偽りの勇者召喚編

第51話 プロローグ

 彼ら3人は、いつものように昼休みのチャイムと同時に教室を出て、彼らのオアシス―― 漫画研究会の部室へとやってきた。


「あぁ、やっぱりここは落ち着くよな」


「そうだね。教室の居心地は『最悪』だもんな」


「そうそう。女子なんてゴキ●リでも見るような目で、俺達を見るもんな」


「あぁ、3次元の女なんて最悪だよ」


「2次元最高!」


 そして、いつも通り『3次元下げ、2次元上げ』のトークに花を咲かせていた。


……


 キンコンカン!


 午後の授業前の予鈴が鳴る。


「あぁ、またつまらない時間の始まりか……」


「また、放課後―― な!」


 そう言いながら、彼らが部室を出ようとした、その時――


 突然、部室の床が輝いた!

 部室の床いっぱいに描かれた魔法陣が出現したのだ!


「えっ!? これって!」


「嘘だろ! まさか!?」


「間違いない! 絶対これ―― 異世界召喚だ!」


 うわあぁぁぁぁ!!!


 彼らは驚きと興奮の混じった叫び声を上げながら、魔法陣に吸い込まれた。


―――――――


 これが今から千と三日前に起こった出来事だった……



   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 彼ら3人が目覚めたのは、教会のような建物の中だった。

 彼らを取り囲むように、10人の聖職者らしき人達が立っていた。


 一際立派な衣装を着た男―― その教会の最高権力者である【教皇】が、1歩前へ出て彼らに話し始めた。


「我らの祈りに応え、神に導かれし異世界の者達よ!

 どうか我らの世界のために、その秘められた力をお貸し願いたい」


 突然の訳の分からない状況―― 普通なら、理解が追い付かずパニックを起こしてもおかしくないはずだが、彼ら3人は寧ろ嬉々としてこの状況を受け入れたのだった。


「スゲぇ! ほんとに異世界に召喚されたんだ……」


「これって、もしかして『勇者召喚』?」


「それ以外なら詐欺だよ」


 教皇は話を続けた。


「あなた方3人には、千日以内にこの世界に仇成す『魔王』を倒して頂きたいのです。勿論、そのために必要な力を、神の名の下にあなた方に授けます」


「それで、どんなチートをくれるんだい!」


「早く、能力ちょうだいよ!」


「ステータスも最強でお願いします!」


……


 彼らには【神の祝福】と【聖なる武具】が与えられた。

 それにより、彼らは【勇者】として覚醒したのだった。


 今まで碌に運動もしたことのなかった3人だったが、『勇者』としての自覚なのか? 彼らは、思いのほか真面目に頑張った。辛い訓練にも文句1つ言わずに耐えた。

 その甲斐あって、彼らは勇者の力をすぐに使いこなせるようになったのだった。



   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 人族と魔族との戦闘は激しさを増していった。


 それまで、魔族の強力な戦闘力の前に苦戦続きだった人族側だったが、勇者の登場から状況は変わってきた。


 順調に成長していく勇者3人は、その圧倒的な力で徐々に魔族軍を退けて行ったのだった。


 そして――


 ついにその日が訪れた!


 勇者召喚から682日目―― 彼らは、とうとう『魔王』を倒すことに成功したのだった!



   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「勇者達よ! ついに我らの望みは叶えられました!

 なんとお礼を申し上げてよいか…… この御恩は、この世界の者全て、永遠に忘れることはないでしょう!」


 教皇は彼らに感謝の言葉を述べた。


「そんなこと、気にしなくてもいいよ。なっ!」


「あぁ。僕らも楽しかったしさ」


「そうだよ。あの『つまらない世界』から解放されて、逆にこっちこそ礼を言いたいくらいだよ」


 この勇者達は、なんという寛大な心の持ち主なのだろうか!

 教皇は彼らの言葉に感動したのだった。


「おお! なんという寛大なお言葉―― お礼の言葉もありません。

 それでは、名残惜しいですが、皆様を元の世界へお帰しいたします!」


「必要ないよ」


「うん! 僕ら3人は、この世界で暮らすことにしたから」


 なんと! この勇者達は、これからも我らのために力をお貸しくださるのか!

 教皇は彼らのその言葉に、更なる感動を覚えた。


「我らのために、これからもお力をお貸しくださるのですか!

 有難うございます。しかし、本当によろしいのですか?」


 ハハハハハハ!!!


 教皇の言葉に、彼らは一斉に笑い出した。


「あー、お腹が痛い…… 笑い死にするかと思った」


「だ、大丈夫ですか?」


 教皇が、彼らを心配して声を掛けると


「心配しなくてもいいよ。僕らはもうお前らのために働く気はないから。

 これからはね、お前らが僕らのため働くんだよ!」


 勇者達の顔が、突然邪悪にゆがんだ表情に変わったのだ!

 周りにいた者達は、何が起こったのかわからずキョトンとしている。


「まだ分からない? じゃあ、はっきり教えてあげるよ。

 俺達はね、この世界の【支配者】になることにしたんだ!」


「な!? そんなことが許されるとでも思っているのか!」


「思っているさ! お前、バカか?

 僕達は『この世界で最強の力』を持っているんだぞ。誰が僕達を止められる?

 無理に決まってるだろ!」


 ハハハハハハ!!!



   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 その後は地獄の日々だった……


 勇者達が狂った―― その知らせは瞬く間に広がった。


 当然、『狂った勇者共』を倒すために、世界中でいろいろ手が打たれたのだが、彼らの力はあまりにも強大だった。


『元勇者達』の前に、国が次々と滅ぼされていった。

 彼らに逆らった国の者達は、見せしめのように無残に殺された。


 そして、世界の大半が彼らの手に落ちたのだった……


 このまま、彼らに世界は支配されるのか? この世界の人々は強い絶望感に包まれた。


 しかし―― 運命の時は突然に訪れた!


 彼らが召喚されてから千と1日目になったその日


「あーあ…… 懲りない連中だね。無駄だとあれだけ教えてあげたのに、まだ分からない奴らが残っていたみたいだね」


「いいじゃないか! 僕らも最近退屈していたところだから、久しぶりにストレス解消できそうだよ」


「そうそう。たまにはこういう連中が来ないと、俺達の恐ろしさを思い出させてあげられないからな」


 彼らは、5千は下らない軍勢が居城に迫っていても、全く恐れていなかった。


 それも当然―― 彼らの前では、その10倍の軍勢ですら相手にもならなかったのだ。


……


『元勇者達』は堂々と玉座の間で座して待っていた。


 扉が勢いよく開けられた!


「あれっ? 随分少ないね」


 そこに現れた者達は、意外にも20人程しかいなかった。


「やあ、教皇じゃないか! 久しぶり。元気してた?」


 彼らは、その中に教皇の姿を見つけた。


「で、どうしたの? まさか僕らに頼み事でも?」


 すると教皇は、彼らを『ゴミムシ』を見るような目でじっくりと眺めた後


「もちろんです。あなた方には、これから処刑台へ上っていただきたく、お願いに参りました」


 彼らは教皇の言葉の意味が、一瞬理解できなかった。


「ふふふ。なかなか面白い冗談を覚えたね。

 いいよ! それには俺達の代わりにお前に上ってもらうから!」


 そう言って、元勇者の1人が立ち上がり、右手を突きだした。


 ファイヤーキャノン!


 しかし―― 何も起こらない。


「何やってんだよ、お前。そんな冗談、かますなよ!」


 そして、もう1人の元勇者が立ち上がり、同じように右手を突きだした。


 サンダーブラスト!


 今度もまた、何も起こらない。


「どうしたんだよ? お前ら……」


 残った元勇者が、右手を突きだして固まっている2人に向かって言った。


 あははははは!!!


 彼らの目の前の者達が一斉に笑い出した。


「まだ分からないのですか? 愚かなお前達に教えて差し上げましょう。

 今朝、我々は【神の啓示】を受けたのです。それは――

『お前らの召喚から千と1日目になると、勇者の力は全て消えてなくなる』とね!」



   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「本来なら、これを使ってあっさりと殺すのは生温いのですが、こんなクズ共を召喚した我らへの戒めとして、慈悲を掛けることにしました」


 教皇のその言葉は『元勇者達』には届いていなかった。


「や、やめてくださいぃぃぃぃ!」

「た、助けてくださいぃぃぃぃ!」

「ゆ、ゆるしてくださいぃぃぃぃ!」


 巨大なギロチンの下で、3人の悲鳴が響く。


 教皇の右手が上がり、そして―― その右手が振り下ろされたのを合図に、ギロチンを繋ぐロープが切られた!


 ゴトン!!!



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ああ、楽しかった!


 この世界には、もうまともな国は残っていない。人族の国も魔族の国もボロボロで、放っておいても滅んでいくだけさ!


『勇者ゲーム』は、こうでなきゃね!


 勇者は絶対にアイツらみたいな『クズ』に限るのさ!


『クズ共』は自分達の欲求のためだけに、存分に力を振るってくれる。

 しかも、他人から与えられた力を『いつまでも使える』なんて思っているから、自重することなく、どんどん地獄の扉を開いて突き進んでいく。


 混乱していく世界に、絶望する人間達―― それだけでも十分面白いのに、天国から地獄へと突き落とされる『勇者(笑)』の最期というオマケまでついてくる。


 見ていてこれほどスカッとすることはないね!

 だから『勇者ゲーム』は止められないんだ!


 ボクが『勇者ゲーム』をやり初めた頃は、勇者はゲームの舞台の世界の人間から選んでいたけど、それじゃあ面白くなかった。

 態々『勇者に相応しくない奴』を選んでいたというのに、やっぱり自分の世界には愛着があるのか、折角与えてやった力を『世界が破滅する』ようには、なかなか使ってくれなかった。


 それで、ゲームの世界とは違う世界から勇者を召喚することにしたんだ。

 すると、以前は精々10%位だったのが、別の世界から勇者を召喚するようになってからは、40%位までボクの望む結果を見せてくれるようになった。それでもまだ不満だったけど、これ以上は無理とボクは諦めていた。


 ところが! 遂にボクは『勇者(笑)』を召喚するのに、これ以上ない素晴らしい世界を見つけたんだ!


 その世界から呼んだ『勇者(笑)』は、見事に『アタリ』ばかりだ!


 適当に召喚しただけなのに、その世界から来た連中は、今のところ10回連続で全員『アタリ』だ。


 次のゲームでも、勇者は絶対に『その世界』から召喚するんだ!


 そろそろ、次のゲームの舞台を決めないとね。候補は既にいくつか見つけてあるから、どこにしようかな?


 その前に―― 今ゲームの途中の世界も進めておかないといけないな。

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