第六十八話「忍術と科学の融合技」
ステファンは目をあけた。
そこには金色で光る枝垂れ桜の紋と茶色の髪をしたマジェスタがたっていた。
「ほう、もう戻ってこれたか。『正気』の君とはお別れかと思ったよ」
マジェスタが目をほそめた。
「ステファン!」
隣には涙ぐむ迅とマックスがいた。流たちもほっとしたようすだった。
「ほ、本当に帰ってきたのか、ステファン」
松五郎の言葉に、ステファンはうなずいた。
「心配かけてすみません。記憶がなくてどうなったかわからないんですが、なんとか帰ってこれたみたいです」
「無茶しやがって! このバカ!」
マックスがステファンの背中をたたいた。
「うぐっ!」
ステファンの体に激痛がはしった。
「お、おい、だいじょうぶか?」
「あ、ああ。ここで立ちむかわなきゃ、何のために猿飛さんの鈴をつけたのかわからない」
マジェスタがゆっくりせまってきた。
「面白いな、君は。だが、せっかく得た自然の力も使えなければ、このサル男のように失格になるよ」
ステファンは印をきった。なぜか印のきり方をしっていた。
風の力が自分の前に集まってくるのがわかる。
ステファンは印をはなった。ステファンの前でうまれたかまいたちが、ステファンの思い描く通りにマジェスタにむかった。
バシッ
マジェスタはそのかまいたちを素手でにぎりつぶした。
「本当なら一から手ほどきをしたいんだが、あいにく私もそこまで気は長くないのでね。さあ、どうする、忍者たち?」
マジェスタはあいかわらず余裕の表情で忍者たちをみまわした。
ステファンは流たちを横目でみた。彼らも力を使っているので、体力を考えても、長期戦は避けるべきだ。
(個々で攻撃しても確実に負ける。それぞれの力を最大限に活かすには、どうすればいい?)
流がふたたび攻撃をしかけた。それにあわせて椿もコンビネーションを仕掛ける。
炎の拳がマジェスタをおそう。マジェスタは軽く避けたが、服の袖に火がついた。
マジェスタは何の動揺も見せず回転し、火のついた袖を椿に目がけてぶつけた。椿は、火から避けるために慌てて水の力を強め、その水が結果的にマジェスタの袖の火を消すことになった。
「ありがとう、消防士さん」
マジェスタは余裕に満ちたそぶりで自分の袖をパンパンとはらい、服をととのえた。
「何が消防士だ。完全に遊んでいやがる」
マックスがつぶやいた。
(消防士……?)
ステファンの脳裏に、父と友人の消防士に聞いた話がうかんできた。
(あれができるか……迷っている暇はない、一か八かだ!)
ステファンはマックスに小声でいった。
「マックス、策がある」
ステファンは素早く椿の横にすべりこんだ。
「椿さん、空気の通らない水の膜にあいつを入れることはできますか?」
椿は驚いたがうなずいた。
「ええ、できるわよ」
「お願いします!」
椿は印をきった。
マジェスタはまるで生徒の発表をきくように立ちどまっている。
椿が印を放つと、マジェスタの周りに水の膜ができた。
「はは、こんなことをしてどうするんだ。独り占めの水族館でも用意してくれるのかな?」
つづいてステファンが印をきった。
風の矢が水の膜に穴をあけた。
「マックス!」
ステファンがさけんだ。
「おぉ!」
マックスの手には大きな袋があった。
それは天守閣の奥にあった豪華な袋だった。
マックスは力いっぱいその袋を水の膜に投げいれた。
「それぃっ! 最高級調味料だ!」
「よしっ!」
次にステファンのかまいたちで袋を切り裂いた。
すると膜の中に粉が充満した。
「……
マジェスタが怒りの表情を浮かべたとき、ステファンがさけんだ。
「流さん、いまです! 火をあの中に!」
その声にマジェスタの表情がかわった。しかし、流の印ははやかった。
流が全力で炎をおくる。そこへ、ステファンが思い切り空気を流しこんだ。
「みんな、ふせるんだ!」
ステファンがさけんだ。
次の瞬間、
ドゥオォォォォォォーーーン
水の膜の中で大きな爆発がおきた。
衝撃は水の膜の上部を破り、そのまま天守閣の天井をやぶった。
マックスが爆発の衝撃に耐えながらいった。
「どうだ、ダストエクスプルージョンだ!」
ダストエクスプルージョンとは「
豪華な天井が真っ黒になり、チリチリと音をたてている。
「つ、椿さん、あ、ありがとうございます」
ステファンが息を切らしながら、同じく息を切らしている椿にいった。
「え、えぇ、なんとかみんなは守れたようね」
椿が水の膜の上部を開け爆風を逃がし、膜の下部を分厚くしたので、忍者たちが被害を受けることはなかったのだ。
「や、やったのか?」
松五郎が水の膜の中をみてつぶやいた。
しかし、まだ立ちこめる黒い煙でなにもみえなかった。
やがて、椿が水の膜を解くと、そこには黒く焦げたマジェスタの体がどたっとたおれた。
一同はマジェスタの様子をうかがっていた。
体から焼けた臭いがしている。生きていたとしてもかなりの重傷のはずだ。
「ステファン、やるな!」
マックスが誇らしげに友人をほめた。
「パパの消防士の友達から聞いた製粉工場での爆発のを思いだしたんだ。一か八かの賭けだったけど」
「まさに、忍術と科学の融合だな」
そのとき、流がさけんだ。
「おい!」
マジェスタの袖の下がわずかに黒く光りだしたのだ。
すると指が動き、マジェスタがゆっくり起きあがった。
「……お、おい、こんなに火傷を負って、まだ動けるのかよ」
ゾンビをみるような目でマックスがいった。
黒く焦げたマジェスタがゆっくり起きあがった。顔は焼けただれているが、その目は忌々しげにステファンをにらんでいた。
「お、の、れ、覚えておけ」
そういうとマジェスタはささっと走り出し、なんと天守閣から外に飛びだした。
「まてっ!」
マックスがおいかけて、外に顔を出したが、マジェスタの姿は夜の闇にまぎれてきえていた。
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