第66話 ギレン七世が亡くなる少し前の事

 ギレン七世オットー崩御の知らせが、アスガルド王国へと齎されたのは時が暫く経ってからであった。

遅れた理由としては。 恐らく、開戦の準備やラルース家への対応のためであろうと思われた。

それとも、それ以外の理由であったのかは知る由も無い。


    ◇    ◇    ◇    ◇


 ギレン七世オットーが毒薬により倒れる少し前の事。

周りに不穏な空気、血の臭いを感じたギレン七世オットーは、誰にも悟られる事なく、一人ある場所へと赴いていた。

 

 この場所は王族であり、ギレン法国を継ぐ者にしか知らされてはいない。

この場合の王族とは、王に連なる血族・・と言う意味であり、言い換えると遺伝的・・・な入室制限が掛けられた場所と言う事になる。

従って、姿形を真似たとしても侵入する事は叶わないという場所であった。

ただし、王に連なる血族・・が招き入れる許可を下した者は、入ることを禁じられはしない。


『まだ…… 時間は残されておるか? もはや幾許いくばくの猶予も無いのであろうな 』

ギレン七世オットーが溜息混じりに呟くと、どこからとも無く返事が返された。


「左様に御座います。 余り時間は残ってはおりませぬが……。 

如何致しましょう? 」

一風変った装束に身を包んだ者が、ギレン七世オットーへと窺う。

男なのか、女なのかも判らぬ不思議な人物であり、その者が纏う着衣も、この辺りにでは目にした事も無い意匠の物だった。


『なにもせずとも良い。 既に手遅れであるのでな。

だが、これを持ち…… この国より脱出せよ 』

ギレン七世オットーは、その者へと幾つかの書簡等を手渡す。


「これは? 脱出とは何故で御座いますか!? 

御身に、最後までお供させて下さいませ! 」

その者は書簡を受け取ることを固辞した


『ならぬ! この国の行く末を…… これが、最後の希望なのだ!

これを受け取りアスガルドへと逃げてくれ!

頼む…… この通りだ! 』

ギレン七世オットーは頭を垂れ、願いを口にする


「その様な…… 御命令とあらば。 お預かりいたします 」

悔しさを滲ませた声色で返答を返し、震える手で書簡を受け取った、


「ですが、これを何方どなたに? 」


『その内の一通は其方への物だ。 その手紙に全て書き記しておる。

頼んだぞ。 この国の未来…… いや、世界の未来がかかっておる 』

ギレン七世オットーは腕を振り、何も無い空間より三個の宝剣を象ったネックレスを取り出した。

そのうちの一つをその者の首へと掛けると、残りの二つを手に握らせた。

「お館様、 これは!? 

まさか、アルカーヌ・メイスでは在りませぬか! 」


『この者、ギレン七世オットーが、ここに聖戦士ハイランダーと認める。

承認せよ! 』

瞬間、首に掛けられた宝剣を象ったネックレスより、魔法陣が展開するとその者を包み込み、収束して行く。


『この一つは御主に預ける故、必要とあらば使う事を此処に許す。

だが、心して使うが良い! 

フィルモア家のもので名を隠 者ハーミットと言う。


白き物はラルース家の女教皇ジューノー、これはエレノアへと届けて欲しい。

もう一つの物は、将来の事だが、息子が受けるに相応しい者に変われたのならば……、 わしからと手渡して欲しい。名を魔術師マーリンと言う。

わしの物であったが、もう使うことも出来ぬ。 頼んだぞ 』

ギレン七世オットーはアルカーヌ・メイスと呼ばれる物の契約紋を託した。


受け取った者は頭を垂れ、一言を残し姿を消す

「では、承りました。 お約束は必ずはたしましょう! 

我が一族、萬川集海の名に掛けて 」


残されたギレン七世オットーは未来へと全てを託した。

きっと、彼の国はわしの願いを叶えてくれるだろう。

我が友、ゲオルグ、アイギスよ、頼む。

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