第69話 一瞬の沈黙……

一瞬の沈黙……

言葉を発したのはゲオルグである


『此度の戦、下に下らぬモノであるのだが……

しかし、回避はする事は不可能であるな。

この苦難に際し、無駄死には厳禁である!

よって、全ての兵達へ、この様に通達せよ!

「無為な戦闘は回避せよ! 

無駄死には許さぬ! 

撤退するも勇気である! 」

これは、この席に居る者達にも同様である!

従い、「神聖なる駆動体アルカナ・エンジン」の戦闘への使用は禁ずる 』


「陛下! なぜです 

短期決戦になれば被害は最小に出来ましょう。

ならば、神聖なる駆動体アルカナ・エンジンは使用するべきでは? 」

レオンがゲオルグへと、その真意を問う!


『レオン! これは決定事項なのです。

理由ですが、どう言った理由かまでは不明ですが。

ギレン法国には現在、神聖なる駆動体アルカナ・エンジン騎士ハイランダーも居ないのです。

従って、神聖なる駆動体アルカナ・エンジンは無用な大量殺戮兵器となりえます 』

アーサーが答える。


「まさか! 騎士ハイランダーが居ない!? なぜです! 」

エレノアは疑問に思った


『これも此度の戦…… いや、一連の騒動の不可解な理由の一端ではあるな。

ギレン七世オットー殿の後任然り、もう二人も空席である様だが。

その事を、エレノアは知っておったか? 』


「いえ! 存じてはおりません。 

お二人…… ラルース家とフィルモア家が預かって居た筈です。

父は、あの様なことになり返納されたのだと考えられますが……

フィルモア家の御当主である、カイロス殿が返納される筈がありません。 

その理由も…… 」

エレノアは訳が判らないと言う様に、かぶりを振った。


『少なくとも、ギレン七世オットー殿が此度の事を早い段階・・・・で予期しておった、と言う事であろうな。

我に当てた親書には、こう記載されておった。

「ギレン法国の、神聖なる駆動体アルカナ・エンジンは信の置ける者に託した。

その者に判断を委ね未来の後継者・・・・・・へと伝えよ 」

とな。

その者は騎士ハイランダーに叙任し、乗騎の名は隠 者ハーミットと言うそうだ。

何れ、エレノアともまみえる事であろう 』


隠 者ハーミットですか!? それは…… フィルモア家の、神聖なる駆動体アルカナ・エンジンに御座います 」 


『なぜか…… だが。

この戦いを最小に留めるため、ギレン七世オットー殿が先手を打ったのであろうな。 

その気持ちを無為には出来ぬ。

従って、神聖なる駆動体アルカナ・エンジンでの戦闘は厳禁とするのだ。

しかしだ、ただ使用する事を禁じるのではない。

我が兵を無駄死にさせる訳には行かぬからな。防御には出てもらう事となる。

レオンよ、御主は兵を護る砦となり盾となれ!

敵の攻撃を全て受け、後ろへは届かせるな!

それが、我の願いであり望みである 』

ゲオルグがレオンとエレノアへと視線を向け、願いを告げた

そう、願いである…… 立場的には命令をすれば良い事であった。

しかし、ゲオルグもアイギスも……

いや、同席した者達全てがその心情に共感していた。

かつての友へと刃を、魔法を向ける事に痛みを感じていたのだから。


時は創世暦 一七二六年初夏

間も無く戦端が開き、悲恋の幕が開く。


後に人々は思う。

「なぜ 二人が…… 」 と。

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