第三十八話「龍脈の力」

 斬鉄はゆっくりとカラクリ屋敷に歩いてきた。


 満足そうな顔で荷車を振りかえった。

 そこには里の家々で物色しためずらしい品々が、山のように積んであった。

「おお、出てきたか、忍者部隊」

 斬鉄が横柄にさけんだ。忍者たちがカラクリ屋敷の前で待ちかまえていた。

「不比等、まあそこで武士の力をみておれ。お前たち、切って切って切りまくれぇ」

「おぅ!」

 武士たちが忍者たちにおそいかかった。


 星丸が一歩前にでた。

「赤忍者は二人一組で相手せよ。残りは俺たちがたおす。みんな死ぬなよ、いくぞ!」

「はっ」

 武士たちと忍者たちが衝突した。

 星丸は刀を容赦なく振りおろす武士をひらりとかわして、クナイを放ち難なく相手を気絶させた。

(雑魚にはかまってられん。なるべくこちらの体力をのこし、あの男と対峙せねば)


 雷太郎は風太郎と組んだ。風太郎が小刀で相手の刀を流し、そこへ雷太郎が得意の火薬を投げこむ。きわどい技だが、兄弟の呼吸の良さで、相手を倒した。

 湯吉と茜は、左右に分かれて攻撃をしかけた。二人の作戦は湯吉が素早く相手の利き腕を小刀でつき、反対側から茜を攻撃してたおすというものだった。しかし、精鋭部隊である武士も簡単にはやられない。動きに合わせて、湯吉に刀を振りおろした。湯吉はなんとか小刀で相手の刀を押さえたが、相手はそのまま茜の動きを読んで強烈な蹴りをはなった。

「うわぁ」

 茜が吹き飛ばされた。

 そしてそこにいた武士が茜にとどめの一撃で刀をふりあげる。

 茜は目をつむった。

 しかし、武士は、うっ、とうめき、そのままバタッとたおれた。

 星丸が放った毒矢が武士の首に命中していたのだ。

「大丈夫か、茜!」

「ありがとう、兄さん」


 力と力の対決になったときは、「不殺生の掟」がある忍者のほうが分がわるかった。

 しかし、一人だけ力負けしていない忍者がいた。猿飛だった。

「うぉおお!」

 猿飛は忍者刀で武士の刀を破壊した。

「なにっ!」

 そこへすかさず強烈な蹴りをいれ、武士をぶっとばした。

「このまま、大将の首をとってやる!」

 獣の顔になった猿飛が、武士たちをばったばったと倒していった。

 その勢いのまま手下の集団を突破し、赤い鎧のもとへ一直線にむかっていく。

「とりぁぁぁ!」

 猿飛の忍者刀が斬鉄にきりかかった。


 カンッ


 斬鉄は刀で猿飛の一撃をふさいだ。しかし、斬鉄は左手からもう一つの刀があらわれた。

「なにっ」

 二つ目の刃が猿飛の肩に切りかかる。

 猿飛は超人的な反射神経で体をひるがえした。しかし、ダメージは最小限だったものの、肩から血が流れている。

「猿飛!」

 別の武士と戦っていた星丸がさけんだ。

 猿飛は猛獣のような笑みをうかべた。

「ふん、二刀流か、面白い」

 猿飛が片腕で忍者刀をかまえた。


 猿飛と斬鉄がふたたび刀を交わそうとしたとき、二人の間に入る者がいた。

 不比等だった。

「斬鉄さん、このままいくと負傷者が増え、あなたは殿に顔向けができなくなりますよ」

 不比等の指摘に、斬鉄は倒れている武士たちをみた。忍者たちとの戦いで、すでに半数がたおれている。

「く、ふがいない奴らだ。ふん、お前の出番だ、不比等。お前たちはさがれ!」

 不比等は、一歩前にでて忍者たちと対峙した。

 すかさず星丸が不比等にクナイをなげた。不比等が戦闘態勢に入る前に決着をつけようとする作戦だ。

 クナイが不比等に命中した、ようにみえた。

 しかし、それは残像だった。

「分身の術まで使えるのか」

 不比等はまた胸元で印をきった。その手が光りだす。

 そして印を忍者たちに向かってはなった。


 ブウォォォォォーーー


 ものすごい風が竜巻のように忍者たちにおそいかかる。

「みんな退け!」

 星丸が叫ぶがすでに風の中にいる忍者たちは身動きができない。

「うわぁぁ」

 忍者たちは風で高く打ち上げられ、そのまま地面に落下した。

 なんとか受け身をとって重症にはならなかった。

 しかし、あの風に対抗できる術がない。

 湯吉や風太郎や茜も忍者刀を構えながら風の力に備えていた。

 不比等がふたたび印を忍者たちにはなった。


 ビュォォォッォーーー


 ふたたび猛烈な突風が忍者たちをおそった。

「うわぁぁぁ」

 忍者たちはまた宙に吹きとばされ、地面に叩きつけられた。

 湯吉はなんとか立ちあがり、まわりをみた。

「みんな大丈夫か?」

「ええ、なんとか」

 茜も立ち上がったが足元がふらついている。他の者も同様だ。

 湯吉は不比等をみた。

 無表情に自分たちを眺める不比等の姿が巨大にみえた。

(こんなときにステファンがいてくれれば、グッドアイデアを出してくれるのに)

 しかし、いない人間に頼ってはいられない。

「みんな、手裏剣とクナイをやつに投げろ! 印をきらせるな」

 星丸がさけんだ。

 忍者たちが手裏剣とクナイを投げ、連続攻撃をしかけた。

「無駄だよ」

 不比等は素早い動きで一つ一つ交わしていった。

 そこへ星丸と猿飛が切りかかる。

「とりゃあああ!」

 そのとき不比等は姿が二人になった。

「また残像か!」

 不比等は、星丸と猿飛に同時蹴りをいれた。

「うっ」

 そして、ふたたび印をきった。

 不比等の手が光り、今度はかまいたちが発生した。

「うわぁ」

 するどい風の刃が忍者たちに襲いかかる。

 忍者たちに防ぐ術はなく、ただ耐えるしかなかった。

 血だらけの忍者たちをみて不比等がつぶやいた。

「そろそろ、終わらすか」

 不比等はまた印をきった。


 そのときだった。

「待ちなさい!」

 忍者たちの後ろで、女性の声がした。

 皆がいっせいにカラクリ屋敷のほうをみた。

 そこには、竜神祭の白い衣装をまとったエミーラがいた。

 その気品溢れる姿はまるで天女のようだった。

「ほぅ、やっと出てきたか、天女様」

 斬鉄がエミーラの美しさに舌なめずりをしながらいった。

 エミーラは力強い足取りで斬鉄の前にやってきた。

「私が姫様のもとへ行きます。だからこの戦いは不要です」

「そうですな、たしかにあなたが来てくださることで我々の目的も達成した」

 斬鉄がいやらしい目をエミーラにむけた。

「だが、よければ私のもとに来てもいいのだよ。なんでも好きなものを用意しよう」

 斬鉄がエミーラに手をのばした。そのとき、


 バシッ


 エミーラの平手が斬鉄の手をはたいた。

「たわけ者が! 私は姫様の客なのだ、気やすくさわるでない!」

 エミーラが鋭く強い目で斬鉄をにらんだ。

 斬鉄は一瞬怒りの目を向けたが、すぐに破顔して、

「はっはっは、天女様は気がお強い。わかりました、それでは城へまいりましょう」

 エミーラは、表情を変えず強い声でつづけた。

「それと、この里から一切何も奪うことを許さん。場合によれば私が姫に直訴する」

 斬鉄の顔が怒りにもどった。

「いい気になるなよ、小娘!」

「お前に里の財産を奪う権利はない!」

 エミーラは一歩も引かなかった。斬鉄は怒りのあまり手をあげようとしたとき、後ろから声がかかった。

「斬鉄さん」

 そういったのは不比等だった。

「あの荷台はあなたの部下をたくさん載せないといけないようです」

 斬鉄は倒れている自分の部隊に目をやり、不機嫌そうに言いはなった。

「好きにしろ! さっさといくぞ」

 武士たちは荷台の荷物をおろし、負傷した仲間をのせた。

「エミーラ!」

 アキがさけんだ。他の忍者たちもアキと同じ気持ちだった

 振り向いたエミーラは、優しく笑ってうなずいた。



 ステファンは屋敷の大広間で長老たちの話を黙ってきいていた。しかし強く握ったその拳からは血がながれていた。

 アキが涙をふきながらステファンをみた。

「エミーラは、大広間に置かれていた竜神祭の衣装をみつけ、自分が天女として出ていくことがみんなを救うことだとおもったんだ」

「わしらの身代わりになってくれたんじゃ。守り切れずすまん、ステファン」

 長老がステファンに頭をさげた。他の忍者たちも自分たちの力不足に恥じ、長老につづいた。

「頭をあげてください。悪いのは、里の人たちではありません。鶴山城の殿や斬鉄です」

 長老は、ステファンの目をまっすぐ見つめた。それは決意の目のようにもみえた。

「かならず、エミーラを助けだす。この里の威信にかけて」

 忍者たちもうなずいた。そこで猿飛がたちあがった。

「長老、俺もあの力を得たい、どうすればいいんだ」

 ステファンも不比等が使った風を操る力のことをしりたかった。

 長老は首をふった。

「龍脈の力を得るためには四つの龍鈴りゅうりんのどれかが必要だ。しかし、里にある二つ龍鈴は流と椿がもち、一つは不比等が、もう一つは数十年前に里をでていった元四人衆が持っていた。つまり、もう無いんだ」

 ステファンはおどろいた。あの二人も龍脈の力をつかえるのだ。そういえば前に流がクマとたたかい、火の術を使ったとき、松五郎が『流の火遁は特別なんだ』といっていたことを思いだした。


「つまり、なんともできねぇってことじゃないか! あの不比等ってやつに龍脈の力なしでどうやって勝つんだよ」

 食い下がる猿飛をみて、長老はゆっくりと立ちあがった。

「猿飛、気持ちはわかるが、『無いもの』を求めてもしかたがない。周りを見てみい、『あるもの』がいっぱいあるだろう」

 猿飛はふとまわりを見わたした。強い決意に満ちた忍者たちの瞳が猿飛にそそがれている。

「敵は不比等だけではない。迅やステファンを襲った刃という闇の一派もいる。それに斬鉄も油断できない強さじゃ。エミーラを奪還するために、それぞれの特技をどう活かせるか、適材適所で考えようじゃないか」

 長老の話を聞き、自分に言い聞かせるように猿飛はうなずいた。

「わかったよ。作戦となったら星丸の出番だな」

 猿飛の丸投げに、星丸が頬をゆるませた。

「お前もちょっとは考えろ。脳みそも獣並みか?」

「長老が適材適所と言っただろう。お前の頭は、俺の頭だ」

「そんなデカイ頭はいらねえよ」


 そんな二人のやりとりに笑いがおこり、場のこわばった空気を少しなごましてくれた。

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