第13話 邂逅

「そういえば春子さん、カラット=常磐には、リアルであった事ないんですよね?」


「ええ。」


「進の奴は、あるのかなあ?」


「社長も無いと思いますよ。」


「なるほど。」


時野はスマホを取り出し、メッセージevoを立ち上げた。


「今から抜けれるか?」


「無理です」

ついでに怒りの顔のスタンプがついてきた。


「今日定時か?」


「残業に決まってるでしょ。」

怒りのスタンプが激怒プンプンになっていた。


「春子さんは、今日は早番ですか?」


「ううん。旦那が遅いから、今日は特に。」


「春子さんって従業員にならないんですね?」


「社長からも言われてるんだけど、時間が色々と変えれるパートの方が楽なのよねえ。」


「旦那さんは何と?」


「そもそも働かなくていいって。」


「いい旦那さんですねえ。」


「でしょう?だから時野さん誘惑しないで下さいね。」


「俺は、人妻を誘惑なんてしませんよ?」


「そういうことにしときましょう。」


時野は、メッセージevoに波田運輸サービスのマップのURLを貼り付けた。


「定時にて、ここで待つ。」

もの凄い怒りのスタンプが・・・。

無視してメッセージevoを切り、スマホをポケットに仕舞い込んだ。


「ただいま」

波田進が、帰ってきた。

女子高生を連れて。

神速の速さで、時野は女子高生の目の前に立った。


「美緒ちゃんかあ。大きくなったなあ。」

そういって、頭を撫で始めた。


「なっ、・・・なっ。」

突然の事で、美緒は言葉にならなかった。

しかも、頭を撫でられて、フニャっと力が抜けていく。


「お、おっさん。勝手に触んなっ。」

ようやく言葉が出て、時野の手を振り払った。

が、


「あれ?俺の事覚えてない?」

そう言ってニッコリと笑って、再び頭を撫で始める。


「お、おじさんっ。」

美緒は、困って波田に助けを求めた。


「時野いい加減にしとけよ。宇品にいいつけるぞ?」


「何て?」


「娘にセクハラしてたと。」


「何処がセクハラなんだよ?」


「時野さん、女子高生の頭をむやみに触るのは、十分セクハラですよ。」

春子に突っ込まれ、ようやく撫でるのを辞めた。


「美緒ちゃん、本当に俺の事覚えてない?」


「知らねえよっ。あんたみたいな、おっさん。」


「ん~。じゃあ康平の事は覚えてるかな?小さい頃一緒に遊んだ男の子。」


「知らねえよっ。」


「時野、随分昔だろ、美緒ちゃんも覚えてないよ。」


「もしかして、康平君ってのが、時野さんの息子さん?」


「ええ、俺も随分あってないからなあ・・・。」


「あんたも、親父の昔の仲間なのか?」


「ん?暴走族の?」

コクリと美緒は頷いた。


「いやいや、全然、単なる高校の同級生だよ。」


「美緒ちゃんのお父さんって、暴走族だったの?」

春子が美緒に聞いた。


「まさか春子さん、進が暴走族のリーダーやってたの知らなかったり?」


「えっ・・・。」

驚いて春子は、波田の方を見た。


「む、昔の事ですよ、春子さん。」


「ちなみに権造がそのずーっと後のリーダーだったりします。」


「えっ、権造君もっ・・・。」


「春子さんもその筋の人じゃないの?」

美緒が聞いた。

小学生の頃から、波田運輸サービスには、顔を出していたので、春子とは仲がいい。


「私は、普通の主婦です。」

春子が言い切る。


「その筋って・・・。美緒ちゃん俺は元暴走族を集めて会社をやってるわけじゃあ・・・。」


「なんだ違うのか?」

真顔で時野が聞いた。


「あのなあ・・・、まあいい、取りあえず宇品に電話しとくか。」


「いいよっ。別に!どうせ仕事で、来やしないんだからっ。」


「家には俺が送ってくけど、一応は知らせとかないとね。」

波田は、美緒に説明した。


「美緒ちゃん、髪染めてるの?」

そう言いながら、時野は、美緒の髪を手に取った。


「なっなっ・・・。」


「ん?」


「か、勝手に触るなっ!」


「髪痛むよ?」


「みんなやってるっつーの。」




「あ、宇品か、仕事中に悪いな。」


「どうした?」


「美緒ちゃんなんだが、今うちの会社に居るんだが。」


「すまん。今日も残業で・・・。」


「ああ、わかってる。俺が送っていくから。」


「いつもすまんな。」


「そういや、時野なんだが。」


「は?なんであの女ったらしの名前が出てくるっ!」


「い、いや、いまうちの会社に居てだな。」


「ま、まさか美緒と・・・。」


「仲良く話してるぞ?」


ガチャンっ!


「なんだ、いきなり電話切りやがった・・・。」




「剥げるよ?」


「剥げるかーーーーっ。」


「宇品も薄くなってない?」


「男と一緒にするなっ!」


「知らないかな?宣伝もやってるでしょ、女性用カツラ?」


「えっ。」

美緒はやや不安になってきた。

そういえば以前、近所のおばさんがカツラがどうのと言ってたような。

美緒は、心配になって春子の方を見た。


「ま、まだ若いから大丈夫よ。」


美緒は更に不安になった。


「そういえば、昔、美緒ちゃんのおしめを替えた事が。」


「お、お、お、おっさんが替えたのか・・・。」

顔を真っ赤にして美緒は言った。


「いや、俺が替えようとしたらさ、」


「俺の娘に触るなあああああっ!」


「そうそう、こう言って止められ・・・」


「はあはあはあ・・・。」

息を切らして、宇品が入って来た。


「おおー、宇品久しぶりだな。」


「俺の娘に手をだすなっ!」


「何言ってんだ、お前?」


「美緒帰るぞ。」

そう言って、座ってる娘を立たせ連れて行こうとする宇品。


「い、いたっ。何すんだよ親父っ!」


「いいから。」

無理に引っ張って立たせようとしてる宇品に、

バコっ!!

時野は空手チョップを食らわした。


「落ち着けっ!」

美緒を元の位置に座らせ、隣に宇品を座らせた。


「春子さん、この馬鹿にもコーヒーを。」


「はい。」


「おい、宇品。会社は大丈夫か?」

波田が、心配そうに聞いた。


「ああ、部下に任せてきたから。」

宇品は中小企業の部長だった。


「ふんっ、普段はこんなに早く帰ってこない癖に。」


「それだけ美緒ちゃんの事が心配だったのよ。」

春子がコーヒーを出しながら言った。


「まったく、時野の名前を出しただけで飛んでくるなんて。」


「当たり前だろ、こいつは鬼畜天然女ったらしだぞ。」


「凄い長い名前ですね、先輩。」

そう言って、常磐が入って来た。


「定時で帰れるんじゃねえか。」


「無理矢理ですよ。無職の人みたいに無限に時間なんてないんですからっ。」


「お、お前っ!」

美緒が入って来た常磐を指さした。


「僕、JKにお前呼ばわりされる事しましたっけ?」


「き、君は、中性死亡と呼ばれていた・・・。」


「何だ進。知り合いか?そいつが俺の後輩でカラットだ。って、中性脂肪って何だ?」


「チンピラに絡まれてたのを助けてくれたんだが、チンピラがそう呼んでた。」


「なんだ常盤。昔、太ってたのか?」


「体形は、ずっと変わりませんよ。」

見た目が中性的で、会うと死亡する。

一部からは、そう呼ばれ恐れられていた。


「ゲーム内と雰囲気まったく一緒ね。」

春子が言った。


「カ、カラット・・・?」

美緒が言った。


「ああ、俺たちがやってるゲームの中の名前だよ。美緒ちゃん。」

時野が説明した。


「春子さんって、ゲーム内と変わらず美人さんですね。」


「もうカラット君って、お上手ね。」


「常磐って呼んで下さいね。」


「おい、常磐。春子さんは人妻なんだからな。」


「先輩じゃないんだから、大丈夫ですよ。」


「くっ・・・。」


「常磐君、今日は本当にありがとう。」


「いえ、僕何もしてませんし。波田さんがヴォルグさんですか?」


「ああ。そうだ宇品、こちらの常磐君が昼に美緒ちゃんを助けてくれたんだ。」


「娘がご迷惑お掛けして申し訳ない。」

宇品は深々と頭を下げた。


「迷惑なんて、掛けてないっ!」


「ほら、お前もお礼をしないか。」


「だから迷惑なんて掛けてないって言ってんだろっ。」


「いいんです。お気になさらずに。」


「に、してもだ。美緒ちゃんは、どうしてグレちゃったんだ?」

時野がボソッと言った。


「「グレてないっ!」」

親子がハモった。



帰り際に、宇品は念を押すように言った。


「いいか、時野。今後一切うちの娘に近づくなっ!いいな。」


「近づいてねえよ。なあ美緒ちゃん?」


「ふんっ!」


「美緒もこいつには近づかないように。」


「言われなくても近づかないっ。」

そうして、親子仲良く(?)帰ろうとして、宇品は振り向いた。


「そういや、時野、お前会社が潰れたんだってな。」


「それがどうした?」


「ざまあああああっw」



「あの野郎、ぜってえ許さねえ、覚えときやがれ。」


「せっかく集まったんだし、飲みにでも行くか?」

波田が言った。


「俺は構わんが、春子さんは不味いだろ?」


「春子さん、山中さんも呼んで一緒にどうですか?」


「ちょっと聞いてみますね。」


「僕飲めないんで、居酒屋なら屑串の所がいいです。」


「常磐、どんだけ屑串が好きなんだよ・・・。」


「そこで構わんよ。」


「やったあ!」

こうして、春子の旦那をあわせた5人でプチオフ会が、

急遽開催される事になった。

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