第55話 彰人、同類扱いに怒る

 俺の思惑通り、覗き魔は俺達が方向を変えてすぐに屋上から姿を消し、俺達が向かったマンションの裏側にやってきたようだ。


 それにしても驚いたな……


 コイツ、なかなか気配を絶つのが上手い。俺やラミオン以外なら、後ろをつけられてもほぼ気付けないのではないか? それほど見事な隠形だ。


 しかも足の速さも相当なものだ。さっきまで200m離れたマンションの屋上に居たはずが、今はもう俺達の側の建物の影に隠れている。


 まさに、『変態行為を極めるために相当な修行を積んだ』としか思えない。

 ある意味、恐るべし執念を感じる。


 だが、その執念―― もっと世の為、人の為に使えよ。無駄すぎるだろ!


 俺はこの変態に対して、更なる怒りが湧き上がってくる。


「マスター。ラミオンがやってもいいか?」


 ラミオンがそう言ったが


「否、俺が折檻する」


 俺はそう言って一呼吸置いた後、隠れている変態の方を向いて、言葉を掛けた。


 すると、直ぐにそいつは姿を見せた。


 一見エリートサラリーマンを思わせる、ピシッとした高級スーツを着た30代前半くらいの男だった。


 しかし、眼を見ればわかる。コイツは真面まともではない。社会の裏を歩いている者が放つ、独特の禍々しさを感じる。

 俺には分かる…… コイツは捕まっていないだけの『性犯罪者』に違いない!


「フフフ—― やはりキサマも、俺や骨河の『同類』か!」


『骨河』って、確か昨日の恥ずかしいスカジャン着た連中のリーダーだな。


 奴もコイツの同類だと?

 つまり、あの野郎も『性犯罪者』だったのか!


 それはどうでもいいが、言うに事欠いて俺まで同類扱いするとは……


「キサマもなかなかのようだが、俺は骨河如きとは格が違うぞ!」


 何を威張ってやがる! 骨河がどれほどの『変態』だったか知らんが、自分の方が上だ―― と変態度を自慢されても俺の知ったことか!


 しかも、俺のことまで『なかなかの変態』扱いしやがって!


 ここまで俺を怒らせた奴は、貴様が初めてかも知らないな。

 覗き魔への折檻だから、軽く凹る程度にしようと思っていたが…… もう許さん!


 俺は軽く『殺意の波動』を放つ。戦いの幕は開いた!


……


 俺はこの『ロリコン変態エリートサラリーマン風男』―― 略して『ロリーマン』を観察する。


 俺の殺気を軽く受け流した辺り、かなりの修羅場をくぐっているに違いない。

 立ち姿も自然体で、相手の動きに即座に対応できるように、無駄な力が入っていないし、視線も俺の目から外さず、どこを攻撃するつもりか相手に悟らせないように気を配っているようだ。


 昨日の『骨河』よりも数段戦い慣れしているのが分かる。並の格闘家なら相手にならないくらいの実力がありそうだ。


 しかし、自信があるのは結構だが、その口元の『いやらしい』ニヤつき具合が気に入らない。

 きっとコイツは、俺を倒した後に、ラミオンに口にはできない『おぞましい行為』をすることを想像しているに違いない。


 今のラミオンを戦わせれば、間違いなくコイツは『ブッ殺されてしまう』だろう。


 世の中にとってはその方が望ましいかもしれないが、俺は優しいからな。流石に命を取ろうとまでは思わない。

 それでも、二度と性犯罪を起こそうとは思えなくなるくらいには、反省させる必要がある。


「どうした。かかってこないのか?」


 挑発してくるロリーマンに対し、俺は正面から一瞬で間合いを詰めて左ボディブローを放つ。


 ロリーマンにパンチが当たる! と思われたその瞬間――


 バチッ!!


 俺のパンチは突然現れた壁のようなものに阻まれ、同時に電撃が俺を襲う!


 俺は後ろに飛び退りその電撃を避けた。足元の地面がブスブスと焦げた臭いを放つ。


 今のはもしかして! 否、間違いなくコイツの『能力』だ!


 コイツは只の変態ではなかった…… 特殊能力を持った変態だったのか!


 そうか! あの『隠形』もコイツの能力か!

 そういえば、フェンスの鍵も簡単に開けやがったな…… それも能力に違いない。

 そして今の『電撃』……


 俺は今更ながらコイツのヤバさを思い知った。


『隠形』でストーカー行為を行い、『鍵開け』で狙った女性の部屋に侵入する。

 そして最後には『電撃』で気絶させて猥褻行為を行う訳か!


 なんて奴だ! ここまで性犯罪に特化した能力ばかり揃えているとは……


「フフフ。今の電撃、よく躱せたと褒めてやろう。だが、もう終わりだ。

 お前には俺の能力を防ぐ手立てはない!」


 そう言って、ロリーマンは俺の方へ近付きながら


「どうだ? 土下座して命乞いするなら、手足の2・3本で勘弁してやるぞ」


 こんなことを言ってきた。コイツは何故か俺に勝った気でいるようだ。


 ふざけんじゃねぇ! それは俺のセリフだ!


 俺のパンチが弾かれた感触から、あの障壁はそれなりの耐久度がありそうだが、それでも、俺が本気で殴れば十分に壊せるだろう。

 でも、素手で攻撃すると静電気のバチッという嫌な感触がするからな…… 正直あまり触りたくない。


 電撃の威力もそこまで高くなさそうで、喰らっても大したことはないだろうが、万が一『美樹さん』から入学祝いにプレゼントされた新品のシューズが焦がされたら嫌だからな…… できれば喰らいたくない。


 やっぱり『棍』を使って仕留めるか?


 否、こんな変態如きに家宝の棍を使うのは勿体ないな。


 そうだ! マンションの壁を利用して空中高くジャンプして、伸身宙返りに捻りを10回程加えながら、華麗に奴の後ろに回り込もう。

 そして、奴が驚いている隙に後ろから蹴りでも喰らわせるか!


 よし! その作戦でいこう!


 俺は後ろを向いて勢いよくマンションに向かって走り、壁を蹴って高々と跳躍した。

 そして予定通り、そこから華麗に捻りを加えて回転する―― が、半回転したときにいきなり目の前に『障壁』が現れた!


 何っ!? このヤロー、障壁を離れた場所にも出せるのか?


『伸身宙返り10回捻り』を披露するはずだったが、これでは1回捻りすらできずに障壁にぶつかってしまう!


 奴の勝ち誇った憎らしい顔が見えた。



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 俺の予想通り、この変態小僧は『身体強化』を使って、瞬間移動の如く間合いを詰めて攻撃してきた。


 俺の第3の能力【電撃壁】―― 障壁バリアを張り、それに触れた者を電撃で自動攻撃する能力―― 攻防一体の優れものだ。

 俺のこの『電撃壁』の強度は、ライフルの銃弾さえも軽く撥ね返すのだ。

 たかだか『身体強化』した程度の攻撃ではビクともしない。


 唯一の欠点は、障壁を張れる面積が2平方メートル程しか維持できないことだ。

 本来の使い方は、追手に追跡されたときに逃げながら曲がり角に仕掛けるのだ。


 さっきは小僧の攻撃に合わせて障壁を張り、奴の自滅を誘おうとしたが、寸前で気付かれて電撃を躱されてしまった。

 やはりこの小僧は『超感覚』の能力も持っているようだな。なかなか鋭い反射神経をしている。


 だが、それだけだ! 小僧にはこの『電撃壁』を防ぐ手段はないだろう。

 小僧の後ろにはマンションの高い壁が立ち塞がっていて、後ろには逃げ場がない。

 小僧に残された道は、電撃の餌食になって黒焦げになる以外にないのだ。


 俺は歩みを止めて、小僧に優しい慈悲に溢れた提案をする。


「どうだ? 土下座して命乞いするなら、手足の2・3本で勘弁してやるぞ」


 それなのに――


「おいおい、そりゃ俺のセリフだ。でも、もうお前には慈悲を掛けるつもりはない!」


 これだから頭の悪い脳筋の相手は疲れる。勝ち目のないことが、まだ理解できないようだ。


「そうか…… 残念だが交渉は決裂だ。もう命乞いをしても遅いぞ!」


 そして、俺は再び小僧に近付いていく。


 すると、小僧はいきなり後ろのマンションに向かって走り出した。


 何をするつもりだ!?


 もしや、壁を蹴った反動で俺の後方へ飛ぶつもりか!?


 ハハハ! 所詮はその程度の浅知恵―― 俺の後ろを取ることなど不可能だ!


 俺は、自分の半径5m以内の遮蔽物の無い空間になら、どこにでも『電撃壁』を出現させることができる。

 空中を跳んだ小僧には、もう逃げ場はなく、俺の『電撃壁』にぶつかって黒焦げになるしかないのだ!


 そのはずだった…… 

 ところが、小僧の手に突然現れた棒によって『電撃壁』が破壊された……


 有り得ないその光景に、俺は思わず身体が硬直してしまい、訳も分からぬまま小僧の攻撃を受けてしまった。


 今のは何だったのだ!?


 気付いたら俺は吹っ飛ばされて地面に倒れていた。

 こんな時こそ冷静になるのだ。俺は感覚を総動員してダメージを確認する。


 手足は動くか? 大丈夫だ―― 少し痺れているが動かせる。

 身体に力は入るか? 問題ない―― すぐに起き上がって体勢を立て直さねば!


 呼吸を整えて身体を起こそうとしたところで、いきなり頭を踏みつけられた。


「おっと! 逃げようたって無駄だぜ。テメぇには今までの罪をしっかりと反省してもらう必要があるからな」


 くっ!?『暗殺者アサシン』と恐れられたこの俺様が、こんな屈辱を受けるとは……


 許さん! 絶対にこいつを殺す!


「お前は今までに何人の犠牲者を出してきた? 言わなくても分かる。お前は大勢の人間を不幸にしてきた…… お前には罪を償ってもらう必要がある!」


 何!? まさかこの小僧―― 俺が『暗殺者アサシン』であることを知っているのか!?


 信じられん…… 俺は依頼人クライアントにも連絡先以外は知られておらず、顔も本名も勿論知られてはいない。

 当然、今までの殺人の証拠なども一切残してこなかったはずだ。


 はっ!?


 俺は1つだけ思い当たる節がある。

 もしかすると、この小僧の後ろには【あの組織】が付いているのではないのか?


 風の噂で【能力者専門の対策部隊】が存在すると聞いたことがあるのだ。

 只の噂話と思っていたが、まさか実在するのか?


 否、そうとしか考えられない。


「キサマ―― どこの組織の者だ!?」


 俺の問いに小僧は暫く考えた後に答えた。


「SMCO」


 やはりそうか……


 S(Special)M(Magi)C(Counter)O(Organization)


【特殊能力者対抗組織】というところか……


 だが俺はプロだ!


「俺のことをどこまで調べているかは知らんが、俺はプロだ―― キサマらに情報を漏らすような真似はしない」


 俺は小僧の隙をついて障壁を張り、この状況からの脱出を試みた!



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 俺は目の前に現れた障壁を、棍を使って破壊した。そして、そのまま棍を伸ばして、マヌケ面をしたロリーマンに叩き込んだ!


 奴は5m以上ぶっ飛んで、地面に転がったが、直ぐに立ち上がろうとする。


 勿論、俺は立ち上がらせない―― 頭を踏みつけて、再び地面に突っ伏させる。


 ああ、気持ちいい!


 コイツのような犯罪者を叩きのめす善行に、俺の気持ちが高まるのを感じる。


 それにしても、コイツのさっきの質問――『どこの組織の者』ってどういう意味だ? 訳が分からないから適当に『SMCO』とアルファベット4文字で答えた。

 神(S)明(M)流皇(CO)霊術

の略だ。皇を『KO』とせずに『CO』としたのがポイントだが…… 全くもって意味のない答えだ。

 それなのに、ロリーマンは納得したのか? やはり、性犯罪に走るような奴は精神的に未熟なようで、こういった中二的なやり取りが好きみたいだな。

 俺もラミオンも『お前の性犯罪履歴情報』なんかに全く興味ないが、性犯罪のプロを自称するような奴を野放しにしておくわけにはいかない。


 ロリーマンは性懲りもなく、俺に障壁をぶつけてきた。

 俺を怯ませて逃げるつもりのようだが、そうはいかない―― 左ストレート一閃で障壁を打ち破り、起き上がろうとしていたロリーマンの頭に棍の一撃を加えた!


 あっ! ちょっと力入れすぎた…… ロリーマンの頭が土に埋まって、ピクピクと痙攣している…… 死んでないよね?


 土に埋まった頭を抜いてやって、ロリーマンの脈を見る。


 良かった、生きてる。下がアスファルトやコンクリートなら確実に殺してた…… 危うく、俺が犯罪者になるところだった。


 さて、コイツをどうしようか?


 普通なら警察に突き出すところだが、能力者相手では警察の手に余る可能性が高い。

 そうなると、こういうときに頼りになるのは―― 鬼追村の『研究所』しかないな!

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