第45話 ボス部屋

 ボス部屋に入ると、中央に鎧を身にまとったゴブリンジェネラルが悠然と立っており、ゴブリンとゴブリンリーダー、そしてゴブリンマジシャンを従えていた。


 迷宮に来てまで、ゴブリンか……


 ボス部屋ということでどんな面白い魔物が出てくるかとウキウキしていたが、地元の山で散々狩っていたゴブリンとは。一気にテンションが下がっていく。

 まぁ最初のボス部屋だし、この程度だろう、と気持ちを切り替えて周囲に意識を向ける。


「ゴブリンジェネラルか……」


 ウルフはそう呟き、剣を握り直す。

 他のメンバー達もゴブリンジェネラルを眼の前にして、緊張感が漂っている。


 ……そうか。

 六歳の頃に、更に上位のゴブリンロードを倒しているからなんとも思わなかったが、ゴブリンジェネラルはCランクの魔物。

 Dランクパーティからしたら結構な難敵ということになる。


「ジェネラルは俺が抑える!! その間にエイミーはリーダーを優先的に殲滅、マイルはマジシャンを、ファングとシリウスは取り巻きのゴブリンを頼む!」


「「「「おう!」」」」


 ウルフの指示により、それぞれ散開していく。


 この力量でこの人数のパーティではかなり厳しい戦いになりそうだと思いながらも、とりあえずウルフの指示に従いゴブリンに向かっていく。

 先輩達の顔を潰さない程度に、しかし皆大きな怪我は負わないように注意していこう。


 そんな事を考えながら、ゴブリン達の首をほとんど無意識にスパスパと切り落としていく。

 一緒にゴブリンと戦っているファングはギョッとした顔でこちらを見ているような気がしたが気のせいだろう。

 機械的にゴブリンを処理しつつ、他の人に目を向ける。


 ゴブリンマジシャンは三匹おり、同じく魔術師であるマイルさんを集中的に狙っているようであった。


「焰よ、我が槍となり其を貫け『炎槍フレイムランス』」


 マイルさんが『炎槍フレイムランス』でゴブリンマジシャンを一匹貫いた隙を突き、残りのゴブリンマジシャンが『氷矢アイスアロー』をマイルさんに放つ。

 身を捻って避けようとするマイルさんであるが、別の方向から飛来する『氷矢アイスアロー』を二本とも回避するのは不可能に見えた。


 すかさず『炎矢ファイアアロー』を二本放ち、ゴブリンマジシャンの『氷矢アイスアロー』にぶつける。

 僕の放った『炎矢ファイアアロー』は『氷矢アイスアロー』を一瞬で消滅させ、そのまま勢いを失わずに片方のゴブリンマジシャンに突き刺さり、絶命させた。


 マイルさんが目を見開きながらこちらを見るが、ゴブリンマジシャンを指差すとすぐに我に帰り、戦いに戻っていった。


 エイミーさんを見ると、ゴブリンリーダーを倒すところであった。ところどころ斬り傷はあったが、致命的なダメージは受けていないようだ。

 ゴブリンリーダーが一匹であったため、そのままゴブリンジェネラルと戦っているウルフさんの元へ合流する。


 そしてウルフさんを見ると、満身創痍であった。

 速度も力もゴブリンジェネラルが勝っており、なんとか時間稼ぎをしていたのだろう。


「ウルフ、ちょっと休んでなさい! 私がやるから!!」


「ハァッハァ…… くっ、すまねぇ…… ちょっとだけ息を整えさせてくれ、すぐ戻るから……」


 ウルフさんと入れ替わりにエイミーさんが前に出るが、すぐにジリ貧になる。

 ウルフさんより力が劣っているエイミーさんでは、時間稼ぎすらも非常に厳しいものであった。


「ごめん、待たせた。 焰よ、我が槍となり其を貫け『炎槍フレイムランス』」


 そこへ、最後のゴブリンマジシャンを倒したマイルさんが合流し、『炎槍フレイムランス』をゴブリンジェネラルに放つ。

 それを見たゴブリンジェネラルは剣を大振りし、エイミーさんを弾き飛ばすのと同時に魔術を霧散させた。


「ッ!?」


 そして魔術師であるマイルさんが身体能力に劣ることを一瞬で見抜き、マイルさんへと肉薄する。

 満身創痍であるウルフさん、ゴブリンジェネラルの剣により吹き飛ばされたエイミーさんは共に動けず、ゴブリンジェネラルの動きを見送ることしかできなかった。


「あ……」


 振りかぶるゴブリンジェネラル。

 それを見上げ、小さな声を漏らすことしかできないマイルさん。


 ……ここまでだな。



 一同が動けずに息を飲む中、ゴブリンジェネラルの右腕が剣を持ったまま宙を舞い、ボトリと地面に落ちた。


 そこには、納刀された雷薙に手を添えバチバチと帯電したシリウスが、マイルを庇うように佇んでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る