冒険者学校入学編

第26話 旅立ち

 木々を避け山の中を疾走する。

 時々襲いかかってくる魔物は通りすがりに斬り伏せ、『亜空間庫アイテムボックス』で亜空間に収納していく。


 僕は今、セントラルに向かう旅をしている。

 僕らの村はイステンの外れに位置しており、セントラルに向かうにはいくつもの山々を越えなければいけない。


 『亜空間庫アイテムボックス』は父さんに教えてもらった時空魔術の一つで、物を亜空間に収納することが出来る魔術だ。

 亜空間には生物以外ならなんでも収納できる。

 また容量は精神力と魔力に依存するらしく、どれだけ入れれば一杯になるか確認できていない。

 試しに池の水を収納してみたら底が尽きてしまって限界が分からなかったのだ。

 正直、これだけの容量があれば一杯になるほど物を入れることもないだろうから、あまり気にしていない。


 また亜空間内の時間の流れは停止させられるようアレンジしたため、狩った魔物を新鮮なまま冒険者ギルドまで運ぶことが出来る超便利魔術になっている。

 分子や原子の動きを止めて冷凍状態にできないかと思って色々試していたら、時間を完全に停止できるようになってしまっていた。


 狩った魔物は最初は自分で解体していたのだが、山越えで討伐する魔物の数があまりに多すぎてやってられないため冒険者ギルドで解体してもらってそのまま素材を売却する予定だ。


 村からセントラルまでは貧相ではあるが一応街道があるのだが、僕の身体能力ならば山を直線的に突っ切る方が圧倒的に早い。

 更には魔物が出てくるので鍛錬にもなり、素材はセントラルに出てからの生活費にもなるため一石三鳥なのだ。


 両親から貰った『雷薙』は切れ味が凄まじく、今のところ出てきた魔物は全て一刀で首を切断できてしまっている。

 逆に切れ味が良すぎて、余程手加減ができないと対人では使えなさそうだ。

 この山越えである程度『雷薙』が手に馴染んできたがそれでも中々手加減は難しく、当面の課題であった。

 いずれ、もうちょっと切れ味の悪い武器を入手すべきな気すらしている。


 村から旅立って五日目の夜、野宿にも慣れてきて素早くテントを組み立て、夕食の支度をする。

 支度と言っても旅立つ前に作り置きしておいたおにぎりと野菜のごった煮を『亜空間庫アイテムボックス』から取り出し、本日狩った魔物の肉を焼くだけなので非常に簡単である。


 地図を見ると現在いる山がセントラルに一番近い山であるため、明日にはセントラルに着きそうであった。

 獣や魔物の接近を知らせる『鳴子』という魔道具をセットして休む準備をしていると、魔力感知に固まって移動している魔力を感知した。


 移動速度は馬車程度で人間が四人、それを二十匹くらいの魔物が追いかけているようだ。

 人間の中には中々強そうな者が一人いるが、いかんせん魔物の数が多い。

 しかも魔物の中にも一匹だけ突出した魔力を持っている個体がいた。


 ……助けるか。


 テントと鳴子を手早く『亜空間庫アイテムボックス』に収納し、魔力を感知した方向へ走り出す。

 幸い近くの街道を走っているようなので、すぐに追いつくだろう。


 森の中をトップスピードで駆け抜け街道に出ると、ウルフの群れが馬車を追いかけて襲っているところであった。

 馬車の荷台の端には、飛びかかってくるウルフをロングソードで薙ぎ払い、馬車を守っている少女が見えた。

 しかしウルフの群れの中に一匹だけ混ざっているヘルハウンドが放つ氷の礫は防ぎきれないようで少女も馬車も傷だらけになっており、いつ防衛線が崩壊してもおかしくない状況であった。


 とりあえず馬車近くのウルフを斬り捨て、荷台に飛び乗る。

 そして直ぐに馬車に『風障壁ウインドバリア』を張り、ヘルハウンドの氷の礫を防いだ。


 魔物に襲われている状況でいきなり不審な人物が荷台に飛び乗ってきたため、馬車を守っていた少女や荷台に乗っていた人は驚きで口を開けて呆けていた。

 冒険者のマナーとして獲物の横取りは厳禁だと父さんの本で書いてあったので、念のため確認をする。


「驚かせてすいません。旅の者なのですが、助けが必要でしょうか? もしよろしければ馬車の護衛とウルフの討伐をお手伝いしますが」


 何を言っているのか一瞬理解できず固まる人々だったが、馬車を守っていた少女は直ぐに調子を取り返し、代表して控えめながら話しかけてきた。


「えっと…… もしよかったら、お願いしてもいいですか?」

「勿論です。では」


 了承を得たところで『風障壁ウインドバリア』を解き、『雷槍雨ライトニングレイン』で雷槍の雨を降らせてウルフを殲滅する。

 一発でほとんどのウルフは殲滅できたがヘルハウンドだけは魔術を避け、『氷矢アイスアロー』を放ってきたが、刀の一振りで防ぐ。


 高速で移動中の馬車から高速避ける敵に魔術を当てるのは難しいと判断し、馬車から飛び降りてヘルハウンドに接敵する。

 ヘルハウンドは咄嗟に噛み付こうとしてきたが、遅い。

 一瞬で首を斬り飛ばし、ヘルハウンドを討伐した。


 さて、このウルフ達の素材は分配した方が良いのかな?

 僕が倒したとは言え、元々戦っていたのはあの少女だし……


 と、素材の分配について思案していると、ふくよかな男性と少女が近づいてきた。


「毎度、この度はわいの馬車を守ってもろて、ほんま助かりましたわ。わいは商人をしとりますトルネと申しますよって」


 ふくよかな男性が似非関西弁のような言葉で挨拶をしてきた。

 この商人が馬車の持ち主だったのか。


「たまたま通りかかったんですが、助けられて良かったです。僕はシリウスと申します」

「ほうほう、シリウスはんでっか。シリウスはんは冒険者様で?」


 こんな子どもを一人の冒険者と扱ってくれるとは…… 見た目で人を判断しない、鋭い観察眼を持っているんだな。


「いえ、冒険者学校に入学するためにセントラルに向かっているところです」

「では将来の冒険者様やな。シリウスはんほど優秀なお方ならば、セントラルの冒険者学校でも簡単に入学できますやろ。この子もセントラル冒険者学校入学希望の子でして」

「エアです、先ほどは助けていただいてありがとう。あなた、あんな魔術を使えるのに剣術も凄いのね」


 この子も冒険者学校入学希望者だったのか。

 確かに中々の気力を纏っており、動きも洗練されているように感じる。


「この子は贔屓にしてもらってる街の娘でしてね。護衛をしてもらう代わりに無料でセントラルまで乗せておったんですがね、流石にあれだけの群れに一人じゃ厳しかったんですわ。で、物は相談なんですが、もし良かったらシリウスはんも明日乗ってきまへんか? シリウスはんは歩かずにセントラルまで行けますし、わいは護衛が増えるしでお互いに良い話だと思いませんやろか?」


 セントラルに行くのはあと少し走ればいいだけなので別に馬車に乗る必要は感じなかったが、道中にセントラルのことを教えてもらうには丁度いいかもしれない。

 同じ学校に通う友だちもできそうだし。


「分かりました、それではセントラルまでよろしくお願いします。ところで、このウルフ達の素材はどう分配しましょうか?」

「わいは結構ですわ。助けてもろて素材まで貰うなんてできませんわ」

「私もいらないわ。だって全部あなたが倒したんだもの。全部あなたの物でいいわよ」

「そうですか…… それでは遠慮なくいただいていきますね」


 二人の了承を得たので『亜空間庫アイテムボックス』にウルフ達を収納していると、トルネさんが凄い勢いで食いついてきた。


「なんですかそれは!?」

「えっと、物を収納する魔術ですね」

「ほえー…… 『亜空間袋アイテムバッグ』を魔術で再現しているということやろか…… 凄まじく便利な魔術でんな。商人的にはたまらんですわ…… わいも覚えられんやろか……」

「ちなみに『亜空間袋アイテムバッグ』とはどんな物なんですか?」

「袋の容量を超えた物を収納できる魔道具ですわ。迷宮ダンジョンの深層でたまに宝箱から発見されるんですがかなり希少な魔道具で、欲しくても中々買えるもんではありまへんな」


 時空魔術は父さんが創ったらしいから、珍しいのだろう。

 そんな希少な魔道具と同じ効果を魔道具なしで気軽に使ったらそりゃ驚かれるわ。

 これはあまり人前では使わないほうが良いかもしれないな……


 ちなみにトルネさんからは殆ど魔力を感じられないので、時空魔術以前に普通の魔術を使うこともできないだろう。


「では、野営の準備をしましょか」


 その後魔物に襲われて疲れている人達を休ませ、一晩見張りをするのであった。

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