第67話 無窮宝符
国王陛下との謁見後、シャーロット王女に案内されて宝物庫に来ていた。
最初は執事が案内してくれると言ってくれたのだが、シャーロット王女が「と、友達ですから!
「どれでも好きなものをお選びください!」
シャーロット王女は手を広げてくるりと回った。可愛い。
「ありがとうございます、シャーロット様」
「シリウス様、そんな他人行儀おやめください! シャーロットとお呼びください」
「しかし、王女殿下に――」
「私達、友達ですわよね……?」
シャーロット王女が頬を膨らませてこちらを見つめてくる。
そのうるうるとした瞳に思わず目を逸らしてしまった。
「分かりました、シャーロットさん」
「とりあえずはそれで良しとしますわ!」
ちなみにシャーロットさんも僕のこと様付けで呼んでるじゃないかと突っ込んだが、王女としての癖なので仕方ないと言い張られた。
宝物庫に置いてある魔道具を『洞察』で効果を確認しつつ、歩いて回る。
食指が動くものがないなぁとしばらくウロウロしていると、黒い魔石がついたアミュレットが目に入った。
《
【名前】無窮宝符
【ランク】SS
【説明】
無窮魔石が魔術加工されて宝具となったアミュレット。
魔力の蓄積と放出を無限に繰り返すことが可能。
》
これは凄い。
通常の魔石は、蓄積させた魔力を一度放出させると砕け散って使えなくなる。使い捨ての乾電池のようなものだ。
しかしこれは、放出した後にまた蓄積して再利用できるというものである。
このクラスの魔力量を蓄積する通常の魔石であれば、使い捨てでも二千万ゴールド以上はするだろう。
それを無限に使えるというのはあまりにも破格である。流石宝具だ。
これがあれば"あの魔術"も現実的になってくるぞ……
「シャーロットさん、これをいただいても良いでしょうか?」
「えぇ、勿論かまわないわ。一体何を選んだのかしら? これは……魔石?」
「はい、無窮魔石です」
「無窮魔石って何かしら?」
「何回も再利用できる魔石ですね。極稀に迷宮の下層の方で発見されることがあると言われている非常に希少な魔石です」
「流石シリウス様、博識ですわね」
「そんなことないですよ。それにしてもこんな凄いものがあるなんて、流石王家の宝物庫ですね……」
「ただここに詰め込んでいるだけでは宝の持ち腐れなのですけどね……シリウス様に活用していただけるのであれば私も嬉しいです」
「ありがとうございます」
無窮宝符を貰うことを国王陛下に報告し、僕は王城を出た。
歩いて帰ろうと思っていたが、客人を歩いて帰らせるわけには行かないと竜車で学校の寮まで送ってもらった。
アルトリアの紋章がガッツリ入った豪華な竜車であったため非常に目立ってしまい、目頭を押さえざるを得なかった。
◆
「ねぇシリウス、昨日王家の竜車から降りてきたわよね? 一体何があったの?」
「国王が魔人族領への侵略宣言を撤回したことと関係がありそうな気がする」
翌日教室に行くと、早速エアさんとロゼさんが席に飛んできた。
しかし国家上層部が洗脳されていたというのは国家機密であり、僕も口外は禁じられていた。
「実は――」
僕はヴェルデリッヒ宰相が用意していた「王女殿下が誘拐されそうになったところをたまたま発見した一般冒険者の僕が助け、国王陛下から褒美を受けた」という嘘と事実が織り交ぜられたストーリーを皆に話した。
「はう……流石シリウス君です……!」
「うーん、何か隠してる気がするのよねー」
「核心的な部分を隠している、そんな気配がする」
完璧なストーリーだと思ったのだが、エアさんとロゼさんは半眼でこちらを見ている。
魔族領侵略撤回とあまりにタイミングが重なっているため、そちらに僕が無関係ということに違和感を感じているのだろう。正解だけど、そうとは言えない。
「気のせいですよ、キノセイ」
「うむ、シリウス殿も色々と言えないことがあるのだろう。まぁ大体想像できるであるがな、はっはっは」
一応王族であるムスケルは何か感じているようだ。むしろバレバレな感じすらする。
ここに居るメンバーは言いふらしたりするような人ではないから大丈夫だとは思うが、言えない物は言えないのである。
◆
放課後、珍しくどこにも寄らずにすぐに寮に帰宅した。
無窮宝符を使った魔術行使を試すためだ。
無窮宝符は昨日ありったけの魔力を注入したため満タン状態である。
以前、習得したのはいいが消費魔力が非常に多いため発動後に魔力が枯渇してしまい役に立たない魔術があった。
『
『
最近は魔力が増えてきたお陰でギリギリ発動にはこぎつけたのだが、それでも使った後はヘトヘトになってしまう上に帰る魔力がないため一方通行になってしまうという欠陥があった。
今回手に入れた無窮宝符があれば、その魔力の問題を解決できるのだ。
恐らく、自分と無窮宝符の魔力が満タンであればギリギリ往復できるはずだ。
ただ相当ギリギリであると思われるため、その問題を解決できる場所への転移を試してみることにした。
すぅはぁと深呼吸をして、魔術名を唱える。
「『
無窮宝符から魔力を吸い上げ、魔術を行使する。
瞬きをすると、目の前の景色がイメージした物と同じになっていた。
無窮宝符の魔力は空になっており、自分の魔力は微量だけ消費されている状態であった。
やはり帰りはギリギリだな。
「まだそんなに経っていないのに懐かしく感じるなぁ」
深呼吸をして美味しい空気を味わっていると、隣の家から男性と武装した女性が飛び出してきた。
僕と目が合うと、その男女は驚愕に目をぱちくりとした。
「シ、シリウス?」
「あ、父さん母さん、久しぶり」
そう、僕の実家があるエトワール村に転移したのだ。
セントラルから直線的に山を突っ切って走って約一週間程度の距離を一瞬に移動できるのはやはり便利すぎるな。
「あ、あぁ、久しぶりだな。なんか今、突然シリウスの魔力が現れたように感じたんだが……」
「あぁ、『
「『
「実はこんな物を手に入れてね」
二人に無窮宝符を見せ、セントラルであったことをサラッと話した。
父さんは目を輝かせて無窮宝符を撫でていた。
「うおおおぉぉ!! こ、これは……無窮魔石……! 魔術師の夢!! 俺でも手に入れられなかったのに、流石シリウスだ!」
「たまたま運が良かっただけだよ」
「あなた、シリウスの装備に涎つけちゃ駄目よ。それにしてもセントラルに行ってもきちんと鍛えているようね。また一段と強くなったわね」
「うん、教官やクラスメイトにも恵まれてね。二人とまた鍛錬していきたいところだったけど、帰りの魔力がギリギリだから今回はちょっと無理かなぁ……」
「あら、残念ね……まぁシリウスがどれだけ成長したかは卒業した時のためにとっておきましょう」
母さんが微笑んでいるのだがどこか威圧感を感じる。やはり魔族なんかより母さんの方がよっぽど怖い。
「あ、父さん。ちょっとでいいから魔石に魔力分けて貰えないかな……? かなりギリギリだから戻った後が怖くて」
「お安い御用だ! どれどれ……ふんッ!!!」
父さんはおもむろに無窮宝符を握りしめ、魔力を充填した。
凄まじい魔力が指の隙間から漏れている。
「ふぅ、こんなもんでどうだ?」
渡された無窮宝符は半分ほど魔力が貯まっていた。
正直ここまで入れてくれるとは思っていなかった、これは帰りは物凄く楽だ。
「こんなに入れてくれて、ありがとう! 凄い助かるよ!」
「ははは、この程度朝飯前さ!」
よく見ると父さんの頬を汗が伝っていた、結構頑張ってくれたのだろう。
「シリウス、今日は家でご飯食べていかない?」
「おぉ、いいな! 向こうでの話も聞いてみたいしな!」
「うん、じゃあ食べていこうかな」
久々の家族でのご飯は、とても暖かく美味しかった。
デザートにクレープを出したら凄く喜んでくれたので、砂糖等の材料を少し母さんに渡しておいた。
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