第45話 彰人、四天王と試合する

 俺は4日後に『魔王軍親衛隊四天王』と戦うことになった。


『グオール』と『ブリンズ』という2人の男が軍議室に入って来て、いきなり俺に勝負を挑んできたわけだが、勿論『平和主義者』の俺は受ける気はなかった。


 なかったのだが、女王様が


「よかろう! その勝負、余が見届ける!」


 と言って、俺の返事を聞くことなく決定した。


 しかも、どういうわけか、もう1人の四天王『ゲンス』まで「私にも戦わせてください」とか言い出して、それも受け入れられた。


 結局俺は四天王の3人と戦うことになった。

 最後の1人の四天王は『ジャロウ』とかいう奴で、そいつは現在サーコス帝国へ遠征中らしいが、なんとなく、そいつとも戦うことになりそうな予感がする……


 4日後になったのは、グオールとブリンズが負傷中のため、彼らが万全の状態になるまで待ってやることにしたからだ。


 そして俺は、この4日間で鈍った実戦感覚を取り戻すために、ラミオンに組み手の相手をしてもらうことにした。

 ラミオンが協力してくれるか心配だったが、意外にもあっさりと引き受けてくれた。



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 今、俺とラミオンは城内の中庭に来ている。


 俺は棍を持って、ラミオンと5m離れた位置で対峙する。


「組手の時間は30分。『飛び道具なし』ということで頼むぞ。

 それじゃあ、ラミオン。よろしくお願いします!」


「ラミオン、マスターに胸を貸してやる」


 ラミオンはその言葉通り、俺が攻撃を仕掛けるのを待つ。

 俺は、1歩踏み込んで棍による突きをラミオンの足元に放つ!


 ラミオンは軽く横にステップして攻撃を躱す―― が、その突きはフェイクさ!


 俺は棍を分離させ、先端をラミオンの右足に絡ませるように操る。


 しかし、ラミオンはすぐさまバックステップでその攻撃も躱し、俺が棍を戻す前に一瞬で俺の懐に入りパンチを繰り出す!


 俺が如何に霊気を身体に纏って防御力をUPしていても、ラミオンのオリハルコン製の腕から繰り出されるパンチを喰らえば、大きなダメージを受ける。

 俺は、ラミオンのパンチをギリギリまで引き付けて躱し、カウンターの肘をラミオンのボディに当てた!


 ラミオンの身体が後ろにズレる―― が、


「いてえぇぇ!」


 攻撃を当てたはずの俺の方がダメージを受ける。


 ラミオンは全身がオリハルコン製だ。しかも、魔力によって、そのオリハルコン製の身体全体が強化されている。


『オリハルコンを強化』って、絶対反則だろ!


 ラミオンへの生身による攻撃は、無意味どころか攻撃したこっちがダメージを受けるだけだ。


 ラミオンは俺の隙を逃さず、連続パンチを繰り出す。


 流石に、この連打を全部躱し切るのは無理―― 俺はまともに受けないように慎重にパンチを捌く。しかし! ラミオンの攻撃はパンチだけではない!


 ローキックが俺の右足を襲う!


 ガキッ!


 ギリギリで棍を引き戻してブロック!


 そして、棍で地面を突いてラミオンと距離を取る―― 仕切り直しだ。


「流石だな、ラミオン。今の蹴りを受けてたらヤバかった」


「マスターもなかなかやる」


 ラミオンの誉め言葉に、自然とニヤける。


「笑顔20点、キモい」


 ガーン! 俺はラミオンの精神攻撃で大ダメージを受けた……


……


「ラミオン、サンキューな!」


 ラミオンのおかげで、久しぶりに質の高い組手ができた!


 この調子なら、4日後は最高の状態で戦いに臨めそうだ。


「ラミオン。明日も頼む」


「わかった。明日はビームを使ってもいいか?」


 ビームか…… 確かに、魔族の連中は放出系の技が好きそうだから、対策として考えると『あり』なんだが、ラミオンのビームは危険すぎるからなぁ……


「ビームはまだ『なし』で頼む」


「わかった」



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 城内で暴れていた人族の少女が『ラミオン』であったことは、幹部の者以外には秘密とされた。

 今もラミオンは城内を悠然と歩いているが、もう誰も止めようとはしない。


『今後、人族を城内で見かけても、攻撃してはならない!』


 昨日魔王様から、その御触れが出されたのだ。


 ゲンスは納得いかなかった。


 ラミオンは兎も角、あの『アキト』とかいう人族の男まで、城内を我が物顔で歩いているのだ。しかも、あまつさえ魔王様の料理まで、アヤツが作っていようとは!


 魔王様に目を覚ましていただくためにも、3日後の試合であの人族の男をペシャンコに潰してくれる!


 ゲンスは静かに闘志を燃やすのだった。



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ブリンズは激しく闘志を燃やしていた。

 自分をボロボロに叩きのめした相手が『ラミオン』であったことを知って、ブリンズはかろうじて自尊心を保っていられた。


 そうだ! ラミオンを傷つけるわけにはいかないから、あれで正解だったのだ!


 ブリンズは自身にそう言い聞かせた。


 とはいえ、怒りをぶつける対象が必要だ。


 あの人族の男をギタギタに叩きのめして、儂の恐ろしさをもう1度皆に知らしめねばならない。


 身体はもう癒えた! 2日後が待ち遠しいぞ!



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 グオールは部屋で瞑想していた。


 グオールの頭の中では、あの日のラミオンとの戦闘の記憶が再生されていた。


 グオールの武器は双剣。2本の剣に魔力を通すことで、『全てを切り裂く』とまで言われる切れ味を生み出す。しかも、グオールは剣に溜めた魔力を剣閃に乗せて放ち、離れた敵をも切り裂くのだ。


 グオールはラミオンの懐に一瞬で入り込み、双剣で切り裂いた! はずだった……

 しかし、斬ったはずの手応えが全くなかった。

 それが残像だと気付いたときは、既にグオールの感覚は天地逆になっており、その後のことは記憶に残っていない……


 グオールにとってラミオンとの戦いは、生まれて初めての完敗だった。


 グオールは人族の男を倒した後、ラミオンとの再戦を魔王様に許してもらおう―― そう考えていた。


 明日は絶対に勝つ!



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 私はベルシャ様を見かけたので、あの『アキト』とかいう人族の様子を尋ねることにした。


「ベルシャ様。あの人族の男はどうしておりますか? 明日の試合を前に、震えて逃げ出そうとしておるのではないですかな!?」


「ゲンス。お前はアキトを甘く見過ぎている。アキトははっきり言って『化物』だ」


「化物!? ハハハハハ―― ベルシャ様もご冗談がお好きですな」


「信じる信じないは、お前の勝手だ。たしか、アキトは今中庭にいるはずだ。

 ゲンス、1度見てきてはどうだ?」


「そうですか…… では、ベルシャ様、失礼いたします」


 私はベルシャ様の言葉を信じたわけではないが、少しは敵のことを見ておくのもよかろう。


 そう考えて、中庭に足を運んだ。


 中庭からは何やら音が聞こえてくる。


 あの男、ラミオンと戦っておるのか!? どれどれ――


 そこで私は見た! あの恐ろしい光景を!


 私は謎の腹痛に襲われて、明日の試合を辞退することにした……



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ん!? あそこを行くのはゲンスではないか……


 あやつ、どこへ向かっておるのだ? 怪しいのう!


 儂はゲンスから少し離れて、後ろを付けることにした。


 どうやらゲンスは中庭に行くようだ。こんなところに何か用でもあるのか?


「やるなあ、ラミオン!」


 ん!? この声は! 人族の―― あの男の声ではないか!


 儂はゲンスに見つからないように距離を取ったまま、中庭の様子を伺った。


 そして――


 そこで儂は見た! あの恐ろしい光景を!


 儂は持病の腰痛が再発して、明日の試合を辞退することにした……



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 吾は考え事をしながら城内を歩いていた。


 明日の試合―― 人族の男との試合などはどうでもよい。

 その後のこと―― ラミオンとの再戦のことを!


 ラミオンは強い! 如何にして戦えばよいか……


 だが、戦闘プランはできつつある。明日は必ず勝利を収める!


 その時だった……


 ドバーーン!!


 その大きな音が聞こえた後の記憶がない。


 気付いたときはベッドの上で、包帯でぐるぐる巻きにされていた……


 試合の日は、とっくに過ぎていた。



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ドバーーン!!


 中庭の壁が吹き飛ぶ。


 ヤバかった……


 俺は明日に向けての最終調整を行っていた。

 最後ということで、ラミオンにはビームの使用を1発だけ許可した。


 その結果が『コレ』だ……


 壁の側に誰もいなかったよな!?


 ラミオンとの組手中は、周りの様子を探る―― なんて無理。ラミオンに集中してないと大怪我してしまうからな。


 俺はラミオンの放ったビームを辛うじて棍で弾き飛ばした。周りを気遣う余裕なんて全くなかった。


 それにしても…… ラミオンのビーム、強力すぎだろ!


 1発だけ―― って言っておいて正解だった…… あんなの無制限で撃たれたら、絶対に死人が出る。


 とはいえ、ラミオンのおかげで充実した4日間だった。


「ラミオン。ホントに4日間助かったよ!」


「ラミオン、マスターを半殺しにできなくて不服」


 おい! もしかして稽古に付きあてくれてたのは、半殺しソレが目的だったのか!?


 ラミオン。俺の感謝の気持ちを返せ!


「もしかして、俺―― ラミオンに嫌われてるのか?」


「心配ない。ラミオンに恋愛感情はない」


 微妙に会話が食い違ってる気がするが、ラミオンのおかげで、いい稽古ができたのは確かだ。


 後は明日のために身体を休ませよう。



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 俺はその日の前日の夜に城に戻った。


 どういうことだ!?


 魔王様は「人族との争いを中止する」

 そう仰ったのだ……


 一体俺が城を離れている間に何が起こったのだ?


 城内の噂を聞いた。

 人族の男が魔王様に取り入って、何かを吹き込んだらしい。

 それに反発して、四天王の3人が明日その男と戦うという。


 これは俺も参加せねばなるまい!


 ゲンスとブリンズを見つけたので、俺も戦うことを2人に告げると、


「そうか、ジャロウ! お主が戦いたいか! ならば1番をお主に譲ろう!」


 そう言って、俺に名誉ある1番を譲ってくれたのだ。


 2人共遠征に失敗した俺のために、気を使ってくれたのだろう!


 俺は必ず2人の期待に応える!


 そういえば、グオールは事故に遭って大怪我をして、試合に出られないそうだ。

 ツイてないヤツだ。



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 試合当日――


 俺は、四天王の連中がどうやって俺との対戦順を決めるのか、気になっていた。


 俺は当然あいつら全員に勝つことしか考えていないが、あいつらも同じように『自分が勝つ』―― そう信じているはずだ。


 となると、1人目に選ばれないと俺と戦えないかもしれないわけで、順番決めで揉めるのでは? 俺はそう思っていた。


 ところが、俺の対戦相手は意外にも『くじ引き』で決めるらしい。


『くじ引き』というと、俺には『運任せ』としか思えないのだが、魔族の間では『思いの強い者が必然的に選ばれる』という考えであるらしい。

 そのため、選ばれた者は選ばれなかった者より『思いが強かった』ということで、全員から称賛されるというのだ。


 四天王の連中全員が、自分の思いが1番強くて、自分が必ず1番に引き当てられることを信じて疑っていない。

 そして1番に選ばれた自分が、俺に勝利する―― そのように全員が考えているので、順番決めで揉めることは全くないらしい。


 なかなか平和的な解決策だ。俺は感心した。


 正直、魔族の連中なら争って順番を決めるのかも―― と思っていた。


「今日は魔王様が直々にくじをお引きになられるのだ。1番に選ばれた者は、それだけで名誉なことなのだ」


 とベルシャが言っていた。


 きっと連中は、相当気合が入っているはずだ。俺も気を引き締めないといけないな!


……


 ところが――


「本当に構わぬのだな? アキトの対戦相手をジャロウに決めて」


 俺の対戦相手は、くじ引きを行わずに『ジャロウ』という大男に決まったようだ。


 何でも、グオールは事故に遭ったらしく、大火傷を負い瓦礫の下敷きになっていたのを助け出されたそうで、今は瀕死の重体だとか。


 ゲンスは謎の腹痛、ブリンズは持病の腰痛の再発ということで、2人は今日の試合自体をパスするらしい。


 俺としては、ラミオンとの組手のおかげで『絶好調』に仕上がっているだけに、1人だけで戦いが終わるのは少し物足りないが、怪我人や体調不良の者を相手にするのは気が進まないので仕方ない。


「真に残念ではありますが、ここはジャロウに任せることに致します」


 ゲンスもブリンズも残念がっているようには見えないが、俺の気のせいか?


「では、ジャロウが負けた場合は、四天王全員の敗北ということになるが―― それで構わぬな!」


「陛下! 勿論それで構いません!

 それに、このジャロウ―― 人族如きに負けることなど有り得ません!」


 ジャロウはやる気満々だ。俺も気合を入れる。


「よかろう。ではジャロウ! そしてアキト! 2人共、存分に戦うが良い!」


 戦いの合図の銅鑼が鳴らされる!


 ごーーん!!


……


 済まぬ! ゲンス、ブリンズ……


 2人は俺に対戦を譲るために、仮病まで使ってくれたのだな!


 俺は対戦相手の顔も知らぬ状態だったから、『戦いへの思い』は2人程強くない。

 くじ引きでは、恐らく俺が選ばれることはなかったであろう。


 2人の厚意を無にするわけにはいかない!

 俺はこの『人族の小僧』を一瞬で葬って、2人の思いに応えよう!


 俺は銅鑼の音が鳴ると同時に、身体強化した膂力で思い切り地面を蹴り、一瞬で小僧との間合いを詰める!


 そして―― 我が剛腕で持って、戦斧を小僧の脳天に叩きこむ! 終わりだ!


 カン!


 何が起こったのだ?


 俺の右腕に握られていたはずの戦斧が―― 上空に弾き飛ばされている!?


 ごふぉ!?


 俺が戦斧を目で追った一瞬の内に、全身に衝撃が走った。


 気付いたら、俺は背中から地面に叩きつけられた…… のか?


 俺は慌てて起き上がり、小僧の方を見る。


 小僧は、『期待外れ』―― そう言いたそうな眼で俺のことを見ている。


 許せん! 人族如きが俺を侮辱するなど!


「少しは『できる』ようだな……」


 俺は相手を舐め過ぎていたようだ。俺は小僧の見た目に騙されて油断してしまったのだ!


 だが、もう油断はせぬ! お前を一端の『戦士おとこ』と認めてやる!


 俺は転がっていた戦斧をもう1度手に取り、今度は本気の速さで『戦士おとこ』との間合いを詰め戦斧を振り下ろす! と見せかけ左手で気弾を放つ!


 俺の気弾の威力は、ミスリル製の鎧も軽々と粉砕するのだ!


 ポン!


 え!? 『戦士おとこ』は、俺の気弾を右足で軽く蹴り飛ばして――


「軽々しく、気を放出すんじゃねぇ!」


 その言葉の後、『戦士おとこ』の右足が!

 目にも止まらぬ速さで俺の顔を蹴った。


……


 許せ、ジャロウ……


 私は心の中でそう呟いた。


 私は昨日見てしまった。人族の男『アキト』がラミオンと戦っているところを……


 ラミオンの動きは、離れた場所で冷静に観察しても、速すぎて全く目で追うことが敵わなかった。


 それなのに――


 アキトは、ラミオンの攻撃を、あの棒1本で全て防いでいたのだ。

 それどころか、あのラミオンに時折攻撃を行い、互角の攻防を繰り広げていた。


「アキトははっきり言って『化物』だ」


 ベルシャ様のその言葉がようやく理解できた。


 そして―― 私はその後にもっと恐ろしいものを見た!


 ラミオンが最後に放った熱線攻撃!


 間違いなく『炎魔帝』と呼ばれる魔王様の最強魔法『インフェルノ』に匹敵する熱量を秘めていた!


 それをアキトは、あの棒で難なく弾き飛ばして見せたのだ!


 壁は一瞬で破壊され、その熱でドロドロに溶かされていた。


 あんな攻撃を喰らったら……


 戦闘以外の時も、常に強力な魔力で全身を包んでいるグオール以外の者なら、蒸発していたに違いない……


 アキト―― あの者は紛う事なき『化物』だ!


 今ジャロウの顔は、アキトの蹴りを連続で喰らい続け、倍に膨れ上がっている。


 許せ、ジャロウ……


 私はもう1度心の中で呟くのだった。


……


「そこまでだ! 勝者―― アキト!」


 女王様が、俺の勝利を宣言した。


 ジャロウは完全に気絶しており、崩れ落ちるように地面に倒れた。


 ちょっとやり過ぎたな……


 あまりにもあっけなく勝ってしまったので、正直うれしさよりもガッカリした気持ちの方が大きいが、この俺の勝利で、魔王軍の連中がエバステを放棄し『竜種の楽園』と呼ばれる大陸に移住することが決定したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます