第48話 彰人、契約を達成する

「それにしても…… 余のあの魔法を受けて、まさかピンピンしておるとは……」


 女王様の開口一番はその言葉だった……

 俺の無事を喜んでくれるのかと思っていたのだが、どうやら逆だったようだ。


 確かに、あの魔法の中でよく町を脱出できたものだ! 我ながら、びっくりする。


 正直、あの巨大な火球を見たときは

 ヤバい! 死ぬかも…… と思った。ところが、火球の直撃こそ避けたとはいえ、あの大爆発の余波をまともに受けたにもかかわらず、俺は無傷で問題なく町を脱出できたのだ。


 今更ながら『神明流』の凄さに感動した! ありがとう、じいちゃん!


 俺は天に向かって感謝の気持ちを伝えた。じいちゃん生きてるし、トラウマも植え付けてくれたけどな……

 それでも、今生きているのは、じいちゃんの修行のおかげなのは間違いない。


 エバンスの町は、跡形もなく吹き飛んだ…… 誰も魔王と魔王軍の消滅を疑わないだろう。


 俺は無事に役目を果たせたんだ!


「陛下。俺の頼みごとを聞いてもらえますか?」


「そうであったな…… で、望みは何だ?」


「陛下には、ラミオンと一緒に『別の世界へ行っていただきたい』のです」


「な、何だと!? キサマは、陛下に『この世界から出ていけ!』というのか!?

 その暴言、聞き捨てならんぞ!」


 ベルゾンが、俺に向かって怒りを露わにして睨んでくる。

 まあ、想定通りの反応だ。


「慌てるな! 別に『永久にこの世界から離れろ』と言ってるわけではない。

 一時的でいいから、別の世界へ行って欲しいと頼んでいるだけだ」


「ふむ! 余は構わん。元より、アキトの頼みを聞く約束であったからな」


 流石は女王様、話が分かる!


「それに、余にはどうしても行ってみたい世界があるのだ」


「それはどこですか?」


「余の敬愛する『天魔帝』が嘗て向かわれた世界だ!」


 天魔帝―― 確か、ラミオンを目覚めさせたという、女王様のご先祖様だな。


「ラミオン。その天魔帝が行ったという世界はわかるか?」


「ラミオンは、そいつが行った世界を覚えている」


 天魔帝が異世界へ向かうとき、ラミオンも扉の所まで付いていったらしい。

 しかし、そこで天魔帝がラミオンに城に帰るように命令したため、ラミオンは異世界へは付いていかなかったそうだ。

 ラミオンは天魔帝に付いてはいかなかったが、天魔帝が扉を通るのを見ていたので、扉に浮かんだ文様を記憶しているという。


「そうか! じゃあ、陛下と一緒にその世界へ行ってくれないか!?」


「別に構わない。但し、マスター以外の者は、ラミオンと一緒に扉を使えるのは4度までと決まっている。その世界へ行った後はどうする?」


「余の我儘を聞いてもらえるなら、暫くその世界で過ごしたいのだ」


「じゃあ、何日後か決めて、『ラミオンに陛下を迎えに行ってもらう』ということでどうだろうか?」


 そういうことで、女王様は別の世界へ行くことに決まった。


「ベルゾンにベルシャよ。お前達には余の留守の間のこと、しかと任せたぞ!」


「はい、陛下! このベルゾン、命に代えても陛下の留守をお守りいたします!」


「陛下。ベルシャも陛下の留守をお守りいたします。こちらのことはお気にせずに、天魔帝様の世界をご覧になって来てください!」


 ベルシャもベルゾンも瞳をウルウルさせている。魔族でも別れは辛いようだ。


「陛下。それじゃあ行きましょうか」


 俺達の予定は決まった!


 俺と女王様は、これからラミオンに乗ってジャルモダへ向かう。

 そして、ラミオンと女王様だけが、扉を通って天魔帝が行った世界へ行き、女王様だけを残してラミオンが戻ってくる。

 俺はラミオンに乗って、エシューゼでの残務処理を行い、再びジャルモダへ戻る。


 そして――


 俺は、晴れて自分の世界へ帰るのだ!



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「アキト、よく来た」「アキト、待っておったのじゃ」「アキト、久しぶりなの」


「アキト様、よくおいで下さいました」


 ジャルモダの神殿に行くと、シーラさんと3娘達が俺達を出迎えてくれた。


 俺と女王様は、ラミオンに乗ってジャルモダに来た。

 エバステからジャルモダまでの約6千kmを5時間掛からずに着いた。それでもラミオンの本気のスピードではないらしい。


「よう! 元気だったか? 3人共、俺の言った修行は、してるか?」


「アキトの修行、してる」「勿論、続けてるのじゃ」「ちゃんとしてるの」


「はい。3人共、毎日欠かさず修行を続けております」


 うんうん。3人共ちゃんとしてるか。偉いぞ!

 俺が満足気に頷いていると


「その2人、アキトの愛人か?」「母様がいるのに、良い度胸なのじゃ」「母様、アキトに捨てられたの?」


「何を言うのです!? 3人共お止めなさい!」


 3娘達は、相変わらずの『おませさん』ぶりだな。


「ところで、アキト様…… 今日はどういったご用件でしょうか?」


「ここに来たのは、この2人が扉を通るためだ」


「アキト。扉を通ることができるのは、『扉の管理者の基準以上の力を持つ者』だけ…… この2人は通れるのか?」


「ああ、問題ない。それより、メルナはラミオンのこと、知っているか?」


「ラミオン? 知らない…… でも、我らの『従者』なら何でもよく知っている」


「従者? まさか、あの『オババ』のことか?」


「オババではないのじゃ! 扉の管理を任されたから、『世界からの使い』が我らに付いておるのじゃ」


 ほお! それはタマみたいなものか!? 俺には気配すら感じられないが、3娘達だけには見えるのだろう。


「ラミオンのことはわかったのじゃ。そっちの少女がラミオンなのじゃな!」


 どうやら、その従者にラミオンのことを説明してもらったようだな。


「それで、ラミオンと一緒にそっちの綺麗なお姉さんが、扉を通るの?」


「ああ、このお姉さんが、ラミオンと一緒に、別の世界に行く」


「そのひとが、ラミオンのマスターなの?」


「違う。マスターは俺だが、事情があって、このお姉さんは、別の世界へ、行くことになった」


 彼女が『魔王』だと教えると、ややこしくなりそうなので、そこは有耶無耶にすることにした。


「わかった…… ラミオンは自由に扉を使っていい」


 ラミオンが扉の前に立った。


「ラミオンが扉を開けるから、お前は後ろからついてこい」


「うむ。余はラミオンと共に、天魔帝の向かわれた世界へ行ってくる。

 アキト、後のことは頼んだぞ」


 ラミオンが扉に触れると、扉に文様が浮かび上がり青白く輝いた!


 その文様が、扉の繋がり先―― 天魔帝が向かった世界を意味する文様だ。


 もしラミオンが天魔帝と共に異世界へ行ってたら、俺と出会うことはなかったかもしれないな。俺としては、その方が幸せだった気がする……


 ラミオンと女王様は、扉を通って行った。

 そして、扉が閉まったとき――


 パンパカパーン!!


 いきなり俺の頭の中でファンファーレが響き渡った!


《彰人様、おめでとうございます! 今この瞬間、彰人様は我が主との契約を無事達成されました! 彰人様は『エシューゼ名誉救世主第3号』としてお名前が刻まれることになります》


《そうか! 俺はとうとう自分の世界へ戻れるんだな!》


《はい。そして彰人様には『エシューゼ救世主特権』が与えられます。

『エシューゼに1日1回自由に出入りできる権利』と――》


《他にも特権がもらえるのか?》


《もう1つは、彰人様と一緒に『エシューゼの者1人が、扉を使うことが出来る権利』でございます》


《1人だけ? 案外ケチくさい特権だな》


《それでもこの特権では、本来扉を通ることのできない『管理者基準に届かない力の者』でも扉を通ることが可能なのです。但し、その同伴者は扉を1往復しか使用できませんが》


 同伴者は1人だけで、しかも『1往復限り』か。『力の制限』がないから誰でも連れていけるわけだが…… よく考えたら俺には連れて帰る人がいなかった。

 この特権は全くの無駄だ。


《で、他には?》


《もうありません。その2つだけです》


 嘘だろ!? あれだけ苦労して貰える特権が、たったそれだけ!?


《ほ、本当にそれで『お終い』なのか? 特別報酬とかそんなのは……》


《本当に『お終い』です。勿論、報酬など一切ございません!》


《そ、そうか……》


 俺が落胆して思考を停止していた時、再び扉が開いた。


「ラミオン、随分早かったな。向こうの扉の管理者と会えたのか?」


「扉の管理者は不在だった。あいつが『1人で大丈夫』と言うから、ラミオンだけ戻ってきた」


「そうか。他には何か言ってなかったか?」


「『300日後に迎えに来て欲しい』と頼まれた。それだけだ」


 300日後か…… 普通に忘れてしまいそうだな。

 忘れたら大変なことになるから、ラミオンに覚えておいてもらおう。



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 今俺はマカラのバレックの屋敷に来ている。


 ジャルモダからマカラまでの約9千kmを、ラミオンは3時間足らずで飛んだ。

 それが本気のラミオンのスピードなのだとか。


 俺はマルデオとバレックに『魔王討伐』の成功を報告した。

 マルデオは俺に感謝の言葉をくれたが、バレックは「やっぱり…… 魔人か」と呟いて引き攣った笑みを返すだけだった。


「アキト、お帰りなさい!」


 エレーヌが俺に抱きついてきた。エレーヌは情熱的だ。ノリがラテン系だな。

 そんな風には見えないが、ネルサもラテン系なんだろうか?


 俺は、家族の見ている前で平気でそんなことが出来るエレーヌに、軽いカルチャーショックを受ける。

 シャイな俺はかなり気恥しいし、バレックの睨むような視線が痛い。


「アキト、呪いは解けたのですか?」


 アメルダ―― お前、まだバレックの屋敷に滞在していたのか?

 アメルダは思った以上に『厚かましい』ようだ。


「否、呪いは解けていない」


 俺のその返事に、アメルダもエレーヌもショックを受けたみたいだ。

 嘘を吐くのは心苦しいが、自分の世界に帰る俺のことは、もう諦めてほしいからな。


 そういえば、ランテスの奴がいないな。


「ランテスは、どうした?」


「ランテスは、アンジェさんに振られたショックで旅に出ました」


 そうか、あいつ旅に出たのか…… そうだ! 俺も『旅に出る』ことにしてしまおう!


……


「アキト…… 旅って、どこへ行くのよ! 私も付いていくわ!」


「勿論、私も付いていきます!」


 げっ!? そうくるか…… 絶対に2人が付いてこれない場所となると


「呪いを解くために、天女の所へ行く」


「天女!? アキトは天女様に会ったのですか?」


「エバステで会った。それで天界へ行って、呪いを解いてもらう」


……


「アキト、絶対に呪いを解いて帰って来てね」

「アキト、待っています」


 エレーヌとアメルダは涙で見送ってくれた。2人を騙しているようで、罪悪感が半端ない。

 2人共、ごめんよ…… 俺のことは忘れて幸せになってくれ。でも、俺は2人の事を絶対に忘れないよ。


「アキト殿、いつでも遊びに来てください!」

「アキト様、お元気で!」


 マルデオとネルサ…… 2人共、世話になったな。いつまでも元気でな!


 バレックは、満面の笑顔で俺を見送ってくれた。



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「そうか…… 魔王様は、天魔帝様の向かわれた世界へと旅立たれたか……」


 俺は『竜種の楽園』に建設中の『魔族達の居住区』に来た。


「あぁ。一応299日後に迎えに行くことになっているし、彼女なら大丈夫だろう」


「そうだな。魔王様がお帰りになるまでに、この地に新たな城を用意しておこう!

 それで、アキト。お前はこれからどうするのだ?」


 俺はベルシャに『自分の世界へ戻る』ことを告げた。


「そうか。だが、ここにも時々遊びに来るがいい。待っているぞ」


「あぁ。俺は『冷静』な男だから、また『クール(来る)』さ!」


「うぷぷぷ……『冷静』で『クール』…… プハハハハ」


 ベルシャ―― お前はマジ女神だ!



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「な、何故キサマがここに……」


 俺はベルシャに頼まれてサーコス帝国にいるセンド達の所へ行った。


「ベルシャから手紙を預かった。ここに要件が書いてある」


 俺はセンドに手紙を渡した。これで俺のエシューゼでやることは全て片付いた。


 さあ!『ジャルモダ』へ行って、俺の世界へ帰るぞ!

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