第32話 入学試験
筆記試験が終わり、実技試験会場に向かう。
筆記試験はどうだったかというと、正直余裕だった。
内容は国の歴史、基本的な魔物の生態や種類、初級の魔術理論などで、どれもこれも子どもの頃に父さんの書斎で読んだ本に書いてあるようなことばかりであった。
こんな内容じゃ皆満点なんじゃなかろうか……
◆
実技試験会場は、かなりの広さがある訓練場であった。
訓練場は射撃場や弓道場のように沢山のレーンとして縦に割られていた。
的は球状の物体で、地面から伸びている棒の先端に目線の高さくらいにくっついていた。
試験官の話によると球状の的は攻撃や魔術の性質を読み取る魔導具で、威力、属性、追加効果などをモニタリングすることが可能なのだそうだ。
そのため攻撃が苦手な補助魔術師などでも的に補助魔術をかければその効果を判定し、点数となるそうだ。
また的は近距離と遠距離の二種類あり、その両方の点数を考慮して最終的に点数が付けられるらしい。
『解析』でその魔導具を解析しようとしたが非常に複雑な術式が組まれており、何処かから魔力が供給されているということと、メチャクチャ硬いってことしか分からなかった。
壊れることは無いので最大威力で攻撃を放って良いと試験官が言っていたが、あながち嘘でもなさそうだ。
また、意外だったのが時間制限がないということだ。
勿論常識的な範囲内で…… だとは思うが。
僕は小さな頃から『魔力操作』などで魔力を無駄に増やしているため、実戦では使いこなせないほどの量の魔力が無駄にある。
またなぜか産まれた時から精神力が異常に高かったが、その力も完全には引き出せていない。
というのも、魔術の威力というのは単純なステータスな高さだけではなく、術式への理解や経験から成る技術が重要な要素となっている。
僕はその技術がまだ未熟であるため、咄嗟の魔術行使では力が使いこなせないでいる。
しかし時間制限が無いということは、実戦では隙がありすぎて不可能なほど術式に大量の魔力を注ぎこんだり、時間をかけて『練気』したりできてしまう。
技術の未熟な僕であるが、時間をかければある程度ステータス分の力を引き出すことができる。
つまり時間制限無しというルールは、僕にとって非常に有利な条件であった。
―――ズドガァァァァァァァン
考え事をして他の受験者の実技を見ておらず油断していると、いきなり凄まじい爆発が起こった。
爆発の威力は凄まじく、地面が揺れるほどであった。
その発生源を見ると爆炎が徐々に収まり、そこにはヒビだらけの的があった。
更には試験官がその的を唖然とした表情で見つめていた。
それを見た受験者達がざわめき出す。
「おい……あの的って壊れないって言ってなかったか……?」
「あんな威力の魔術を放つなんて、化物じゃねーか……」
その魔術の使い手を見ると、無表情で佇む赤い髪の小さい少女であった。
「もう行ってもいい?」
ヒビだらけの的に対し、何の感想も抱いていないのか、無表情で試験官に問いかける少女。
「あ、あぁ、行ってよし! 的を交換するため、次の受験者は暫し待ってくれ」
壊れた的をつけかえるため慌ただしく動き出す試験官達をよそに、少女は興味なさげに去っていった。
「凄まじい魔術だったわね……」
僕の前に並んでいたエアさんが額に汗を流しながら、感想を述べる。
「あ、あぁ、凄かったですね……(見損ねたけど……)」
先ほどの光景を思い出しながら、自分はどうしようかと思案する。
単純に自分が放つことが出来る最上級の魔術を放とうと思っていたけれど、爆発したりする派手な魔術だと、目立ってしまって恥ずかしい。
ただでさえ先ほどの事件で変に目立ってしまったのだ、これ以上目立つことは避けたい。
またあの的も万能ではないというところを見ると、貫通する魔術も危なそうな気がする。
無いとは思うが万が一貫通した場合、訓練場を損壊させることにもなる。
よくアニメやライトノベルでは試験場を盛大に破壊するといったお約束があるが、あんな迷惑で目立つことは絶対に避けたい。
それらのことを考えると、的にピンポイントに衝撃を当てる魔術であり、なおかつ爆発しない、派手じゃない魔術が望ましい。
悩ましいな……
そんなことを考えていると、遂に次はエアさんの順番になっていた。
「エアさん、頑張ってくださいね!」
「あ、あぁ。ありがとう、とりあえず全力を出してくる!」
前に出て、試験官に近距離の的に誘導され、上段に剣を構えるエアさん。
そして『練気』により気力を高めていく。
その綺麗と感じるほど丁寧で、なおかつ力強い気力の流れは、彼女の努力の結果を示していた。
「ハァッ!!」
―――ギャリィン
剣が的を切りつけ、火花が散った。
試験官は一瞬感心したような表情をし、すぐに遠距離の的へエアさんを誘導する。
遠距離の的の前に立ったエアさんは、またもや上段に剣を構えて『練気』を始める。
先ほどの剣撃、魔術を行使した感じはしなかったのに、何故か放つ瞬間に僅かな魔力を感じた気がする。一体何だったのだろうか…
そう思っていると、今度は剣を構えているエアさんの周囲の魔力が活性化しはじめた。
魔術…… いや、エアさん自身からはほとんど魔力が発せられてない…… なんだ?
気になっていまい、エアさんに『洞察』を発動する。
《
【名前】エア・シルフィード
【性別】女
【年齢】15歳
【種族】エルフ族(隠蔽状態)
【ステータス】
体力:1700
気力:1000
精神力:1100
魔力:600
【スキル】
『操気』『練気』『隠気』『魔力操作』『隠蔽』『初級精霊魔術』
》
『精霊魔術』…… 確か、自然界に存在する精霊と契約をすることで行使することが出来る魔術だ。
精霊や自然界の魔力を用いて行使するため、自身の魔力を消費しなかったり、高位の精霊であれば自身の力を超えた魔術を放つことも可能らしい。
ただし精霊に自身の魔力を奉納し続ける必要があるため、自身の魔力を用いた魔術の使用には制約がかかるらしいが。
精霊と出会える、更には契約まで出来るかどうかは運の要素が大きく、また人族は精霊にあまり好かれない傾向があるため、人族で『精霊魔術』を使える者はほとんどいないのだとか。
その『精霊魔術』が使えるというだけで驚きなのだが……
耳が尖っているわけでもないし、エルフ族だったのは気づかなかったな……
耳などのエルフ的特徴を『隠蔽』し、エルフであることを隠しているのだろう。
なんか覗き見で知ってしまって申し訳ないな……
とりあえず見なかったことにしよう、うんそうしよう。
《当該魔力現象を『精霊』と判定、『解析』により『精霊』の可視化に成功》
久々に『解析』の声が頭に流れ込んできた。
『解析』されたことにより、エアさんの周囲に漂っていた魔力に輪郭が浮かび上がってきた。
その輪郭は女性の形を型取り、エアさんを包み込むように存在していた。
……あれが精霊か……
精霊がエアさんの剣に魔力を注ぎ込み、その剣から風属性の魔力が溢れ出す。
「『疾風剣』!!」
エアさんが剣を振り下ろすと、風の刃が的に向かって放出された。
強風を放ちながらその刃は的に命中し、霧散した。
どこからともなく、感心の声が聞こえてくる。
「おぉ……!」
「剣士があれだけの威力の遠距離攻撃を放つとは…… やるな」
「魔術師と遜色ないレベルじゃないか!?」
それらの声が耳に入ったのか、エアさんは誇らしげな顔をしながら試験場の脇に移動した。
そしてこちらを見て、頑張れ!とでも言ってくれているのか、こちらにガッツポーズをしていた。
よし、次は僕の番だ。
エアさんに負けないよう頑張ろう。
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