第70話 残念美少女、遠足に行く12
距離が近づいたせいか、ゴブリンの群れ後方から飛んでくる火の玉が、私を捉えはじめた。
しかし、それは、私を包む青い光に触れた途端、かき消えてしまう。
「こ、これは一体……」
後ろから、ハイエク先輩の声が聞こえる。
私は前進してくるゴブリンの隊列に突っこんだ。
「せいっ!」
私に棍棒を振りおろしかけたゴブリンの胸を、青い光をまとった私の掌底が捕らえる。
バンっ!
何かが爆発したような音を立て、そのゴブリンがふっ飛ぶ。
ゴツゴツゴツっ!
そんな音を立て、そいつが飛んでいく方向にいたゴブリンたちが、なぎ倒されていく。
飛んいったゴブリンを、ゴブリンジェネラルの剣が、まっ二つにした。
「ぐおおおおっ!」
ヤツはそんな雄叫びを上げた。
馬鹿ね、戦場でそんなことするなんて!
さっき飛ばしたゴブリンによって、私とゴブリンジェネラルとの間には、道のような空間ができている。
このチャンスを逃す手はない。
私は駆けだすと、ゴブリンの群れにできたその隙間に突っこんだ。
一瞬でゴブリンジェネラルの前まで来た私は、ギョッとした顔をしたそいつのどてっぱらに、右の掌底を叩きこんだ。
あれっ? 効いてないよ?
ゴブリンジェネラルは、そんな顔をした後、白目をむいて倒れた。
なぜか、巨体の後ろにいたゴブリンたちが、ボーリングピンっぽく扇状に倒れている。
なんだこりゃ?
「ふぉふぉふぉ、修行の成果が出ておるようじゃな」
振りむくと、ゴブリンたちの中を、トゥルースさんが歩いている。
その余りに無防備な姿に、ゴブリンたちも戸惑っているようだ。
その内の一体が、思いだしたように、手にした短剣を彼に振りおろした。
その瞬間、トゥルースさんの身体から、何か透明な波のようなものが広がった。
見えないけれど、なぜか私にはそれが分かった。
ゴブリンの動きがピタリと停まる。
ぱたぱたとゴブリンが倒れていく。
彼の周囲にいたゴブリンで、立っているものはいなかった。
◇
「師匠、ありがとうございます」
ハイエク先輩が、トゥルースさんの前で片膝を着いた。
しょうがないから、私もその恰好をまねる。
「スタンピードの本体は、まだ来とらん。安心するのは早いぞ」
「はっ!」
「レイチェル嬢ちゃん、『布通し』の技、上達したのう」
以前、トゥルースさんが、垂らした布に手を触れず穴を開けたのを思いだした。
「精進します」
「ふぉふぉふぉ、スタンピードがよい修行の場になるとよいな」
彼はそう言いのこし、去っていった。
◇
「ハフハフ、うまー!」
スタンピードの第一波を凌いだ私は防御壁の中に入り、ロッジの食堂で食事をしている。
「はい、レイチェル、いっぱい食べてね!」
メタリが私のお皿に、お替りを載せる。
それはナンのような生地で、焼きたてのソーセージを巻いたものだった。
ここでの食事は基本自炊だから、誰かが作ってくれたのだろう。
「レイチェルさん、これもどうぞ」
マンパが、カップに入ったジュースを渡してくれる。
「ゴクゴク、うわっ、なにこれ! すっごく美味しい!」
それは、ほんのりした甘みと、爽やかな酸味が合わさり、身体の中を風が吹きぬけるような味がした。
「美味しいでしょ! これ、マンパの実家で売ってるジュース。今は、魔道具より、こっちの方が売れてるそうだよ」
アレクが説明してくれる。
「確かに、これなら売り物になるわね。マンパ君、ありがとう」
「う、うん、えへへ。三つの果物を混ぜて作ってあるんだよ」
「へえ、凄いわね」
マンパに想いを寄せるメタリが、彼に話しかける。
「マンパ、私にレシピ教えてよ」
「ダメだよ、メタリ。それは企業秘密なんだから」
アレクがすかさず突っこんだ。
「い、いや、別に構わないよ」
ナティンといい、マンパといい、ほんと純真でいい子たちね。
『Y(・∀・)Y あんたも、少しは見習えよ!』
気のせいかしら、ポチ(カニ)の声が聞こえたわ。
「レイチェル、第二波が近づいてる。用意してくれ」
食堂にハイエク先輩が姿を見せた。
その先輩に小柄な影が駆けよる。
それは、上級貴族の娘ラサナだった。
「お兄様!」
えっ!? お兄様?
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