第68話 筋肉乱舞

 今日は、いつもより学校内に人が多く、騒がしかった。

 学校のエントランスから校舎へ向かう大通りの両側には学生たちが屋台で食べ物や雑貨を販売している。

 ひっきりなしに聞こえる客引きの大声を聞きながら、僕らは闘技場へ向かっていた。


「うわぁ……人が沢山いますね……」

「ふむ、もぐもぐ。やはりオークの串焼きはもぐもぐ。非常に美味であるなむぐむぐ」

「おいムスケル、食べながらしゃべるな。肉が飛び散ってんぞ」


 串焼きを頬張りながら喋るムスケルからランスロットが飛び退く。

 そんな二人を笑いながら、僕らSクラスのメンバーは歩いていた。


 前世ではこんな風に友達と屋台を巡ったりしたことはなく学園祭にも興味はなかったが、こういうのも結構楽しいものだな。



 冒険者学校学園祭の目玉である武道祭は、生徒の過半数が参加するイベントである。

 学校外からもそれを目当てで集まってきている人が大半だそうだ。


 今回の武道祭の参加人数は約三百人である。

 学園祭初日の今日に予選を行い、二日目にトーナメント戦を、そして三日目に準決勝と決勝戦を行う形となる。


 本日の予選は、学年別に分けられて行われる。

 明日のトーナメント戦からは、予選を勝ち抜いた各学年の生徒がシャッフルされて戦うことになる。

 大体は三学年Sクラスの人が優勝者となるそうだが、昨年は珍しく二学年の人が優勝したそうだ。今年はその人が三学年になっているため、優勝最有力と言われている。


 どれだけ強い人なのだろうか。戦ってみたいなぁとちょっとわくわくしている。

 そんな僕の表情を見て、ロゼさんはにやりと笑った。


「シリウス、乗ってきた。やっぱり楽しみなんでしょ?」


 参加したくないとか言っておいていざはじまるとなると楽しみになっている心の内を見透かされたのが悔しくて、ふいと視線を逸した。



 予選では、約二十人のグループが五つ作られる。そして各グループでバトルロワイヤルを行って、勝者の五人が予選通過となる。

 そして、僕らはそのグループ分けの掲示を見に来ていた。


「げ……私、シリウスと同じグループじゃない……」

「あー……エアちゃん、ドンマイだな」

「ドンマイである」

「ドンマイです……」

「……ドンマイ」

「ねぇ、何その扱い?」


 僕と同じグループになってしまったエアさんがげんなりとした顔をしていた。

 そして皆でエアさんの肩を叩いて慰めている。

 僕の扱い酷くない?


「仕方ないわね……参加者全員で袋叩きにすればもしかして……」

「エアさん、冗談だよね? ねぇ? 顔怖いよやめて?」


 そんな全員で袋叩きになんてされたら流石の僕も無理だと思う。多分。


「いずれは当たる。早いか遅いかだけ」

「確かにそうなんだけどね……」

「エアさん、お互い頑張りましょう!」

「……そうね。死力を尽くすわ!」


 エアさんは何か決意をした目をしていた。ねぇちょっと目がマジすぎるんですけど。



「それでは、武道祭をはじめます!」


「「「「うおおおぉぉぉぉ!!」」」」


 非常に容姿が整っており声が可愛いいかにもアナウンサー感漂う女子生徒が開始を宣言すると、会場は歓声で埋め尽くされた。


 闘技場の観覧席はギュウギュウで、外周の通路も立ち見の人で溢れかえっていた。

 僕ら一学年は最初の戦いであるため、そんな風景を闘技場控えのベンチから眺めていた。


「す、凄い人ね……」

「緊張してきました?」

「そ、そりゃぁちょっとはするでしょ! シリウスにはどってこと無いかもしれないけど!」

「僕も緊張してますよ」


 そう言って苦笑いしてポリポリと頭をかくと、エアさんは意外そうにこちらを見た。


「もう、胃がキリキリしてますもん」


 そう言ってお腹を押さえておどけると、エアさんはプッと口を押さえて吹き出した。


「ふふ、シリウスでも緊張するのね。そう思うとちょっと気が楽になったかもしれないわ。ありがとね」

「僕も人間です、緊張くらいしますよ」

「あなた、同じ人間には思えないんだもの」

「同じ人間ですからね?」


 エアさんとじゃれ合っている内に、一回戦がはじまるようだ。一回戦にはムスケルが参加する。


「では行って参りますぞ」

「あぁ、ムスケル頑張ってね」


 闘技場に二十人の生徒がバラバラに立つ。中でもムスケルの身長と体格は頭一つ抜き出ていて、異彩を放っている。

 近くの生徒もチラチラとムスケルを見てひぇっとかうわっとか言って距離を取っていた。

 うん、その気持ち分かる。でもそいつを倒さないと予選突破できないんだよ?


「では、解説はこの私、二学年Aクラス、ユリア・マーベルと教官方で行わせていただきます! それでは一学年予選一回戦……開始!」


 解説席には先程の綺麗な女子生徒ユリア先輩と何人かの教官が座っていた。


 試合がはじまると共に、ムスケルはマッスルポーズで『練気』を行い、周囲の様子をうかがっていた。

 ムスケルの気に当てられ、周りからドンドン生徒が遠ざかっていく。


 ムスケルより少し離れた位置では、早速戦闘が始まっていた。

 剣士が魔術師に速攻をかけているようだ。


「おっとぉ! 早速剣士達が動き出しました! いかに魔術師に強力魔術を使わせないように立ち回るかが剣士達の勝利の鍵になります!」


 ムスケルは自分の周りに人がいないのを見て、不思議そうな表情を浮かべていた。

 いやそれ、必然だから。


「ふぬぅ、誰も来ぬならこちらから行くしかあるまい。『筋肉波動マッスルインパクト』ォ!」


――ドゴォォォン!!


 ムスケルが拳を振り抜くと、延長線上の生徒達が吹っ飛ばされ近くの生徒達を巻き込んで退場させられた。ちなみに闘技場は意識か命を失うと退場させられる設定となっている。もちろん擬似空間であるため、本当に死ぬことはない。


 ムスケルから離れた位置で戦っていた生徒達も含め、闘技場内の全ての生徒が目を見開きムスケルを見た。


「な、なんとぉぉぉ!! まさかのパンチの衝撃で七人の生徒を一瞬で戦闘不能に! 彼はえーっと……一学年Sクラスの、ムスケルさん……選手です!!」


「Sクラス……」

「バ、バケモノ……筋肉のバケモノだ……」


 闘技場内の生徒達がふるふると震えていた。


「み、みんな! まずはあいつを倒そう!」

「そうだそうだ! みんなでかかればふべらッ!!」


 騒ぎ出した生徒の群れに、ムスケルが両手を広げて突進をしていた。


「『ダブルラリアット』ォォ!!」


 また五、六人の生徒が退場させられていた。


「す、すごいですムスケル選手!! 一人であっという間に半数まで人数を削ってしまいました!」


「み、みんなでかかるぞ!」

「「「うぉぉぉ!!!」」」



――結果、そのままムスケルの大暴れにより参加者達は全滅させられた。


「し、勝者! ムスケル選手!!」

「むっはっはっ! 筋肉の勝利ですな!」


 体に攻撃魔術による焦げや裂傷を多数つけたムスケルは、平然と笑いながら去っていった。


「ムスケルも大概とんでもないわよね……」


 エアさんの呟きに、一同苦い顔をして頷いた。

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