第49話 エピローグ
「アキト、もう行くのか」「アキト、もっとここにいるのじゃ」「アキト、もっと遊ぶの」
「アキト様、もうお別れなのですね」
うーん…… シーラさんも3娘達も、そんな悲しそうな目で見つめられると、俺としても少し辛いが
「また遊びに来るよ!」
そう言って、俺は扉へ向かった。
《彰人様。これでタマともお別れです。短い間でしたが、本当に有難うございました。きっと、またエシューゼに遊びに来てください。タマは、後2千年はお待ちできますので、それまでには必ず…… 彰人様、お元気で》
2千年!? タマ―― お前、長生きなんだな。
それに、心配しなくても2千年どころか298日後には必ず来るし……
《タマ、お前も元気でな。またこっちに来たときは、よろしく頼むわ》
「さよなら・なの・じゃ」「お元気で彰人様」
俺は、振り返らず手を振りながら扉を通った。その時――
《彰人様、有難うございました》
最後に、俺がこのエシューゼへ来る時に聞いた『女性の声』が頭の中に聞こえた。
そして、俺は光に包まれた――
1秒後――
視界が戻ると、そこには見慣れた『蔵』の中の景色が現れた。
とうとう俺は元の世界へ帰ってきたんだな……
エシューゼに行ってた期間は、およそ70日―― 長かったような短かったような……
とりあえず、親父に帰還報告をしておこう。
……
俺が親父の部屋の前まで行くと、親父が待っていた。
「おう! 彰人、帰ったか! 結構早かったな」
「あぁ、やっと帰ってこれたよ…… それにしても、親父の話が本当だったことに驚いたよ」
「ん? 彰人…… お前、もしかして俺の話を『信じてなかった』のか?」
親父は驚いた顔で俺を見ているが、普通あんな突拍子もない話を信じないだろ!
「まぁ、今更どっちでもいいか…… それよりも、お前に伝えておかなくてはな」
それは、親父の部屋の中にいる人のことだな。只者じゃない気配がする。
それから、俺も親父に伝えておくことがあった。
それは『ラミオン』のことだ。当然だが、ラミオンは俺に付いてきて、この世界へやってきたのだ。
「この家に新しい同居人ができたんで、お前にも教えておかないとな。
マオさん、あなたに私の息子を紹介しておきたいので、こちらへ来てください」
「親父。俺も親父に紹介しておかないといけない人がいるんだ」
親父の部屋の障子が開いて、中から『マオさん』が現れた!
同時に、親父の前にラミオンが姿を見せた!
「えっ!? なんでここにいるんです!?」
「うわあぁぁぁ! なんでここにいるんだあぁぁぁ!」
俺が『その人』を見て驚いたのと同時に、親父も『ラミオン』を見て俺以上に驚いていた。
……
「アキト、余も驚いたぞ! まさか天魔帝の向かわれた世界が、お前がいた世界だったとはな……」
まさか、ここに『女王様』がいるなんて、俺は夢にも思わなかった……
「親父、どういうことだ?」
「どうやら、彼女のご先祖様が『1200年前にこの世界にやってきた【鬼】』だったみたいなんだ」
「はぁ? どういうこと?」
「彰人…… お前、俺があの時話した【神明流の開祖】の話も覚えていないのか?」
うっ! 親父の話―― 全部『嘘』だと思ってたから、ほとんど聞き流した……
「仕方ない…… もう1度話すぞ」
――――――――
親父の話はこういうことだった。
今から約1200年前――
突然、この地に巨大な扉が出現し、2千人近い数の【鬼の軍勢】が現れた。
鬼の軍勢は暴れまわり、多くの村や町を破壊し人を殺した。
時の朝廷は軍隊を送り『鬼討伐』を試みたが、鬼達があまりに強すぎて、あっさりと返り討ちに合ったそうだ。
そこで朝廷は、鬼退治に『強力な神通力を持つ』という『神月の里の者』の力を借りることにした。
しかし、神月の里から送られてきたのは『陽玄』『陽真』という親子―― たった2人だけだった。
2千の鬼に対し、たったの2人…… 朝廷は絶望を感じたのだった。
ところが! この親子2人は、とてつもなく強かった。
信じられないことに、たった2人で鬼の軍勢を全滅させたのだ!
その後、2人は『神月』の姓を朝廷より賜った。
そして朝廷は、鬼共が現れたこの地を『鬼追村』と名付け、鬼共が通ってきたという扉の『監視役』に2人を任命したのだった。
そのまま『陽玄』は、当時『扉の管理者』がいなかった『
因みに、『
――――――――
つまり『女王様』のご先祖様である天魔帝は、俺のご先祖様である『陽玄・陽真』の2人によって殺された―― ということだ。
じゃあ、俺は女王様に恨まれるのか?
そんな風に思ったのだが、意外にも女王様は全然恨んでいないようで、
「戦って敗れたのなら仕方のないことだ。それに、この世界の罪のない人族も殺されたわけだしな」
案外、あっさりとしたものだった。
「で、話は変わるが―― 親父は何故『ラミオン』を知っているんだ?」
「彰人。お前は研究所にラミオンが隔離されていることを知っているか?」
俺が2年前に『美樹さん』に見せられたラミオンのことだな!
「ああ。知ってる」
「そうか…… 実はな、あのラミオンのマスターは『俺』なんだ」
えっ!? 親父があのラミオンのマスター!?
って、驚くことでもないな。
俺以上の力を持っている『親父』か『じいちゃん』が、ラミオンのマスターであっても全然不思議じゃない。
「じゃあ、なんでラミオンを見て驚いたんだ?」
――――――――
親父の話はこういうことだった。
親父がラミオンのマスターになったのは、今から6年前らしい。
親父は『扉の管理者』であるので、何度も『救世主』として異世界へ行っている。
その異世界の1つでラミオンに出会い、『マスターとしての義務を得た』そうだ。
その後は、ラミオンと共に異世界へ赴いていたのだが、今から2年程前に救世主として出向いた世界で事件が起きた!
親父はその世界で『数万の魔物』を相手に戦った。
それでも親父は1人でも圧倒的に強かったのだが、その時ラミオンが行動を起こしたそうだ。
ラミオンは、親父の後ろから『ラミオンバスター(ワイド)』―― 俺のマスター試験で、ラミオンが最後に使った技の広範囲バージョン―― を撃ったらしい。
その攻撃で、魔物のほとんどが消滅したので、結果的にはラミオンのおかげで楽できたのだが、親父も危うく『殺されるところ』だったという。
親父はとっさに気付いて『絶界』を張り、何とかその攻撃を防いだのだが、そのことでラミオンと一緒に行動することの危険性を認識し、ラミオンを隔離することに決めたそうだ。
それで、親父は研究所の『例の部屋』にラミオンを隔離し、ラミオンはスリープ状態になっているということらしい。
――――――――
俺が連れてきたラミオンは、そのラミオンとそっくりだから、親父は『ラミオンが目覚めて戻って来た』と勘違いして驚いたようだ。
「彰人。お前も気を付けろよ…… アレを喰らえば、普通に死ぬ」
「あ、あぁ…… 気を付けるよ」
……
「ところで、陛下のことは『
「うむ。『郷に入っては郷に従え』―― この世界には魔王は存在せぬようだし、名前がないと不便であるからな。『魔央』がこの世界での余の『仮の名』となる」
「そ、そうですか…… でも、赤い肌と角が目立つので、この家から出ることは難しいのではないですか?」
「それなら心配いらぬ。余の『幻影魔法』で肌の色と角くらいなら、誤魔化すことが可能だ」
幻影魔法か。そりゃ、便利だな。
「ですが、その喋り方がちょっと固すぎますね」
「そうか。ならば―― 私は『魔央』といいます。アキトさん、これからよろしくお願いします―― あの時の『天女』の話し方を意識してみたのだが、これならどうだ?」
「おお! それならバッチリですよ。じゃあ、俺も砕けて話しますね!
魔央さん、こちらこそよろしく…… って、ここに住むつもりですか!?」
「ええ、勿論そのつもりです。ここに暫くご厄介になります」
「ところで親父。魔央さんには、どの部屋に住んでもらうんだ?
じいちゃんの部屋か? それとも客間か?」
「お前の部屋を魔央さんに貸すことにしたぞ」
「えっ!? じゃあ俺はどうするんだよ!」
「お前、忘れたのか? もう高校は始まっているんだぞ。当然、お前は都会で1人暮らしするんだろ? それとも、
そうだった! 俺の高校生活はもう始まっていたんだ!
「明日から通えるように学校には連絡しておく。住居の方は、研究所の人が手配してくれているから、このメモに書いてある所へ行けば問題ないはずだ」
「ラミオンもマスターについていく」
えっ!? ラミオンも来るのか? どうしよう……
「いいんじゃないか。学校にさえ行かなければ問題ないだろう。見た目は人間そのものだからな」
「でも、ラミオンの格好は結構目立つと思う……」
何せラミオンの衣装は、ヒラヒラのキラキラだからな。
「彰人、心配するな。都会はな、お前が思っている以上にドライだ。
誰も他人のことなどに興味を持たないし、それ以上に『イカレタ格好』の人も珍しくない」
そうなのか? じゃあ心配しなくていいのか…… 本当に大丈夫なのか?
何かあったら、その時は『親父の責任』ということに俺の中で決めた!
「それじゃあ、俺、今からこのメモの場所に行ってくるわ!」
「彰人、ちょっと待て! まだやることがある」
親父が俺を引き止めた。
「親父、まだ何かあるのか?」
「そうだ。彰人、お前にも『扉の管理者』になってもらう」
……
俺は、親父に『扉』の前に連れて行かれた。
「俺の息子の彰人だ。こいつを『扉の管理者』にしたいと思う」
親父がそう言ったら、俺の頭の中に『男の声』が聞こえてきた。
《了解しました。では彰人様―― 貴方を『扉の管理者』に任命いたします。
知りたいことや分からないことは、私の『使いの者』にお尋ねください》
俺は、あっさりと『扉の管理者』になったようだ。
『妖精』らしき者が、羽をパタパタさせて俺の目の前を飛んでいる。
《彰人様、お初に御目にかかります。
私が扉の管理者様のサーバント――『さぶろう』でございます。今後ともよろしくお願いいたします》
「あ、あぁ…… よろしくな『さぶろう』」
ファンタジー丸出しの妖精の名前が、純和風の『さぶろう』とは…… 似合わねぇ。
「ところでその名前、誰が付けたんだ?」
《はい。その質問は、彰人様の6代前の管理者様以来必ずされますね。どうして皆さん、私の名前をお気になさるのでしょうか?
質問の答えですが、私に名前を授けてくださいましたのは、『神月陽玄様』でございます》
ああ、『神明流初代様』ですか! それじゃあ、誰も文句言わないわな。
「じゃあ、『さぶろう』は1200年前からずっと『従者』をしているのか?」
《はい、その通りでございます! 彰人様がお亡くなりになられた後も、さぶろうは『永久に従者を務める』予定でございます》
「そうか…… 頑張れよ」
もう、これ以上は用はないよな。
「じゃあ親父。今度こそ行ってくるわ」
「そうだな。たまには扉の様子を見に帰ってこいよ」
俺は曖昧に笑みを浮かべながら、ラミオンの第2形態にまたがった。
そして、ラミオンは一瞬で大空高く舞い上がる!
ようやく俺に平和が訪れたんだ。明日から俺の―― バラ色の高校生活が始まるんだ!
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