第57話 残念美少女、工夫する


 次の朝、気持ちよく目が覚める。

 なぜ、気持ちよいかというと、モフモフした毛が私の手に触れているからだ。

 目を開けると、胸の上に白く小さなスカンプが丸まって寝ている。


 これはもうダメね。

 こうなったら、奥の手を使うしかないわ。

 スカンプが起きないよう、そっと彼女をベッドに降ろすと、制服に着替えて教員棟へ向かった。

 ドンの部屋をノックすると、すぐに彼が出てくる。


「お姉ちゃん、お早う!」


「ドン、お早う。ちょっと、頼みたいことがあるんだけど」


 ドンは私の話を聞くと、すぐに頷いた。


「簡単だよ。今、すぐやればいいの?」


「そうね。今日の放課後、暗くなる頃にお願いするかな」


「うん、分かったー」


 ドンの部屋を出た私は、教室へ向かった。


 ◇


 放課後、寄宿舎に帰ると、スカンプはベッドの上で丸くなっていた。

 外が暗くなるのを待ち、彼女を布で包むと、それをそっと抱え、教員棟へ向かった。

 幸い今日は曇っており、月明かりもなく、かなり暗い。


 ドンの部屋に入ると、彼はすぐ呪文を唱えてくれた。

 まっ白なスカンプが、茶色の縞模様に変わる。毛の長さも短くなった。


「じゃ、お姉ちゃんにも魔術を掛けるよ」


 ドンのワンドから出た光が、私を包む。スカンプの姿が元に戻った。


「これで、お姉ちゃんにだけは、ミーちゃん本来の姿が見えるよ」


「ドン、凄い魔術ね。ありがとう!」


「えへへ」


 私は『ミー』と名づけたスカンプを抱くと、彼女に頬ずりした。


「ククゥ」


 ミーちゃんは、嬉しそうな声を上げた。


 ◇


 ミーちゃんが変身したのは、魔獣の一種で『キャティ』と呼ばれるものだ。寄宿舎の上級生が、みんなでそれを飼っているのを見て思いついた。

 魔獣は原則寄宿舎で飼えないのだが、このキャティと言われる魔獣は、有害な昆虫やGを食べるということで、見逃されているらしい。

 私がみんなにミーちゃんを紹介すると、凄く喜んでくれた。


「凄いわ、レイチェル! キャティって、なかなか見つからないのよ」


 メタリがミーちゃんを撫でながら、顔をほころばせている。


「でも、上級生が飼ってるじゃない」


「あの学年には、優秀なテイマーがいるの。それでも、キャティを見つけて懐かせるのに、一か月は掛かったそうよ」


「へえ、そうなの」


「あなた、テイマーの素質があるのかもね」


 メタリは、とろけそうな顔でミーちゃんを撫でている。


「でも、この手触り、なんだろう。先輩のキャティと別ものね。すっごく気持ちいいわ。それに、この可愛い鳴き声、もうたまんない」


 ドンの魔術でも、鳴き声や手触りまで変えられないのかもしれないわね。

 その辺は、気をつけないと。

 ほんの数日のうちに、ミーちゃんは、女子生徒の間でアイドルとしての地位を確立した。

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