第40話 彰人、女神を見つける

「この少女がラミオンですと!?」


 モフモフレッド―― センドとかいう奴が、いきなり素っ頓狂な声を上げた。

 俺が説明しても「我らを愚弄するのか!」と怒って話にならなかったから、ベルシャに説明してもらったんだが―― 洞窟の中は反響するから一々大声で驚くなよ!


「し、信じられません…… 確かに、ラミオンは変身する―― そういう噂は聞いたことがありましたが、まさかこのような姿になるなど……」


「私も初めは信じられなかったが、事実だ」


「しかし、噂ではラミオンが変身するのは『強い力を持つ者に出会ったとき』と言われておりましたが……」


 センドは、ちらりと俺を見た。


「ベルシャ様、まさかこの人族が『強い力を持つ者』とは、言われませんよね?」


「信じられぬであろうが…… その『まさか』だ」


 ラミオンは『強い力を持つ者に出会ったとき』変身する―― それは、ラミオンがマスター候補に出会ったときに、第3形態に変身することを言ってるのだろう。

 しかし――


「ラミオン。お前が変身することを、何故魔族の連中は知ってるんだ?」


「ラミオンの取り扱い説明書に書かれているからだ」


 ラミオンの取り扱い説明書!?


「そんな物があるのか?」


「当然だ。取説がなければ、第1形態のラミオンは只の人形と思われて、力の強い者がラミオンに触れないかもしれない。逆に取説を読めば、力に自信のある者なら、ラミオンを起こそうとする」


 確かに只の人形と思われたら、子供しか触らないかもしれないな。


「で、取説にはどんなことが書いてあるんだ?」


「取説には、『強い力を持つ者がこの人形―― ラミオンに触れたなら、人形が目覚め巨大化して動くようになる』ということと、『更に強い力の者が現れると、ラミオンはその者に引き寄せられ、真の姿に変身する』ことが書かれている」


「それだけ? 他には何も書いてないのか?」


 マスター候補の強制試験のことなんか、生命に係わることなのに書かれていないのか!? PL法違反で、完全にOUTだろ!


「それだけだ。詳しいことはマスターだけが知ればよいし、それはラミオンが直接伝えるから問題ない」


 詳しいこと? 俺、ラミオンから何も教えてもらっていない気がするんだけど…… 気のせい?


「マスター、お前がラミオンを目覚めさせた初めての男だ。お前には責任を取る義務がある」


 その言い方―― 事情を知らない人に聞かれたら、絶対に違う意味に取られます……

 しかも、ラミオンは幼女にしか見えないから、俺の事『ロ●コン』の危ない人と思われます……


「ラミオンさん。そのセリフは、人前では絶対に言わないでください」


……


「そのベリオヌの町まで、走っていくわけだな?

 1500kmか…… 我ら犬鬼族ならば4~5日もあれば着ける距離だが、人族ではそうはいくまい。どうするつもりだ?」


 センドはそんなことを言ってるが、俺は勿論4~5日も掛けるつもりはない。


「当然走っていく。ベルシャはラミオンに背負ってもらう。俺達だけなら、丸1日もあれば着けるはずだ」


「な!?」


 モフモフ4人組は、俺の言葉に固まっている。


「晩飯を済ませたら、俺達はすぐ出発するが、お前らは後からゆっくり来ればいい」


「な、何を言うか! わ、我らも一緒に出発するわ!」


 そうしたいなら、それでもいいけど―― 大声を出さなくてもいいだろ!

 何度も言うが、洞窟の中は反響してうるさいんだよ!


……


「それにしても、アキトの料理はいつ食べても『絶品』だな!」


 気球の墜落の際に、食料と調理道具はしっかりと持ち出した。

 食料は多目に用意していたが、走っていくには荷物になるので、ここでほとんど使い切ることにした。


「むぐぐぐ…… 口惜しいが、美味い……」


 モフモフ4人組は、何故か口惜しがっているが、料理自体は満足しているようだ。


「だが―― それで『勝った』とは思わん事だ!」


 別に、勝ち負けを競ってませんが?

 魔族は何でも勝負に絡めたがるようだ。よく分からん奴らだ。


 兎に角、晩飯を食べ終えたので、予定通り俺とラミオンとベルシャは、ベリオヌの町へ向けて出発する。


「アキト…… 私は、本当に『これ』に乗って、ラミオンに背負われるのか?」


 ベルシャは椅子に座り、その椅子をラミオンがリュックのように背負い、ベルシャとラミオンが背中合わせの形になるのだ。


「大丈夫だ。椅子も紐も、耐久性に問題ないはずだ!」


「否、それよりも…… 背負われるのが恥ずかしい気がするのだが……」


 幼女に背負われる大人―― 確かに、かなりシュールな映像だ。


「頑張れ!」


 俺はベルシャを励ます。


「そうだな。こんなことで恥ずかしがっていては、魔王様に進言などできぬな!」


 ベルシャは意を決して、椅子に座る。

 ラミオンがベルシャの座った椅子を背負い、俺は明日の分の弁当を風呂敷に包む。

 出発の準備は整った。


「我らも行くぞ!」


 モフモフ4人組も一緒に出発するつもりのようだ。


「よし! 行くぞ!」


 俺の掛け声と同時に、皆一斉に走り出した!



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 出発して3時間―― 時刻は午後11時過ぎ


 俺は本気で走るのが久々だから、結構気持ちいい!

 俺の横を、ベルシャの乗った椅子を背負ったラミオンが走る。


 モフモフ4人組は、スタートから1分後には、「待てえぇぇ!」という声だけを残して後ろに消えて行った。


 ラミオンは、ときどき目からビームを出して、目の前の障害物を消し去ってゆく。


 ドーン!


 今も、正面から向かってきたミドサウロスを1匹仕留めた!


 上半身が粉々に吹き飛び、残った下半身を俺とラミオンは同時に飛び越える。


「今、大きな音がしたが…… 何かあったのか?」


「気にするな。それよりも、落とされないように注意しろ!」


 俺とベルシャのそのやり取りも今ので3回目―― 本当に、安全で順調な道中だ。



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 更に3時間ほど走った―― 時刻は深夜2時過ぎ。


 俺達の目の前には大きな川が! やはり、空から行くのと違って、走って行くと障害が多い。


 向こう岸に渡れる場所を探さないとな。

 橋の架かった場所が、近くにあればいいんだが……


「ラミオン。夜だけに、慎重に渡れる場所を探さ『ナイト』いかんぞ!」


 場を和ますための、俺の渾身のダジャレ!


「笑い0点、センスなし」


 容赦ないラミオンの評価に、俺の心は折れそうになる……


「今のは、どういう意味なのだ?」


 ベルシャは既にニホン語ペラペラだが、流石にお笑いを理解するまでには至っていないようだ。

 俺は、今のダジャレの笑いのポイントである、『夜』と『ナイト』を掛けたことを説明する。


「夜だからナイト―― なのか!?

 アキト、お前は面白い奴だな! ハハハハハ!」


 何てことだ! ベルシャは俺の笑いを理解したようだ!

 俺は、気分をよくしてダジャレを連発する!


「月の光を浴びませんか? いえいえ、月光(結構)です」


「月光と結構を掛けたのか? ハハハハハ!」


「この川に、やリバーのない怒りを覚える!」


「川でリバー―― ヒィヒィヒィ…… く、苦しい…… アキト、お、お前は、わ、私を笑い死にさせる気かあぁぁぁ!」


 ベルシャ! 俺にはお前が女神に思えてきたぞ!

 俺の中のベルシャへの好感度がMAXになった!


……


 10km程上流で橋の架かっている場所を見つけた。


 この川を越えた向こうは、六大国の1つ【バルドバル連合国】の領土になるようで、橋の前には入国管理所が設置されていた。


 困ったな…… 話すのはタマがいるから何とかなるが、文字は全く分からないから書くことは俺には無理だ。


《タマ。管理所を通らずに入国できるルートはないか?》


《彰人様。ジャルモダで貰った『特別通行証』があれば、エシューゼのほとんどの国で手続きなしで入国可能です。バルドバル連合国にも入国できるはずです》


 なんと! あれはそんな優れものだったのか!

 ジャルモダだけで有効なのかと思っていたら、他の国でも有効とは―― 超ラッキーアイテムだった!

 先にジャルモダへ行ったのが功を奏したな。


 そういえば、あのモフモフ共―― ここまで来た後どうするつもりだろう?


 入国の手段はなさそうな気がするが…… まあ、俺には関係ないし心配するだけ時間の無駄だな。さっさと入国管理所を通り過ぎよう。


 俺達は『特別通行証』を見せただけで、簡単にバルドバル連合国に入国できた。

 そして、ベリオヌの町を目指して再び走り出した。



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 途中2度食事休憩をはさんだが、午後8時前―― ついにベリオヌに到着した。予定通り1日で1500kmを完走したのだ。


 流石にほぼ走りっぱなしで少し疲れた。宿でゆっくり休みたいな。

 そう思って町の門に向かったのだが――


 戦闘でもあったのか?


 門も町を囲む壁にも破壊の痕が見られ、門の前にいるはずの門兵も見当たらない。

 町の中は、燃えた建物の残骸が数多く見られ、人の気配は全くしなかった。


 もしかして、魔王軍の襲撃があったのか?


 しかし、見たところ町の中には死体が1つもない。これだけの町の惨状から、激しい戦闘があったのかと思ったが、死体がないのは不自然だ。


 町の人達は、魔族の襲撃前に非難したのだろうか?

 それに、町を襲った魔王軍がどこへ行ったのかも気になる。


 兎に角、俺達は身体を休める場所を探すために、町の中を調べることにした。



   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ――アキト達がベリオヌに到着する30日前――


「トール様! 本当に我らに『町を捨てろ』―― そう言われるのですか?」


「マウロン町長。その決断が辛いことは私も重々承知しています。

 しかし、ここに留まっていれば、必ず魔王軍が攻めてくるでしょう。

 もし、その前にサーコス帝国の軍隊が駆け付けたとしても、魔王軍が相手では絶対に勝てるという保証はありません。

 それに、残念ながらこのベリオヌの町は、防衛に向いた場所ではありません。ここで戦闘になれば、間違いなく大勢の民の生命が失われるでしょう」


「しかし、逃げるとしてもどこへ行けば……」


「南にあるベグオン砦まで逃げ込むことです。ベグオン砦なら魔王軍といえど簡単には攻略できないでしょう。

 町長は私の船で、帝都【サーコスタル】へ魔王軍が攻めてくることを伝え、ベグオン砦に兵力を集めるように皇帝陛下に頼みに行きましょう」


「考えている猶予はないのですね…… わかりました。住民達には、一刻も早くベグオン砦まで逃げるように御触れを出しましょう」


「それと、もう1つ―― これは、町を捨てる以上に酷な決断を迫ることになりますが、どうしてもそうする必要のあることなのです。どうか冷静に聞いてください」


「それは一体……」



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 俺達は、寝床を求めて町の中を歩き回った。

 しかし、町の中の建物は見事なほど全て燃え尽くされていて、そこら中に瓦礫が散乱している。


 木造の建物は言うまでもなく、レンガ造りの比較的丈夫そうな建物も、中は完全に燃えカスが残っているだけで、とても眠れるような場所は残っていない。


「これは酷い…… もしや、我らの同胞がやったのだろうか……」


 ベルシャは沈痛な面持ちで呟いたが、俺はそうは思わない。


 町1つをここまで徹底的に燃やすのは、なかなか大変だ。

 しかも、これだけの破壊の後にも拘らず、死体が全くないのだ。


 これは、『燃やされた』というよりも、わざと『燃やした』という感じがする。


 俺は、これをやったのは『魔王軍』でなく『町の人』なのでは? と思うのだ。


 魔王軍の襲撃を予想して、町の人達を避難させ、町の人達が完全に避難した後に建物を燃やした―― というのが正解だと俺は考える。


『町を燃やす』とは、かなり思い切った選択だが、そうした理由は『町を魔王軍の拠点にさせないため』に違いない。


 町がこの状態では、攻め込んだ魔王軍は食糧も寝床も確保できないまま、更に奥へ進むしかない。

 そして、その状況が続けば、魔王軍はすぐに補給がままならなくなり、撤退するしかなくなるだろう。


 そのせいで俺達も、食料も寝床も確保できそうになくて困っている。


 港の方へ行ってみるか。恐らく船は残っていないだろうが……


 そう思っていたが、停泊中の舟を発見した!


 ギリギリ20人程が乗れそうな小型の舟が9艘―― これで海を渡るのは、それなりに覚悟がいるが、無いよりはマシ程度のものだ。


 近付いてよく見ると、これらの舟はロープで結ばれて1塊になっている。

 なるほど、1艘ずつよりも1塊にすることで沈没しにくくしてあるようだ。


 てことは―― この舟で、海を越えてこの町まで来たのか?


 つまりこれは『魔王軍の舟』ということか!


 この舟から推測できる魔王軍の数は150程度か―― 魔王軍には空を飛べる者もいるからもう少し多いかもしれないが、それほど大軍で攻め込んだわけではなさそうだ。


 六大国の1つである『サーコス帝国』を攻めるには、少なすぎる数だ。

 これなら、すぐに国が滅ぼされるような心配はないだろう。


 結局、町の中に寝床になりそうな場所を見つけられなかった俺達は、町の外で野宿することにした。

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