第34話 彰人、ぬか喜びする
「お前を、マスターに認定する」
俺はラミオンにそう告げられた。
『マスター』って『お前』呼ばわりされるものだったか?
凄い上から目線で言われているような気がするが……
「いえ、結構です。謹んでご辞退します」
「辞退は認めない。お前はこれからラミオンのマスターとして、ラミオンの創造主様の遺志を継ぐ義務を得た」
義務を得た!? 意味わかりませんが?
「そんなの、得たくありません……」
「名誉なこと。喜べ」
「ところで、その『創造主の遺志』とは何なのでしょう?」
「今は知る必要はない。時が来たらラミオンが教える」
そうですか……
「あのー、その『時が来る』まで、俺はどうすればよろしいですか?」
「好きにすれば良い」
自由にしていいんだ! ちょっとホッとする。
「ラミオンさんに聞きたいことがあるのですが…… よろしいですか?」
「構わない。それに、マスターは敬語を使わなくて良い」
なんだ! 敬語でなくていいのか。
ラミオンが上から目線だから、思わず遜ってしまったぜ。
とにかく聞きたいことは山ほどある。
……
以下が、ラミオンへの質問とその回答だ。
Q.ラミオンはいつどこで造られた?
A.マスターの世界基準で約2千年前に造られた。どこで造られたかは分からない。
Q.ラミオンが俺をマスターに選んだ理由は?
A.お前がマスターに相応しい力を持っていたからだ。
Q.試験をしたのは何故?
A.力だけではマスター候補止まりだ。マスターの認定には、戦闘の実力を見る必要がある。
Q.ラミオンに似た
A.ラミオンシリーズは5体ある。それもシリーズの内の1体だと思われる。
創造主はラミオン達を【魔導人形】と定義していた。
Q.ラミオンシリーズとは何だ?
A.アルファ・ベータ・ガンマ・デルタ・イプシロンの5体のラミオンのことだ。
それぞれ竜、虎、鷹、馬、犬をモチーフにして作られている。
Q.お前は鳥の姿をしていたが、もう鳥には戻れないのか?
A.鷹スタイルはラミオンの第2形態で、いつでもなれる。
Q.形態とは?
A.ラミオンには第1形態から第3形態までのスタイルがある。
第1形態は鷹人形スタイルだ。自己の意思はなく動くこともない。
第2形態は鷹スタイルだ。強い力を持つ者が、第1形態のラミオンに触れることで発動する。自己の意思は眠ったままだが、近くにいる強者の意思を反映して、動くことができる。
第3形態が人型スタイルだ。マスター候補に出会うことで、第3形態が発動する。この形態になると自己の意思で行動できるようになる。
第3形態まで進むと、第2形態と第3形態は自由に変身可能となる。
Q.俺が以前見たラミオンは、人型スタイルのようだったが動かなかった。故障しているのか?
A.恐らく、マスターとのリンクが切れて眠っていると思われる。
起こすには、マスターとの再リンクが必要だ。
Q.リンクとはなんだ?
A.ラミオンがマスターと認めた者と精神を繋ぐ。それにより、例えマスターが別の世界にいても、ラミオンにはマスターの居場所がわかる。
リンクが切れるのは、マスターが死んだときか、マスターかラミオンが特殊な場所に隔離されたときくらいだ。
ラミオンの存在目的や創造主のことはNGのようで、答えてくれなかった。
……
ラミオンは、マスターとのリンク切れの状態で50日が過ぎると、スリープ状態へ移行し、スリープ状態で更に千日が過ぎると強制リセットが掛かり、第1形態へ戻るらしい。
俺が研究所で見たラミオンは、スリープ状態にあった。
ということは、マスターとのリンク切れを起こしてから、1050日以内であったということだ。
即ち、約3年以内にはマスターが存在していたことになる。
そのマスターは一体どうしたのだろうか?
美樹さんは、どうやってラミオンを手に入れたのだろうか?
ラミオンについて、気になることがいろいろ出てくる。
まぁ、今考えても仕方ないな。自分の世界に戻ってから考えればいいか……
それよりも、今は目先の問題が大事だ。
魔王の元へ行く―― という俺にとっての最重要事項が、ラミオンの力で達成できるかもしれない!
「ラミオンは、魔王の居場所が分かるか?」
「勿論、分かる」
よしよし! となると次の問題は、俺が魔王に勝てるかどうかだ。
「ラミオン。俺はその魔王に勝てると思うか?」
「愚問。ラミオンのマスターが、あの程度の者に負けるはずはない」
「そうか! でも魔王には2千の手下が付いているし…… それでも大丈夫かな?」
「もしマスターが苦戦するようなら、ラミオンが手を下す」
おおっ! やっぱりマスターに協力してくれるのか! そいつは頼もしい!
「そして―― マスターを消し去る」
えっ!? 俺を消し去る?
「あのー、ラミオンさん…… それはどういう意味なのでしょうか?」
「決まっている。あの程度の者達に苦戦するということは、創造主様の【マスター認定プログラム】にバグがあったことを意味する。
創造主様のミスなど、ラミオンは認めない。だから、マスターに消えてもらい『なかったこと』にする」
俺が苦戦したら、ラミオンまで敵に回るのか!? 恐ろしすぎる……
やはり、当初の予定通り『魔王と1対1』に持ち込むのが最善だな。
それさえできれば、俺はもう目的を達成できたも同然だ!
「それじゃあラミオン。第2形態に変身して、今直ぐに俺を魔王の元まで連れて行くことは可能か?」
「それはできない」
「ど、どうして?」
「認定試験にエネルギーを使い過ぎた。ラミオンがマスターを乗せて飛べるようになるまで、60日のエネルギー充填期間が必要だ」
やっぱりか!? あの攻撃―― 洒落にならない威力だと思ったが、そこまでのエネルギーを消費していたのか!
「心配いらない。飛行能力以外の基本性能には、大きな影響はない。それに、ラミオンだけなら7日の充填期間で飛べるようになる」
なんてことだ…… 俺の計画が…… またしてもスタートに戻ってしまった。
「マスターを魔王の元に連れていく方法は、もう1つある」
おおっ! まだあったのか! 最初から教えてくれればいいのに、ラミオンさんも人が悪いな。
「ラミオンがマスターを背負って走る」
「えっ!? それって第2形態になって?」
「第2形態になるのはエネルギーの無駄。第3形態のままでマスターを背負って走る。ラミオンは何日でも休みなく走り続けるから、15日以内に魔王の元に着けるはずだ」
幼女に背負われて、何日も町から町へ旅をする?
考えるまでもない―― 却下だ!
やはりダリモの鳥車で、地道に向かうしかないようだ……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「アキト殿。この美しい女性は、どなたなのですか?」
ここはマカラの町のマルデオの屋敷―― その一室。
俺は気絶している『その女性』を、誰にも見つからないように、こっそりとマルデオの屋敷まで運び込んだ。
彼女の姿を見られたら、きっと大騒ぎになるだろう。
俺はそう思っていたから、魔王のことを知っているマルデオだけに知らせて、この部屋まで運んだのだ。
ところが、気を失ったままベッドで寝かせている彼女を見たマルデオの反応は、俺の想像していたものではなかった。
確かに彼女は美人だが、これだけ人間と違う部分の多い彼女を見れば、もっと驚いた反応を示しても良さそうなものだが、マルデオはあまり驚いた様子がない。
「見て分からないか? 真っ赤な肌や、角が生えた人間は、この世界にはいないだろ。恐らく、魔王の手下だ」
「アキト殿、そんな御冗談を!」
マルデオのツッコミは、俺の予想とは全然違った。
「魔王の手下と言ったら、髑髏の兜を被り、顔には白と赤のペイントを施している―― と相場は決まっております」
マルデオは、今回の魔王と伝説の魔王は全然別物で関連がない―― ということが分かっていないようだ。
「確かに、私も赤い肌や角の生えた人を見るのは初めてでございますが、世界中を探せば他にもおられるのではないですか?」
「気にならないのか?」
「アキト殿には、何か気になるようなことが、おありなのですか?」
マルデオは本気で全く気にしていないようだ。
エシューゼでは、見た目の違いで人を判断することはない―― そういうことか?
《タマ。エシューゼでは、マルデオみたいな考え方が『普通』なのか?
それともマルデオが『特殊』なのか?》
《そうですね。彼のような考え方が一般的だと思われます。
『見た目が違う』とか『特殊な力を持っている』というだけで、恐れられたり迫害されるようなことは、エシューゼではありません》
俺の世界とは大違いだ! でもエシューゼでも戦争はあるんだよな。
《じゃあ、戦争は何が原因で起こるんだ?》
《基本は領土問題です。人間達は、少しでも自分の国を大きくして裕福になりたい、と考えるようです》
その辺は、俺の世界と変わらないのか。
《他の原因はないのか?》
《特殊な例もございます。
タマにはよくわからないのですが、何故か人間の中には、『禿』を気にする者が多いのです。70年前に起こった『レミール公国とグリフォール王国の戦争』の発端は、両国の王が会食中に、レミール王のカツラがズレたのを見て、グリフォール王が吹いてしまったこと―― と言われております》
そんなくだらない理由で戦争を起こされたら、国民は堪ったもんじゃないな。
《ですが、最近では講和条約が結ばれることが増えていますので、戦争の数はかなり減っています》
もともと差別もなく、戦争も減ってきている。エシューゼは理想的な状況に近付いているようだ。
となると、魔王さえどうにかすれば『平穏な世界』が訪れるわけだ。
……
この気絶している女性は、魔王の手下で間違いないだろう。
カラス1~3号のときは、あいつらは空が飛べたから、逃げられる事の方を警戒して、情報を聞き出すことなく仕留めた。
しかし、この女性は翼がないし、ラミオンから振り落とされたことから考えても、空を飛べないと見て間違いないだろう。
彼女から、いろいろ情報を聞き出したいが、素直に話してくれるとは思えない。
それ以前に、彼女はエシューゼの言葉を話せるのだろうか?
俺がそんなことを考えていると、彼女の意識が回復してきた。
彼女は、まだ意識が覚醒しきっていないのか、暫くボーっと周囲を眺めていた。
そして―― 突然ベッドから飛び起きて立ち上がり、警戒の構えを取る。
「俺の言葉、分かるか?」
俺は彼女に話しかける。あの時のカラス共が使っていた『エブロ語』だ。
「愚かな! 私を人質にするつもりなら、もっとしっかりと拘束しておくのだったな! 尤も、人族の辱めなど受けようものなら、自爆して、キサマらもろとも消え去るのみだ!」
言葉は通じたようだが、いきなり物騒なことを言う。
ここで彼女に暴れられると、マルデオに被害が及ぶ。刺激しないのが得策だな。
「アキト殿。彼女は、なんと言ったのですか?」
マルデオが心配そうに聞いてくる。
「さぁ? 少し興奮しているようだ」
自爆すると言っている―― なんて言えないからな。
敵意むき出しの眼で睨んでいた彼女だが、部屋に俺達しかいないことを認めると、いきなり笑い出した。
「ハハハハ―― ここにいるのはお前ら3人だけか? 6歳と2歳くらいの子供と、冴えない男が1人か! 兵士がいないとは…… 随分、私を甘く見ているようだな!」
6歳と2歳くらいの子供? 確かにラミオンは6歳くらいに見えるが…… 聞き間違えたのか? 否、彼女の意識がまだ朦朧としてるんだろう。
「この女、ベルシャと言った。魔王の側近の1人だ」
それまで部屋の隅で大人しくしていたラミオンが、いきなり前に出てきた。
「な!? 何故私の名を知っている? まさか! 私が気を失っている間に、何かして情報を引き出したのか!?」
「お前、ラミオンを子供扱いした…… 許さない!」
いやいや…… 今のラミオンは、どっから見ても子供です。
寧ろ子供扱いしない人の方が、危ないです。
「ラミオン!? そう言えば―― キサマら、ラミオンをどうした?
あれは魔王様からお借りした大事な鳥! 人族如きが触れていいものではない!」
「ラミオンを『あれ』と言った…… 絶対に許せない!」
「ラミオン、落ち着いてくれ。この人も悪気があって言ったわけじゃない。話し合えば分かる」
俺はラミオンを宥めながらベルシャに話し掛ける。
「ベルシャ―― と言ったな。彼女が、お前の言う、ラミオンだ」
「は!? バカも休み休み言え! あの気高き魔鳥と、このような小娘を一緒にするなど言語道断! 死を持って償え!」
「ラミオン、やはりコイツを殺す!」
「待て! 2人共落ち着け!
そうだ、ラミオン。何か証拠を見せてやれないか?」
するとラミオンから『ピコン!』と音がした。
「この女、右と左の胸の大きさが違う、と悩んでいた」
「な…… 何故それを!?」
「そしてこの女、極度のブラコン。兄の気を引くため、態と兄を困らせるようなことをしている」
ベルシャは顔を真っ赤にして―― って、元々真っ赤だが更に赤みが増した気がする。
「や、やめろ!! コイツは―― この娘は悪魔なのか!? 私の秘密を、どうやって知ったのだ!?」
「お前が、ラミオンの背中で語っていただけ。何なら記録映像を見るか?」
記録映像まであるのかよ!
ちょっと見たい気もするが、そんなの見せたら、本当にベルシャが自爆しそうだ。
「本当に…… この娘がラミオン、なのか?」
ベルシャはさっきまでと違い、弱気になっている。よし! ここで決定打だ。
「ラミオン。第2形態に変身できるか?」
「できる。が、いいのか?」
俺は頷く。ラミオンには、マルデオの前では人型の姿でいるように頼んでおいたのだが、マルデオなら鳥に変身しても気にしない気がする。
「わかった」
ラミオンの身体が金色の光に包まれる。
そして―― 光の中から鳥のシルエットが浮かんできた!
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