第48話 ビショップは、つらいよ 卒業編

ビショップこと、村元政夫が通う大学は関西にある。

ようやく内定が決まった、村元だが、就職先は東京だった。


「どうするつもりなの?」


内定が決まり、喫茶店で村元は川俣千夏に報告したが、喜んで貰えるどころか、意味の分からない質問が飛んできた。


「ど、どうするって?」


「私たちの事よ。」


「へっ?」

何の事かさっぱり、判らない村元政夫。


「そっか、東京に行ったら、私の事捨てるんだ。」


「いやいやいや、何それ?まるで俺たちが付き合ってるみたいな。」


「付き合ってるわよ。」


「・・・。」


デートというか食事に行ったりすることもあった。

もちろん大会に応援に行ったりもした。

が、恋人同士と言われることは、何一つしていない。


ここで、付き合って居ないと言えばどうなるのだろう・・・。

恐る恐る村元は、川俣千夏の方を見た。

彼女は、泣くと言うより、メラメラと炎を燃やし始めていた。


【これ、間違えたら殺される・・・。】


村元は慎重に言葉を選んだ。


「い、今まで通りでいいんじゃないかな?」


「遠距離ってこと?」


「そ、そうだね・・・。」


「ねえ。」


「ん?」


「東京で浮気したら、殺すわよ?」

目がマジだった。



卒業式が終わり、二人は食事に行ったのだが、川俣千夏は落ち込んでいた。

寂しそうに。


「だ、大丈夫だって。俺、器用じゃないの知ってるだろ?」


ミスター不器用が、慰めた。

彼女は美人だから、きっといい人が現れてくれるはずと淡い期待をもちつつ。

それまで、我慢我慢と心に決めていた。


「大学辞めようかな・・・。」


「いやいやいやいや、ダメでしょ?」

村元は真剣に焦った。


「私に東京に一緒に来てほしくないの?」

村元は、無い知恵を絞って言葉を選んでいく。


「いいかい、君は大学の期待も背負ってるんだよ?その辺をもっと自覚した方がいい。俺が浮気することなんて絶対ないから。」


「絶対?」


「ああ、約束するよ。」


「浮気したら一緒に死んでくれる?」


「・・・。」


「死んでくれる?」


「も、もちろんさ。」


【白馬に乗った王子様、速く彼女を迎えに来てあげて・・・。】

心の底から、そう願った。



その帰り道、彼女は村元に寄り添うように腕を組んだ。


「ちょっと酔ったみたい。」


【いやいやいや、あなた未成年だし、そもそも飲んでないでしょっ】


心の中で思いっきり突っ込んだ。

そして、彼女は自分の学生マンションに帰ろうとせず、村元のアパートまで

ついてきた。


【正念場だぞ。村元政夫っ!理性を保てば、後はどうとでもなる。遠距離なんて破たんするのが定石だっ!】


心の中で、自分に強く言い聞かせる。


彼女をベットに寝かせ、自分はカーペットの上で、雑魚寝しようとした。


「お水欲しいな。」


彼女がいうので、村元は、コップに水をいれ彼女に差し出そうとした。

すると、物凄い力で、引き寄せられ、彼女は首に腕を回し抱き付いてきた。


「恥をかかせないでね。」

彼女が言った。


【やばいっ、やらなきゃ、殺られる・・・。】


村元の本能がそう感じ取った。




そうして、村元は不毛な遠距恋愛を強いられる事になり、就職先へと旅立った。

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