第3話 鬼! 悪魔! 俺だって夜は眠いわ!

「リージェ様! ダメですわ、ペッてして下さい!」

『ほえ?』

「痺れ実の葉を食べてしまうなんて!」


 痺れ実? 山椒だよな?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【ハジカミ】


別名をオーリエン・ペッパー。偽胡椒とも呼ばれる。ピリリと舌を痺れさせるような辛さのある香辛料。実と葉が可食部。乾燥させて使用するのが一般的。

胡椒よりは調達しやすいですよ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 やっぱり山椒じゃねぇか!

 ああ、だが鑑定スキル持っているのにそのまま口にするのは危険か。

 吐きなさい、と俺の背をパンパン叩くルシアちゃんに俺は素直に謝った。


『だが、これは香辛料で毒性のあるものではない。調理に使えるから採取していこう』

「え? やだ、わたくしったら。ごめんなさい」


 毒だと思っていたなら仕方ないよねー。

 残念ながら葉はもうだいぶ固くなってしまっていたので実を採取するよう教える。

 棘に気をつけながら恐る恐る実を摘むルシアちゃんが可愛いかった。



『――≪リージェ≫が経験値18700を入手しました――』



 お、戦闘が終わったようだ。

 倒した兎はでかすぎて運べないので放置して野営地に戻る。

 と、大量の熊やら猪やら鼠やら兎やらのモンスターが山となっていた。



「で、どうするよ。これ?」


 血の匂いに魅かれてやってきたとは言え、これを解体とかしてたらまた集まってくるよなぁ。

 幸い今は殲滅して視界に入る範囲にはいないが。夜に囲まれたらなかなか大変だ。


「仕方ない、血抜きができない分味は落ちるがこのまま解体しよう」


 ドナートの問いにアルベルトが決断を下す。

 解体はドナートの他にエミーリオもできる。が、一度に二体ずつしかできないならその間だけでも血抜きをしておこう、とベルナルド先生が処理をしていく。

 何と、早く抜けるように、と土魔法で急角度の土台を作ってしまったのだ。


「トーポはまた集まってきたときの撒き餌用にしよう」

「おう、じゃぁ俺半分遠くに置いてくるわ」

「じゃぁ俺も行こう」


 アルベルトの言葉にチェーザーレが遠くへ捨ててくると掴んだのは鼠だった。

 トーポっていうのか、あの鼠。血に集まってくるなら、先にあの鼠を食わせて気を逸らせようということらしい。

 それから実に半日かけて解体したが、幸い再びモンスターが集まってくることはなかった。




『にーく! にーく!』

「はいはい。今作りますよ。煮るのと焼くのとスープ、どれにします?」

『全部!』


 はしゃぐ俺にエミーリオが苦笑する。

 今夜は久々に肉食べ放題なのだ。これが心躍らずにいられようか。

 兎肉は胸肉をスープに、それ以外の部位を玉ねぎと卵で他人丼にしてもらった。

 鶏肉とはまた違うが柔らかく淡白な味がまた旨い。

 熊の肉は香草焼き、猪肉は生姜焼き。これが激うまだった。ああ、白飯が欲しい。


「くぅぅぅっ! 旨い!」

「力が戻ってくる感じだ」


 バルトヴィーノとドナートは珍しく酒を飲まずモリモリ食べている。他のメンバーも無言で一心不乱に食べているから、相当料理を気に入ったのだろう。


 あの戦闘のあと、解体処理をするドナートとエミーリオ以外はモンスターがなるべく寄ってこないように戦闘の血の跡を掘り返して埋めてきた。

 土魔法の使えるベルナルド先生は魔法で、他のメンバーは人力で。シャベルなんて無いからアルベルトとバルトヴィーノは自分の剣で、チェーザーレは盾で掘り返していた。

 え? 俺? 俺は勿論見てるだけだよ? やだなぁ、生後半年の赤ちゃんドラゴンに何を求めてるのさ。えへっ。


 ルシアちゃんはというと、俺がモンスターの支配領域を浄化したらどうなるんだろうね、と言ったら早速試してくれた。何と、戦闘や解体作業で漂っていた血生臭さが消えたのだ。

 浄化の効果範囲外に捨ててあったトーポの死骸に魅かれてやってきた熊がいたのだが、こちらをチラリと確認するもウロウロしてやがてトーポの死骸を持って去っていった。

 その後も鼠やら兎やらが来たのだが、どうやら浄化した範囲を嫌がって避けているようだった。


 これなら大量のモンスターが囲ってくることはもうないだろう。今は念のためルシアちゃんに馬車周りに結界を張ってもらっている。それも、その辺に落ちてい小石を聖別して核にしたものだ。これなら夜間ルシアちゃんが眠ってしまっても大丈夫。

 

「それでも念のため見張りは置いておいた方が良いですよね」

「よし、リージェお前今夜は一人でずっと見張りな!」

『な、何故だ?!』


 エミーリオが結界を過信しないほうが良いと言ったら、アルベルトが夜間交代せずに見張りをしろと言いやがった。


「だってお前だけ何にもしてないじゃねぇか。俺達はクタクタで眠くてしょうがねぇ」

『酷くね?!』


 既に眠いらしく欠伸交じりの回答。鬼! 悪魔! 俺だって夜は眠いわ!

 キャンキャン抗議をしたが交代せずに一人で見張りというのは半分冗談だったらしく、一人ずつ交代で見張りをすることでいつもより睡眠時間を確保することにしたようだ。

 夜も更けた頃、ルナさんが来て最後の一人の遺体を連れて帰った。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る