機能付きということだ。

 俺の部屋には高性能すぎる気もするが、無料ただでくれるというから貰っておいた。ちなみに180cm×240cmのサイズだが、軽く『数億円』するらしい。


……


 ピンポーン!


 来訪者? まさか、これは噂に聞く秘密結社『N●K』の集金人!?

 それとも秘密諜報紙『新聞』の勧誘か!?


 このマンションの入り口はオートロックで、簡単に侵入できないはずなのだが、流石はあの美樹さんが『都会で気を付けること』の最上位に上げるだけのことはある。


 俺は恐る恐るドアスコープから外を伺う。


 そこに見えたのは俺の予想を裏切って、女子大生くらいの女性が2人―― 2人ともなかなかの美人だ。

 1人は長髪で上品なスーツを着ていて名家の『お嬢様』を思わせる。

 もう1人も長髪だが、動きやすい服装をしていて『付き人』ぽく見える。


 思わずドアを開けそうになったが、俺はそんな手口には引っかからないぜ!


 女性2人で油断させて、ドアを開けたら最後、否応なしに契約させられるはずだ。

 どうやら、美樹さんに聞いていたよりも、敵の手口は巧妙なようだ。

 ここは、絶対防御『居留守』を使うことにする。


「留守…… なのでしょうか?」


「いえ、中にいるはずです。先程マンションに戻ってくるのを見ております」


 そういえば、付き人の方は俺がマンションに入るとき『じーっ』と睨んでいた女だ。


 くそっ! まさか、ここにも俺を監視する奴がいたとは…… 油断した。


「私にお任せください。すぐに開けさせます」


 何をする気か知らんが、舐めるなよ。俺は絶対にこのドアを開けないぜ!


「神月君! どうして私にあんなひどいことをして逃げたのよ!?」


 な、なんだ? 付き人女がいきなり大声で訳の分からないことを言い出したぞ。


「神月君! ここに居るのは分かっているのよ! あんなことをしておいて……

 私の身体だけが目当てだったの!?」


 うわーっ! これ以上放っておくと何を言われるか……


「や、やめろーっ!」


 俺は慌ててドアを開けた。


「お嬢様、やはり『居留守』でした」


「流石は【冬華とうか】です。手段を選びませんね」


「お褒めいただき恐縮です」


 俺が外を見ると、この階の住人と思われる『おばさま方』と目があった。


 終わった…… 美樹さんの忠告の1つ『おばさま方の噂』の餌食になった気がする。


 この『くそアマ』!


 まさか契約の為にここまでするとは、俺の想像を遥かに超えていた。

 俺は、もう完全に降参だ。サインでも何でもしてやるから、『さっきのは嘘だ』ということだけは、おばさま方にしっかり伝えてもらうぞ。


 俺が呆然としていると、2人とも遠慮なく部屋に入ってきた。


「で、どこにサインするんだ。早く契約書を出せ」


「随分物分かりの良い方ですね。冬華、あなたの部下が根回ししておいたのですか?」


「いえ、そんなはずはありません。それなら『居留守』など使わなかったはずです」


「そうですね……」


 この2人、俺を無視して勝手に話し込んでいる。きっと俺に不利な条件を押し付ける気なんだろう。今度は油断しないぞ!


「申し遅れました。私は【郷山ごうやま花梨かりん】と申します。以後お見知りおきを」


 お嬢様風悪徳女が、俺を真正面から見据えて名前を告げる。


 ん? こいつ、今『郷山』って言ったか?


 そうか! 郷山グループは『新聞』もやってるのか!

 新聞代って月どれくらい掛かるんだ? 絶対に値切ってみせるぞ!


 俺は負けじと女を見据える。目を反らしたら負けだ!


「私は『郷山剛士』の姉です。この度は、弟のせいであなたにご迷惑をお掛けしたことを謝罪するためにお伺いいたしました」


 なんだよ。新聞の勧誘じゃなかったのかよ。

 それなら最初に『新聞の勧誘じゃありません』って言えよ!


 それに、確かに『野蛮1号』には少しばかり迷惑を掛けられたが、正直大して気にしていない。

 寧ろ、ついさっきの出来事の方が、俺にとっては大迷惑だったのだが……


 しかし、DNAって信じられないな。目の前の女とあの野蛮1号が姉弟?

 血の繋がりはどうなってるんだ?


「花梨様」


 冬華が花梨に目配せした。花梨は小さく頷き話を続ける。


「神月様、あなたは狙われております!」


 おいおい、またかよ……


 今朝は『アサシン』で、今度は誰だよ!

 俺まだこの町に来て3日目だぞ。何でそんなに狙われるんだよ。


「信じられないお気持ちは分かりますが、事実です。私の兄『郷山剛彦』が、あなたを狙って動いているという情報を掴んでおります」


「あ、そうですか。興味ありませんので帰ってください」


「そうは参りません! 兄が雇ったのは【狩猟者ハンター】と名乗る、正体不明の凄腕の暗殺者ということです。兄は今までも『そいつ』を使って何人もの命を奪っているみたいなのです……」


 そんな暗い顔されても、俺は別にどうでもいいし。


「ですから、あなたを護衛するために彼女――【近衛このえ冬華とうか】を連れてまいりました。彼女なら、その『狩猟者ハンター』からあなたをお守りできるはずです」


「それで、この契約書にサインしてもらう。護衛任務のための契約書だ」


「悪いな…… 俺は軽々しく契約書にサインしないことに決めているんだ」


 すると、冬華はいきなり立ち上がり、窓を開けてベランダに出た。


 何をするつもりだ?


「神月君、酷いわ! 私を騙したのね! ここから飛び降りて死んでやる!」


 な! 何を言い出すんだ!


 俺は急いでベランダから冬華を部屋に入れて窓を閉める。

 ベランダで、隣の部屋のおばさまと目が合った……


「契約書…… 寄こせ……」


 俺は唇を噛みしめながら、契約書にサインした。


「流石は冬華です。手段を選びませんね」


 花梨は満足気に頷いていた。

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