第71話 終焉 残されたもの

 それはギレン法国より唐突に告げられた。


「陛下へとお伝えします 」

伝令が書簡を携えて、王の下へと早馬で到着する。


アイギスが受け取り、ゲオルグへと手渡した。

其処に書かれていたものは、絶句する内容であった。

『ぐぬぅ! よ、よもやこの様な馬鹿げた要求をしてくるとは! 』

ゲオルグは怒りに顔を歪め、語気を強め叫ぶと目の前にあったテーブルを拳で叩き割ったのだ!

そのテーブルは木製の重厚な造りの物で、簡単に割れるような代物ではなかった。


『へ、陛下…… 』

アイギスはその様子に驚きを隠せない、この様なゲオルグは滅多に見る事が無いからだ。

ゲオルグはアイギスへと、己が手で握り締めクシャクシャになった書簡を渡す。

それを読んだアイギスが叫ぶ!

『な、なにを戯けた事を!! 』

その表情は、アイギスには珍しく怒気を纏ったものだ。


傍らに居たアーサーが、慌ててその書簡を受け取り目を通すと

『これは…… 』

その要求に言葉を失った。


『なにが書かれているのですか!? 』

フローラが不思議に思う。

ゲオルグとアイギスの二人が、ここ迄感情を表に出すことを見たことが無いからだ。

アーサーからクシャクシャになった書簡を受け取り、その文字へと目を走らせる……

『こ、この様な要求をしてくる等!! 

正気の沙汰とは思えません。

すぐにでも全力で撃退するべきです! 』

普段温和なフローラでさえこうなのだ。

余程の要求が書かれていたのであろう。


そして、その場には運悪くレオンとエレノアが居合わせてしまった。

レオンはその書簡をフローラから奪い取ると目を見開いた!

横から覗き見るエレノア。


その内容に、皆の激高振りがようやく理解できた。

「私達二人の命を差し出せと、それで終戦になるのですね 」

レオンが呟く。

「それが、彼の国の望みですか。 手に入らぬなら…… 殺してしまえ、ですか。

仕方がありませんね 」

レオンとエレノアが手を取り頷きあう。


その様子を見ていた近衛兵達がその内容を聞き、驚きと怒りに染め上がっていく!

その波が一般兵へ伝播するまで、それ程の時間は必要なかった!

全ての兵士達に怒りが伝播し、戦いへの勢いが増して行く。


ゲオルグの表情は静かなものに変る。

兵士達のその様子を伺い、腹を決めたようだ。

国の威信を持って全力で叩き潰すと決めたその時、それを止める者が二人。

「陛下、私達の命、この国とあの国の民・・・・・を護るために捧げます 」

「どうか、御許可を。 

そしてこの国に平和を。 

法国の民にも平和を齎してください 」

「「そのためなら、喜んでこの命を捧げましょう! 」」

ゲオルグは言葉を失った。

いや、続く言葉を遮られたと言った方が良いだろう。

流石は唯一の聖戦士ハイランダーの威圧。

本来は不敬になるのだが、そんな事を言う者はその場には誰一人としていなかった。


「「私達の娘を、エストを…… 

どうか宜しくお願い致します 」」

二人は、傍に控える友へ向けて一礼をする。


「この命に代えて…… 

立派に育ててみせます 」

エレオノーラが涙を流し、手を取り合い二人に誓う。


 ◇    ◇    ◇    ◇


 そして、凄惨な戦場は終戦の時を迎える……

両軍の対峙する中、レオンとエレノアの二人は、ギレン法国の要求を読み上げ、戦場に居る両軍全ての兵士達へと聞こえる様に、声高らかに告げる。

風の魔法により、戦場の隅々まで響き渡る二人の声を、全ての兵士達は静かに聴き入っていた。


「この戦場に居る全ての兵士たちよ、私はアスガルド王国、唯一の聖戦士ハイランダー レオン・フレイム・マレリー 」


「この様な下らぬ戦場に何時までも居てはならない!

私はギレン法国、 オットー・ギレン・ゴダール、ギレン七世陛下より、銀翼の魔女・・・・・の二つ名を拝命した!

エレノア・フレイム・・・・マレリー・・・・ 」


「「法国現法王・・・の要求は私達二人の命である! 

そして、我が命捧げる事で終戦であると、この約束を違わぬと誓うのならば!

ここに二人の命を捧げると誓おう! 

返答は如何に!! 」」

二人はギレン法国へと声高らかに告げた。


『良かろう! われが約束をいたす! 

その命捧げるならば、これで終戦だぁ! 』

ギレン八世レイモンドは全兵士へと聞こえるよう宣言をした!

その時の顔は、悪意に歪み薄く嗤っていたのを知る者はいない。


 レオンとエレノアは互いに剣を抜き放つと、天に掲げる。

そのまま抱き合うと、顔を寄せ合い最後の口付けを交わす。

永い接吻くちづけを…… 名残惜しそうに唇が離れてゆく。

その顔に後悔は無く、ただお互いを見詰め合った!

互いに向き合う形に直ると、

「「ここに、二人は死すとも、その亡骸はゲオルグ王へと託す! 

永遠とわに私達をひとつに! これが私達二人の、最後の願いだ! 」」

お互いの剣を胸へと沿え、抱き合う様に一息に突きたてた!!


戦場に一瞬の静寂、全兵士が見守る中、二人は抱き合う事で、互いの命を断った。

お互いが抱き合い、支え合い、倒れること無く……

永遠に離れる事の無い様に。


 突如として戦場には、堰を切ったように歓声とも慟哭ともとれる叫びの波が押し寄せる。

いつ果てるとも無く、戦いの終った戦場には悲哀が漂い聞こえていた。



その時、無粋な輩が飛び出した!?

『未だだ! 今なら未だ間に合うぞ! 

あの者の、銀翼の魔女・・・・・の亡骸を奪うのだ!! 』

ギレン八世レイモンドは配下の者達へと命令を下した!

エレノアの亡骸を奪おうとする兵達が、レオンとエレノアへと迫る!


不届き者達がエレノアへと迫る!

だが、二人に辿り着く前にアーサーとフローラ、エレオノーラ達に尽く切り伏せられいく。


それを座して赦す愚か者は、此処には居まい!

ゲオルグが鬼神の如き面相で立ち上がる!

その身体からは怒気が揺らめいているかの様に、魔力が溢れ出していた。

『陛下! 』

アイギスが声を掛けた!

『我を〜、止めるなぁ~!! 』

アイギスを一瞥し、一拍の内にその言葉の真意を悟る

『ここはお任せ下さい。 陛下、御存分に! 』

アイギスは頭を垂れ、ゲオルグを見送る

『あいすまぬ、後は任せたぞ! 』

その場にいた者は頭を垂れ、ゲオルグの出陣を見送った。


レオンとエレノアの亡骸を囲む様に繰り広げられる攻防!

剣戟が首を撥ね、血飛沫が舞う中に突如魔力が揺らめく。

轟音と共に現れたのは!?


その姿を、知る者は少ない何故ならゲオルグの駆る神騎・・であった!

神聖なる駆動体アルカナ・エンジン

その名を太 陽ヘリオスという。

全高が八メートル程の人形の巨神。

コロナの如き揺らめく魔力を纏い、大地へと剣を突き立てながら降り立つ!

そして、その手に持った太陽剣コロニアルバイパーを掲げると、指し示すはギレン八世レイモンド


『この屑どもがぁ!! 約束を違えると言うのならば、そなたらの国を攻め滅ぼすまで止まらぬぞ!! 』

叫んだのは誰であろう、ゲオルグ王であった!


『たった今、これより先! 我が国へと矛を向けるならば、決死の覚悟で参られよ!

此度の事、我は忘れぬぞ…… 決してな!

国そのものが無くなる覚悟で参れ、そして二人は決して渡さぬ! 』


神聖なる駆動体アルカナ・エンジンに対抗出来るのは同じ力のみ、ギレン八世レイモンドは歯軋りした。

ギレン法国の神騎・・を手に居いれ損なった事を悔やむ!

『ええぇ~いっ! 撤退せよ! 全軍撤退だぁ!! 』



創世暦 一七二六年 冬の到来を間近に終戦となる。

失った者ばかりで、実り等無い無為な戦い。

この事で両国の未来が確実に変ったのである。

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