第43話 降臨

「しかし、まずいわね。」

パルコが言った。


「更に何かあるんですか?」

タイマーが聞いた。


「いやあ、カラット君の優勝は決まったんだけどね。ヘルファイヤには、別の効果もあるのよ・・・。」


「何です?」


「3分間、防具が着れないのよね。」


「はあ?何のために?」


「モンス相手だと、防御が高い敵がいるでしょ。それが3分間防御が下がるって効果なんだけどね。」


「なるほど。」


「対人戦だと、防具が実際に脱げちゃうみたいね。」


「何故にそんな効果が・・・。」


「対人戦に使う人なんて、いると思ってなかったんじゃない?」


「しかし、防具が脱げる位で、何か問題でも?」


タイマーがこう聞いたのは、大した問題ではないからだ。

VFGXは、他のRPGと同じく裸はない。

最初は、みな、スポーティーな下着?のような物を着ている。

確かに肌の露出は多いが、水着よりも露出面は小さい。

そもそも、ゲームスタート時は、皆その恰好だからだ。


「いやねえ。武者たんって露出ないでしょ?」


「なるほど・・・。」


タイマーは理解した。

普段から鎧武者で身を固めてるクレインは、きっと肌を露出するのが、嫌なタイプだと納得できた。

今回の限定戦は、R2までの防具しか装備できない。

それなのにわざわざ、鎧武者の格好をして来てる位だから、よっぽどなのだろう。

会場には、チッパイ派もいるので、SSのシャッターチャンスとなるだろう。

さすがに、初期の姿を撮ったからといって、問題になることはない。

だが、会場内で、ヘルファイヤの効果を知ってる者は、パルコくらいだ。

皆、登りゆく炎を見つめてるだけだった。

まさか、この後、ご褒美ショットがあるなど思いもしていなかった。


炎が収まり、カラットの勝利が告げられた。

そして、炎の後には、初期の姿のクレインの姿が。


「きゃあああっ。」

自分の姿に気づいて、悲鳴と共にうずくまるクレイン。


「「「なっ!!!!」」」


目の前のご褒美ショットに、慌てるチッパイ派。

急いで、SSを用意して、シャッターを切る。


しかし、彼らのSSに写ったのは、真っ黒い画面だった。


「「「う、運営かっ??」」」


ヘルファイヤの効果を失念してた、運営が動いたわけではなかった。

彼らが、写したのは黒いマントだった。


黒いマントを翻し、颯爽と舞台に登場した者は、

マントでクレインを包み込むと、お姫様抱っこして、観客席へと

戻っていった。


「えっ、あの、ちょっ・・・。」


パーソナルエリアの警告音が鳴り響いているクレインは、突然の事で、

何もする事が出来なかった。


タイマーは、自分が元居た場所、パルコとローラの間にクレインを

座らせた。


「は、伯爵きたあああああああああああ。」


「伯爵様が降臨された!」


「なんだあれっ!!」


「武者たんがドラキュラに攫われたぞっ!」


「くそっ、おれのSS、マントで黒一色じゃねえかっ!」


会場中が大騒ぎになった。


「そういや、あれドラキュラスーツだ。」

ポンっと手を打ってカラットが呟いた。


「チーフ、チーフっ!」

突然の出来事にボーっとしてた、チーフに運営が通信で呼んだ。


「あっ・・・。」

チーフは、我に返り、会場を鎮めようとしたが、無理だった。


会場大騒ぎの中、カラットの優勝が告げられた。


「3分経ったから、鎧着れるんじゃない?」

パルコが、隣にいるマントに包まったクレインに言った。


「ノーカンです、ノーカンです・・・・。」

クレインは、そうやって呟いていた。


「ゲーム内だから、ノーカウントで大丈夫よ。」

ローラが言った。


「そうですよね?ね?」


「何を言ってるんだ?」

タイマーが聞いた。


「タイマーには関係ない事よ。」

ローラが言った。


「そうです!釣り仙人には関係ありませんからっ!」

クレインが強く言った。


「お姫様抱っこかあ、女の子の憧れよね。」

パルコが突っ込んだ。


「うっ・・・。」

クレインは思い出した様に落ち込んだ。

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