第6部 残念美少女、褒美をもらう
第43話 残念美少女、感謝される
ガラン ガラン ガラン
そんな音を立て、私、ドン、タリランさんが王都に入る。
ボロボロになった、鎧入りエリュシアスの足を私が持ち、引きずっているので、そんな音が出ているのだ。
道は石畳だから、上を向いて引っぱられている彼の後頭部は、ハゲるかもしれないわね。
ポチ(カニ)たち『ひっ、ひどいっ!』
道には人々が並び、私たち三人に拍手している。
「タリラン様~!」
「青い悪魔~!」
「きゃーっ、ドン様~!」
やかましい程の声援が、私たちに投げかけられる。
だけど、「青い悪魔」って、誰の事だろう?
ポチ(カニ)たち『ツブテ、あんただよっ!』
途中でセバスチンを仲間に加え、私たち四人と鎧入り少年は、お城の門を潜った。
玉座の間に入った私たちは、並んだ貴族を目の前にしていた。
なんなのこれ?
その時、下手の入り口から、意外な人物が入ってきた。
ギルマスのトリーシュさんだ。
彼は私に頷くと、玉座の横に立ち、持っていた羊皮紙を顔の前に掲げた。
「ポータルズ世界群、全てのギルドは、タリラン氏をキンベラ国王と認める。ギルド本部長エルファリアのミランダ」
彼が大きな声でそれを読んだとたん、貴族から歓声が上がった。
「新王の誕生だっ!」
「これで、この国は救われた!」
「ギルド万歳っ!」
みんな、凄く喜んでいる。
「「「タリラン国王万歳!!」」」
貴族たちの声が揃う。
タリランさんは、ゆっくりと玉座に座った。
「皆の者、今日からワシがキンベラ国王じゃ。崩れかけた国政を立てなおしたい。皆のもの、力添えを頼むぞ」
「「「タリラン国王万歳!!」」」
貴族から、再び声が上がった。
もう、ここに用はないわね。
「じゃ、タリランさん、私たち帰るから」
「メグミ殿、そうおっしゃらず、戴冠式までは城にいてくだされ。この度の褒美も、まだじゃ」
私はかつてセバスチン執事が手ずから作ってくれた、形が悪いけど優しい味のケーキのことを思いだした。
「褒美? 褒美なら、もうもらってるわよ。いつか、セバスチンさんが美味しいケーキ作ってくれたじゃない」
「ツブテ殿っ!」
「ツブテ様っ!」
主従で滝のように涙流すの、やめてくれる? 暑苦しいから。
ポチ(カニ)たち『やっぱり、鬼畜だっ!』
「それから、これ。私に似合わないから、返しておくわね」
赤い宝石がついたペンダントを、ゴリラバッグから取りだす。これは、かつて痩身エステ十回分のかわりに、タリランさんからもらったものだ。
それを玉座に座るタリランさんの首に掛ける。
「こ、これは母上の……」
タリランさんの涙が、だーっていう感じになる。
そんなの漫画でしか見たことなかったわ。
「じゃ、またね」
私はドンに合図すると、窓から外へ飛びだした。
◇
空を飛び『アヒル亭』に帰る途中、ドンがしみじみとした口調で言った。
「ボク、お姉ちゃんの弟でよかった」
「どうして?」
「だって地下で眠る前に生きてた時より、ずっと楽しいんだもん!」
「そう、よかったわね。私も、ドンがいて嬉しいわよ」
「本当っ!? そんなこと言われたの、初めてなんだ、ボク」
「これからは私だけじゃなく、みんなから一杯そう言われると思うよ」
微笑みあう私たちを、雲の向こうに沈む夕日が優しく包んでいた。
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