第33話 彰人、スター候補になる

 私が城を出てからのラミオンの飛行は順調だった。


 ラミオンは全く疲れを知らずに飛び続ける。

 ラミオンの最高速度での飛行を続けると、乗っている私の身体が持たないので、速度を翼鬼族の3倍程度に抑えて、休憩をはさみながら飛行している。


 ラミオンは真西ではなく、少し南向きに進路を取っているようで、城を出て30時間も経った頃には雪雲を見ることが無くなった。そして更に1日程経った頃、大陸を発見した。


 思っていたよりも、ずっと早く到着した。

 やはりあの斥候3人は、どこかでサボっているに違いない!


 そう思ったけれど、どうやらこの大陸は私が目指している大陸とは違うようだ。

 人族がいない―― 代わりに、ガピュラードでも見たことのないような巨大な魔獣がうようよしていた。


 この世界には、魔獣の楽園が存在するのか!

 なかなか楽しそうだ。人族を滅ぼした後にでも、ゆっくりと探索してみたい。


 そんなことを考えながら、私はその大陸を後にし、本来の目的地である『人族の住む大陸』を目指した。



   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 城を出て8日目――


 漸く目的の大陸を発見した。

 なるほど、思った以上に距離があった。

 これでは、あの斥候3人が戻ってこれなかったのも納得いった。


 でも、ラミオンの様子が少しおかしい……

 この大陸が見えてきた頃から、ラミオンの行き先が更に南へズレていってるような気がする。それに、スピードも少しずつ上がってきている。

 まるで何かに引き寄せられているようだ。



   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 突然、ラミオンの速度が上がった!


 ラミオンの最高速度は、翼鬼族の5倍程度のはず……


 ところが―― 今の速さは10倍以上出ているのではないか!?


 私は振り落とされないように、必死にラミオンにしがみついた。



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「これって、どうして空を浮かんでいたの?」


 エレーヌは初めて見る気球に興味津々のようだ。


「風船の中に、空気よりも軽いガスを詰めて浮かせています」


 サガロが答える。


「こいつの今の問題点は、着陸するためにガスを抜くので、もう1度浮かすにはガスを詰めなおす必要があることですね」


 ゼルガが欠点の説明をする。


「それに、移動は風任せなので、好きな所へ行くことができない所です。

【飛行球】と名付けましたが、今のところは【浮遊球】というのが正確ですね」


 あれ? サガロもゼルガもカザナ語で話しているのではなかったか?


 エレーヌは、俺が驚いている表情を見て満足気に微笑んだ。


「アメルダに頼んで、カザナ語を勉強しているのよ。最近、大分話せるようになってきたの!」


 エレーヌ―― 初めて会った時からずっと『綺麗だけど残念な娘』と思っていたけど、評価を改めなくてはいけないな。

 言葉に関しては、俺はタマのおかげでそれほど苦労していないから、自力で勉強して話そうという気が全くなかった。


 それに比べると、エレーヌの努力は素晴らしい。

 俺は自分のことを少し恥ずかしく思う―― が、タマの特技は便利だからな!

 俺は勿論、これからもタマの能力を利用し続けるつもりだ。


「エレーヌ! 偉いぞ!」


 とりあえずエレーヌを褒めることにする。


「そ、そんなことないわ…… 淑女の嗜みよ」


 エレーヌの照れている姿がちょっと可愛いかったら、俺はエレーヌの頭を撫でてみた。


 バチーン!!


「何するのよ! アキト!」


 いきなりビンタされた。


《彰人様。相手に断りなくいきなり頭を触るのは、エシューゼの多くの国でタブーの1つとなっております》


 そうだったのか…… 俺は、1つ常識を学んだ。


……


「いいのか? 飛行球、置いて行って?」


「仕方ありません。後で町で馬車を用意して回収しますので」


 サガロとゼルガを鳥車に乗せ、俺達はマカラへ向かう。


「それよりも、済みませんアキトさん。私達のせいで……」


「気にするな」


 サガロとゼルガが乗ると、鳥車がかなり狭くなるんで、俺は鳥車を降りて横を走っている。エレーヌとアメルダも御者台に移動している。

 6人乗りの鳥車のスペースの大半が、エレーヌとアメルダの買い物で埋まっているから仕方ない。


「それにしても、アキト君はやっぱりとんでもないね。ダリモの鳥車と同じスピードで平気で走れるなんて…… キミはやっぱり『魔人』に近い気がするよ」


 ランテス、お前はなかなか勘が鋭いな。俺はその『魔人』の子孫だ。ご先祖様の『恥ずかしい行い』が無かったら教えてやりたいくらいだ。


……


 それにしても、今日も良い天気だな。とても世界に危機が迫っているとは思えない長閑な青空が広がっている。

 俺が気持ちよく走っている、その時だった!!


 何かが―― とんでもない速度で近付いてくる!?


 異常に速いぞ! まずい! エレーヌ達を避難させる時間がない。


 それは、視界に入った! と思った瞬間に、凄まじい衝撃波を残して、そのまま頭上を通過して行った。


「今のアレは、何だったの?」

「私にも、速すぎて分かりませんでした……」

「凄まじい衝撃だったね…… 耳が痛くなったよ」


 うーん? 鳥のような形状だったが、あんなスピードで飛ぶ鳥などいるのか?

 それに、上に人が乗っていたような気がする。


《タマ。アレは何だった?》


《いえ。タマにも分かりません…… 少なくともエシューゼの鳥ではないです》


 だよな…… 音速くらいはあったもんな。

 ということは、やっぱり『敵』―― だろうな……


 アレが引き返してくる前に、エレーヌ達を避難させよう!


「ランテス! 急いで、ここから離れろ!」


「ああ、そうさせてもらうよ!」

「アキト、気を付けてね!」

「アキト、無理はしないでください」


 俺を残して、鳥車は素直に離れて行ってくれた。


……


 さて―― アレが戻って来たようだ。


 今度は、すれ違いざまに『ぶっ叩く!』


 そう思っていたのに―― ソレは猛スピードのまま、俺の手前約20mの地面に突っ込んだ。


 どおーん!! 凄まじい地響き―― 自爆したのか?


 ん? 何かが吹っ飛んでいるようだ。


 そして、その『何か』は、地面に叩きつけられてバウンドした。


 近付いてみると―― 真っ赤な肌の、額から角の生えた女性だった。


 どうやら完全に気を失っているようだ。放っておいても大丈夫かな?

 それよりも、地面にぶつかった鳥はどうなった?


 突然、地面に埋まっていたその鳥が起き上がり、全身が金色に輝きだした!


 何か、すごくヤバそうな雰囲気だ……


 輝きが収まったとき、それは人間の姿に変わっていた。


 身長1mくらいの小柄な少女―― というか寧ろ幼女。

 短めの金髪は、ボーイッシュな『美幼女』と言っていいだろうか。

 衣装は、上はひらひらした『魔法少女』を思わせるような格好で、下はパンツルックだ。


 そして、その幼女が俺に向かって話してきた。


「マスター候補発見。これより試験を行う」


 あれっ!? 言葉がわかるぞ! ってことは、エシューゼの言葉を使ったのか?


《タマ。今のはエシューゼの言葉か?》


《違います…… 今のは―― 彰人様の世界の言葉です》


 なんだと!? どういうことだ?


「マスター候補。我が試練を―― 受けよ!」


 うわぁ! やっぱり、すごくヤバそうな予感……


……


 すたーこーほ?


 今コイツは、俺のことをそう呼んだ。


 もしや、『スター候補』ってことか?


 よく分からんが、コイツは俺から何かしらの『スター性』を感じ取ったようだ。


 俺の目の前に立っているコイツは、小学生低学年以下の幼女の姿をしているが、人間ではない―― その目が機械のような冷たさを感じさせる。


 人工的に造られた人型の人形―― 所謂、人造人間アンドロイドとか自動人形オートマタとか呼ばれる代物だな。


 俺は以前どこかで、これと似たものを見た記憶がある。


 どこだったかな? なんて考えるまでもないか。


 俺の行動範囲なんて鬼追村の中しかないし、こんな怪しげな物があった場所など、あの研究所以外考えられない。


 そうだ! 確か2年前だった…… かな?


『美樹さん』の研究室の中―― 超合金の壁で囲まれた殺風景な小部屋の中に、幼女の姿をした1体の人形が隔離されていた。


 人形は故障していたのか、全く動く気配はなかった。

 美樹さんは修理しようといろいろ試みていたが、オリハルコン製のボディは、分解することも中を調べることもできなかったはずだ。


 アレは動かなかったが、コイツは動くどころか言葉まで話しやがる。


「これからお前を攻撃する。準備はいいか?」


 おっ! 問答無用で攻撃してくるかと思ったが、俺の準備を待ってくれるのか?


「否、もうちょっと心の準備に時間がいるな」


「では―― 行く」


 おい! 待ってくれないのかよ! じゃあ聞くなよ! って文句を言う間もなく、ソイツは動いた!


 殺気が感じなれないだけに、出足を予測するのが難しい。


 俺は一瞬で懐に入られ、左ボディブローを叩き込まれる。

 そして、ソイツはすぐに俺から距離を取った。


 強烈うぅぅぅ! まともに食らったら絶対内臓破裂だな。


 でも、服の中に潜ませている七節棍の上から殴られたから、特にダメージはない。

 勿論、相手のパンチ力を測るために態と打たせた。


「反応40点、期待外れ……」


 いきなり評価したぞ―― って、何点満点中の40点だよ!


「待て待て。今ので判断したのなら早計だぜ! 態と打たせたんだからな」


「言い訳80点、合格」


 言い訳の評価、たけえな!


「名前くらい教えてくれないか?」


「ラミオン」


 そう言った瞬間、ラミオンは再び俺の間合いに入ってくる!


 ボッ! (風切音)


 ちっ! 外したか…… 俺の棍の突きを、ラミオンは身体を捻ってギリギリで躱し、後方へ飛んで距離を取る。


「不意打ち70点、評価保留」


 ピピピピ―――ッ!


「分析結果、ヒノキの棒」


 おいっ! 神明流最強の武器を、某RPGの最弱武器のように言うな!


「出力UP、50から60に変更」


 まだまだ本気じゃない―― ってことか!? なんか『舐めプ』されてる?

 余裕かましてると後悔するぞ!


 今度は俺から仕掛ける!


 瞬間移動よろしく一瞬で間合いを詰める―― 縮地!


 運足を極めれば誰だって使える基本動作だが、使い勝手抜群の技だ。

『基本にこそ真髄がある』―― じいちゃんがよく言ってたセリフだ。


 棍を使う俺の間合いは、ラミオンよりずっと遠い。

 ラミオンが攻撃不能の間合いから、容赦なく棍で攻撃する。


 まるで暴風のように、休みなく左右から繰り出される棍の攻撃を、ラミオンは両腕でガードし、じっと耐える―― はたから見れば、幼女を棒で襲う暴漢だが、気にしない!


「不可解…… ヒノキの棒、硬度不明」


 俺もまだ本気ではないが、ラミオンも全然余裕ポイ。

 ダメージは―― ほとんどなさそうだ。

 ちょっと癪だな。少しだけ本気を出すぞ!


 俺は少し本気の『突き』を放…… うおーーっと!


 ラミオンの目からビームが! あぶねぇ……


 身体を反ってバク宙―― ギリギリでビームを躱した。


 ぼーん!


 後ろで、大きな音がしたが振り返る余裕はない。


「お前! いきなり飛び道具は卑怯だろ!」


「反応85点、合格」


 え!? 合格…… えへへ―― って照れてる場合か!


 くそっ! 飛び道具持ちに間合いは意味なしだ……


 しかも、絶対さっきの技―― 体力消費なし、連射可能のチート技だろ!


 また間合いが開いた。もう一度『縮地』で間合いを詰めるか?

 否、ラミオンから詰めてきた!


 左右からの連続パンチに蹴り技を繋げる、流れるような連続攻撃!

 まるで格闘ゲームの必殺コンボだ! しかも、そのコンボが休みなく続く。


 俺はそれら全てを棍で防ぎながら、隙を付いて攻撃を繰り出す。

 棍の突きを両腕でブロックしたラミオンは、後方に回転ジャンプして距離を取った。


「不可解…… 何故ラミオンの攻撃を受けて、その棒は折れない?

 オリハルコンの攻撃をヒノキの棒で防ぐのは不可能」


「分からないか? ふふふ……

 この棍の名は――【折張棍オリハルコン】て言うんだぜ(嘘)!」


「笑い0点、センスなし」


 がーん!!! 俺は精神に大ダメージを受けた……


 否、俺は瞬時に立ち直る。

 所詮は人形―― 俺の高尚な『オヤジギャグ』が理解できるわけがない!

 いつか美樹さんに試してみよう。美樹さんなら分かってくれるはず!


「ラミオン、本気を出す! 受け止められれば―― 合格!」


 表情を変えずに淡々と話すのが不気味すぎる。


 ラミオンの身体が再び金色に輝きだす。

 ラミオンは胸の前で両手を組んで、祈るようなポーズを取った。


 両手にエネルギーが集まっているのが分かる…… 絶対ヤバい!!

 こないだのカラス共の1万倍以上ヤバそうだ……


「お、おい…… ラミオンさん…… あんまり他人様の土地を変形させるような技は、使わない方が良いんじゃないかな?」


「心配ない。ラミオン、気にしない」


 頼むから、少しは気にしてほしい……


 あっ! そうだ! 確かこれ、『スター候補の試験』とか言ってたな。


「ラミオンさん。俺、スターになる気ないんで、試験中止にしようよ」


「スターではない。マスターだ。それに―― 試練は強制!」


 嫌すぎる!


 ラミオンの攻撃―― 俺が防いだとしても、俺の後ろの土地がどうなるか?

 只で済むはずがない…… あんまり使いたくないが、こうなったらやるしかねぇ!


 俺は、棍に全力で霊気を集中させる。


「エネルギー充填完了、発射ファイア!!!」


 ラミオンが両手を前に突き出し、そこから一束の光が放たれた!


 来たあぁぁぁ!


「神明流奥義【絶界ぜっかい】」


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