第14話 プチオフ会

「今日はお招き頂きありがとうございます。いつも妻がお世話になっております。山中と申します。」


春子の旦那は丁寧に挨拶した。


「いえ、こちらこそ春子さんには、いつも美味しいコーヒーを頂いてます。時野です。」


「あなたが時野さんですか。」


2人は、握手を交わす。

段々と握る手に力が入り、

「あ、あの山中さん、痛いんですが。」


「いえね、波田運輸サービスに、女ったらしが出入りしてるってのを聞いてまして、心配で、心配で・・・。」

更に力が入る。


「ちょっと、あなた。」

春子が止めに入って、ようやく握手が終了した。


「すまない春子。心配で心配で夜も眠れなくて・・・。」


「山中さん、そんな心配されずとも。」

波田がなんとか宥めようとする。


「社長さん、最近ね、春子の奴が、時野さんの話ばかりするんですよ。」


「なっ、違いますよ?ネタにしてるだけですから。」


「なんか、クールタイム食らったとか、釣りばっかりしてるとか・・・。」


「先輩、完全にネタにされてますね。」


「だな・・・。」


「そんなに心配なら、一緒のゲームされたらどうですか?」

珍しく、常磐がナイスフォローをした。


「そこは、譲れないんですよ常盤さん。」


「常磐君、この人はね。ガンマニアなの。」


「銃ほど素晴らしい物は、ありませんよっ!時野さんよかったらご一緒に。私のダブルハンドで蜂の巣にしてさしあげますよ?」


「け、結構です・・・。」


「山中さんは、2丁拳銃なんですか?」


「ええ。」


「似たもの夫婦ですね。」


「常磐、どういう意味だ?」


「春子さんは、双剣なんですよ。先輩知りませんでした?」


「まあ、俺、冒険しないからな。」


「春子さんが、旦那さんと一緒にやってあげたらどうなんです?」


「私は、剣が好きなの。」


「なるほど、ちなみに山中さんは、何のゲームですか?」


「ガンフィールド12です。」


「うちのゲームですね。」


「ああ、どっかで聞いたと思ったら、そういうことか。」


「えっ!ガンメタリアにお勤めで?」


「はい、中途採用ですけど。」


「あの会社は、素晴らしい会社です。銃の事を本当にわかってる。」


「社内は、モデルガンだらけです。」


「夢のような会社ですね。私のコレクションは結婚する時に・・・。」


「何?結婚する時の条件だったでしょ?」


「なるほど、ガンコレクションより春子さんを取ったわけですね。」

時野が言った。


「ええ、まあ。」



自己紹介も軽く終わり、プチオフ会が始まった。


「僕は、春子さんとはβの時からの知り合いです。」

常磐が言った。


「えっ、そうなのか?」

時野だけが驚いた。


「じゃあ、その縁で同じギルドに?」


「いえ、僕はヴォルグさんに誘われてギルドに入りました。」


「春子さんは?」


「私は立ち上げ人の1人だから、既に入ってたわ。」


ギルド「鋼の翼」は、波田と春子が2人で立ち上げたギルドだった。

時野が保証人となった借金も滞りなく返済終了し、一息ついた頃、

春子が、波田をゲームに誘った。

時野と違って、RPGはそれなりに好きだった波田は、誘われるままに

ゲームを始めた。

あまり、ONできない波田は、野良PT等でギルドに誘われるのが億劫になり、春子とギルドを立ち上げる事にした。

当初ギルドは5人のメンバーが必要だったが、波田が始めた頃は、2人からに軽減されていた。


「ギルドに入って、春子さんがいたんでビックリしました。」


「私も社長がカラット君を連れて来たんでビックリしたわ。ギルドとかそういうの嫌いでしょ?」


「誘いとかそういうのが、面倒になっちゃって。ヴォルグさんに聞いたら、名前だけのギルドって聞いたんで、入っちゃいました。」


「ミラちゃんは?」


「私が連れて来たの。ミラちゃんは、ゲームと言うよりVR機がどんなものか興味あっただけみたい。」


「冒険とかしてるんですか?いつも2人で話してますが?」


「時野さんに言われたくはないんですが?」


「・・・。」


「まあ、時野より冒険してない奴なんて、存在しないと思うぞ。」


「僕もそう思います。」


「時野さんは、まったく冒険しない人なんですか?」

山中が聞いてきた。


「え、ええ。殆ど座ってます。」


「素晴らしい、是非一緒にガンフィールドをやりませんか?時野さんなら、いいマ・・・仲間になれそうです。」


「今、的って言おうとしましたよね?」


「そ、そんな事は・・・。」


「ねえ、あなた。モデルガンとか仕入れて時野さんを襲ったりしないでよね?」


「その手があったかっ!」

バシンっ!

春子は、旦那の頭を叩いて突っ込んだ。


「それにしても美緒ちゃんを見てきて、女の子がいいなあと思ってたんだけど、男の子もいいかな~」


春子は、屑串をパクパクと食べている常磐を見ながら言った。


「僕は子供じゃありませんよ~っ」

常磐が抗議した。


「あなたは、どっちがいいの?」


「俺は春子がいればいいよ。」


「アツアツですね・・・。」


「ごちそうさまです。」

常盤と時野が言った。


「娘が居たら可愛いんじゃない?」


「駄目だ!世の中には時野さんのような獣がウジャウジャ居る。春子だけでも、心配で一杯なのに、娘まで居たら・・・。」


「俺は獣か・・・。」


「当分、無理そうね・・・。時野さん息子って父親的にどう?」


「さあ・・・、10年近く会ってないし。」


「えっ。」


「まあ相手には、新しい家庭があるから、こいつなりに気を使ってるんですよ。」

波田が、春子に説明した。


ゲームの話は、最初だけで最後は、世間話で花を咲かせたプチオフ会となった。

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