第54話 危機回避能力
人間40年以上も生きていれば、何かしらの虫の知らせが、わかるようになるもので、時野にもそれなりに備わっていた。
「これベルギーのチョコレートです。6メーカーの物じゃありませんが、日本人の口には、特にあう物です。」
ベルギーと言えば、王室御用達の6メーカーが特に有名だが、それ以外にも多くのメーカーが存在する。
時野はフォンデで仕入れてもらったチョコレートをチーフに手渡した。
今日は、モニターの報告日。
「べ、ベルギーのチョコレート・・・。」
完全に目がハートになっていた。
もちろんチョコレートに対して。
「女ったらしは、半端ねえな。」
「あの回避能力、俺も欲しい。」
「時野さんって、赤い彗星なんじゃ?」
他の運営の3人が小声で会話した。
「む、無職なんだから、無理しなくてもいいんですよ。」
「いえいえ、これくらいは、させてください。」
「時野さんが、そういうなら。」
この時点で、猫耳事件の怒りは、吹っ飛んでしまった。
その後は、上機嫌のチーフだった為、報告はあっさりと終わった。
「そうそう時野さん、ゲームの知り合いで年配の方は居ませんか?」
「年配の方ですか?」
「ええ、出来れば定年された方とか、そういった方がいいんですが。」
チーフに言われ、時野は暫し考え込む。
「まだ始めたばかりの方なら、一人ほど。」
「出来たら、次回の報告日にお連れして欲しいんだけど。」
「一応、聞いてみます。」
「お願いします。」
「結果は、メールでいいですか?」
「はい、メールでも電話でも。」
時野は、帰り道、波田運輸サービスに寄った。
「はい、春子さん、ベルギーのチョコレートです。」
「時野さんって、私の事を餌付けしようとしてません?」
「滅相もない、スナイパーに撃ち殺されちゃうじゃないですか。」
「それならいいんですけど。」
春子は、喜んで、チョコレートを受け取った。
「コーヒー入れますね。社長もコーヒーでいいですか?」
「すみません。お願いします。」
波田もコーヒーを頼んだ。
「無職になっても、マメな奴だな。」
「ほっとけ。」
「そういや、時野さん、オフ会は、どうなってます?」
春子がコーヒーを出しながら聞いた。
「日程調整中です。お医者さんですからね。中々日程が・・・。」
「ミラちゃんがお医者さんってのが、未だに信じられないんだけど。」
「あ、そうだ。もう1名誘ってもいいですか?」
「あら、ゲームの人ですか?」
「ええ。」
「時野さんが、親しい人ってローラさんとか?」
「いやあ、さすがにローラのリアルは知りませんよ。」
「じゃあ、どなた?」
「武者たんです。」
「「えっ」」
二人が驚いた。
「常盤君も来るんだよな?大丈夫か?」
波田が心配した。
「大丈夫だろ・・・多分・・・。」
「武者たんのリアルって、どういう人なの?」
春子が気になって聞いてきた。
「普通の女子大生ですよ。」
「お前は、どっからそういう若い女性と仲良くなるんだ、まったく。」
波田が呆れて言った。
「時野さん、いい加減にしないとスナイパーに言いつけますよ?」
「そ、それはご勘弁を・・・。」
「まあ、常盤君は、ああ見えて大人な感じなんで大丈夫そうだけど、武者たんは、猪突猛進ってイメージがあるんだけど・・・。」
「ああ、そのまんまです。」
「ダメじゃんっ。」
「春子さん、こいつはそういう修羅場なんて日常茶飯事なんで、大丈夫ですよ。」
「日常茶飯事じゃねえよ・・・。」
「まあ何かあったら、時野さんのせいって事で。」
「・・・。」
「お店はどうするの?」
「春子さんは、食べたいものとかありますか?」
「私は何でも。」
「イタリアンなんてどうです?」
「大好物です。」
「行きつけがあるんで、日程決まったら予約しときますよ。」
「無職のくせにな。」
「行きつけになった時は、働いてたっちゅうに・・・。」
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