第28話 冒険者ギルド
翌朝、朝の鍛錬を終えて一階の食堂に行くと小さな猫獣人の子が朝食を運んできてくれた。
朝食は目玉焼きにソーセージ、野菜スープ、パンといったオーソドックスなものであった。
もそもそと朝食を食べながら、本日の予定を考える。
冒険者学校の入学試験まであと三日であるが、今更ジタバタしても仕方ないし、特にしなければいけない試験準備といったものはない。
ならば、王都で暮らしていくために早速働いた方が良いな、とか思ってしまう当たり社畜精神が抜けていないなと自分に苦笑いする。
冒険者が働くと言えば、勿論冒険者ギルドだ。
冒険者ギルドは規定上十二歳から登録が可能であるため、もう登録ができるはずだ。
そして何より冒険者ギルドに登録をすれば、討伐依頼や素材売却でお金を稼ぎつつ鍛錬もできるという素晴らしい仕事にありつけるというわけだ。
よし、そうと決まれば早速冒険者ギルドへ行こう。
宿屋を出る前に、試験日までの三日分の宿泊費を渡す。
「三泊追加でお願いします。あと、冒険者ギルドがどこにあるかご存知ですか?」
「毎度! 三泊ってことは冒険者学校の入学試験かい、頑張りな! 冒険者ギルドなら出てから右側に進んでいけばうちと同じ並びにあるからすぐわかると思うよ!」
「ありがとうございます」
宿屋を出て三分ほど歩くとすぐに剣が二本交わった紋章が刻まれた看板が見えた。
……予想以上に近かったな。
職場の近くに住めば遅くまで働いてもすぐ帰って寝れるし、本当に素晴らしい宿屋だ。
冒険者ギルドに入ると、ムワッと酒の臭いが漂っていた。
入口の脇はバーのようになっており、厳ついおっさん達が談笑している。
恐らく休憩や情報交換に用いられるんだろう。
バーの脇を通り過ぎ、受付に向かおうとすると、一際顔が赤いゴリラのような顔をしたおっさんが進路を塞ぐように現れた。
「おーう、坊ちゃんよぉ、こんな所になんの御用だ?」
「ギャハハハ! ゴルディ、あんまり子どもを怖がらせんなよ!」
……絡み酒か。
こういう輩は無視するのが一番ではあるが、完全に進路を塞がれている上に、一応これから先輩となる人間だ。あまり無下にはできない。
「冒険者登録をしに来ましたので、そこを通ってもよろしいでしょうか?」
「ギャハハハ!! あの坊ちゃん、冒険者になりにきたんだってよ!」
下卑た笑いが、バーにいる野次馬達から聞こえてくる。
他の利用者は迷惑そうな顔をしつつ、こちらをチラチラと見ていた。
「ブハッ! 冒険者って何をするか分かってんのか? 坊ちゃんみてぇなガキにはなれねぇよ!」
「これでも一応十二歳になったので、規定では冒険者登録できるはずですよね?」
「あ? 十二歳も十分ガキだっつの! 死にたくなけりゃ冒険者なんてやめとけ! 商業ギルドにでも行きな!」
一応心配でもしてくれているのだろうか。
確かにこんな子どもが魔物と戦うなんて自殺行為に等しいだろうと、客観的に見ても思うかもしれない。
ここは魔物を問題なく狩れるってことを伝えた方がいいかな。
「街の外でウルフを狩ってきたので、それを売るためにもギルド登録はしたいんですよ」
袋に手を突っ込み、『
わざわざ袋に手を突っ込んだのは、目立たないよう『
「あぁ!? 『
あー…… そうなるか……
それにしてもしつこいな、ちょっと苛々してきた。
「自分で狩ったウルフですし、『
「ガキが調子こいてんじゃねーぞ! 仕方ねぇな、ちっとは痛い目見りゃ冒険者の厳しさが分かるだろ」
手をバキボキと鳴らしながら近づいてくるゴリ…… ゴルディ。
実力行使か、手っ取り早くていいかもしれない。
至近距離まで近づいてきたゴルディは、その丸太のような腕から拳を放つ。
子どもが相手だから手加減しているのだろうか? あまりに遅すぎる。
合気で拳を受け流し、ゴルディのバランスを崩す。
ゴルディはそのまま僕の後方へバランスを崩しながら倒れ込み、膝を折った。
「は??」
何が起きたのか理解できない顔をしているゴルディと野次馬達。
「これで良いですか? 通していただきますね」
そのままゴルディを放置して受付に向かおうとすると、ゴルディが殺気を放ちはじめた。
「ガキが…… 舐んじゃねーぞ!!」
今度は気力を漲らせ、先ほどよりも速度を増した拳が背後から放たれる。
それでもやっぱり遅い。
拳を軽く往なし、ゴルディの腹に手を当てて軽く『
「がァッ!?」
電撃で立てなくなったゴルディは跪き、息を荒らげる。
威力を抑えたとはいえ気絶してもおかしくない位の威力だったはずなんだが…… 跪くだけで倒れもしないとは、意外とタフだな。
「ハァ…… ハァ…… 小僧、何しやがった…… 今のは、魔術か……?」
「えぇ。申し訳ありませんが、暫くは暴れられないように痺れさせてもらいました。僕の身を心配して止めてくださったのだとは思いますが、この通り多少は戦う術を持っていますので、ご心配なく」
動けなくなったゴルディは放っておき、受付に向かう。
「おい…… 今の、詠唱破棄で魔術を放ったのか?」
「ゴルディが軽くあしらわれただと!?」
「あの小僧、一体何者だ……?」
後ろから聞こえてくるざわめきに苦笑しつつ、口をあんぐりと開けて呆けている受付のお姉さんに話しかける。
受付のお姉さんは優しげな顔立ちをしており、非常にボリュームのある胸をしている美人さんであったが、口をあんぐり開けているせいで台無しであった。
「すいません、冒険者登録をお願いしたいのですが」
「……あっ! はい! 冒険者登録ですね!! 私、受付のセリアと申します。それでは、身分証の提示をお願いします!」
身分証をセリアさんに渡すと、それを魔石に当てはじめた。
魔石は淡く光り、中から一枚のカードが浮き出てくる。
「はい、シリウス・アステール様ですね。Fランクからのスタートで…… えっ!!??」
淡く光る魔石を見つめ、目を見開いて動きを止めるセリアさん。
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