第19話 要さん、いい人!
おっさんに回復魔法をかけると、本当に魔法だ、と子供のように目をキラキラさせていた。
回復したら、痩けた頬はそのままだが酷い隈が消え、薄幸そうなイケメンになった。20代後半、というと無理があるかもだけど、30代前半くらいには見える。
……ルシアちゃんが惚れちゃったらどうしよう?
「俺にできることは何でもしますので、改めてよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げるおっさん、もとい、要さん。見た目若いし、おっさんとはもう呼べねぇや。
少し落ち着きを取り戻したらしく、その口調は本庄そっくりの穏やかさだ。
そんな要さんに、これからオーリエンという国に向かうことを伝える。そして、二日では辿り着かないことも。
「じゃあルナ、今日も頼むな」
「ええ、連れて帰るわね」
ルナさんが包みを受け取って帰っていくのを不思議そうに見つめる要さん。
遺体を回収できた生徒達で、一度に連れて帰れないので一人ずつルナさんが連れて帰っているのだと言ったらショックを受けてしまったようだった。
「だから、向こうでも言ったが香月はこの中にいないからな?」
『これから向かうオーリエンと、アスーで召喚された勇者は死んだとは報告されておらぬし、どちらかにいるだろう』
そう宥めてやっと落ち着きを取り戻した。大人でもあんなに取り乱すものなのだな。
そして、これは無駄になっちゃったかな、とパンパンに膨らんだ大きなリュックサックを下ろす。
『そういえば、こちらに来れるのは一人または一点の荷物だけではなかったのか?』
「身に着けている物は1つにカウントされるからな」
裏技だ、と胸を張る1号には思いっきりデコピンしておいた。もちろんちゃんと爪を出して。
お前これ俺じゃなきゃ死んでるからな! と突き刺さった爪の向こうで1号が叫んでいるのは華麗にスルー。
『で? 何を持ってきたのだ?』
「うん、子供達が半年もこっちにいるなら日本の味が恋しいかなって思って。でもこちらで流通していない物、流通していても入手しにくい物は却下って楓に言われて、調味料関係は塩と胡椒くらい。あ、あと醤油。それから小麦粉と、ベーコン、ウィンナー、卵……」
「「「『おおおおおおおおっ』」」」
要さんが次々と取り出し並べる食品に俺を含めておっさんたちが狂喜乱舞。野菜などの生鮮食品も多数持ってきてくれていた。
卵はスーパーでは見かけない、紙製のパックで20個くらい入った奴だ。
「卵は常温保管で大丈夫だけど、なるべく早めに食べてねってことで取り敢えず1パックだけ」
『ありがたい』
ノルドに入ってから食料調達ができてなくてずっと保存食だったからな。明日から食卓が豊かになるぞ、ワッショーイ!
こんな感じでずっと騒いでいたら、そのまま眠ってしまった。
そう、ルシアちゃんとは別の、男連中の方の馬車で。
『あの、ルシアさん……? 食べづらいんでそろそろ放してくれませんかね……?』
「嫌」
起きたら俺がいなかったことに拗ねたルシアちゃんが俺を抱きしめたまま放そうとしないのだ。せっかくのお肉が! せっかくの卵が! あああぁぁぁぁぁぁぁっ!
食べられないまま目の前でどんどん消費されていく食事に涙目になっていると、要さんが苦笑して俺の分を取り分けてくれた。要さん、いい人!
「そう言えば、カナメ様? のステータスはどのような感じですか?」
はい、あーん、と俺に食べさせてくれようとしていた要さんからスプーンを奪って、そのまま俺の口に突っ込みながらルシアちゃんが尋ねる。
そういや、彼はモンスターに襲われた時に戦えるのだろうか?
「全てを見通す神の眼!」
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【ステータス】
名前 : カナメ・ホンジョウ
レベル : 1
HP : 300/ 300
MP : 90/ 90
ステータスの取得に失敗しました。ごめんなさい。
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『――≪リージェ≫のスキル≪全てを見通す神の眼≫がLv.3になりました――』
ルシアちゃんが口に運んでくれる食事をもごもご食べながら鑑定をかけたらレベルが上がった。
ステータスって何ですかと逆に尋ねる要さんに再度鑑定を試みる。
「全てを見通す神の眼!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【ステータス】
名前 : カナメ・ホンジョウ
レベル : 1
HP : 300/ 300
MP : 90/ 90
Atk : 150
Def : 80
ステータスの取得に失敗しました。ごめんなさい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
おお、攻撃力と防御力が見えるようになってる! 称号やスキル構成まではまだ見えないか。いやいや、鑑定ちゃんよ、謝る必要はないぞ。
たぶん介入してきているのは女神だと思うが、確証はないので鑑定ちゃんと呼ぶことにした。
俺の今の周りのレベルがおかしすぎて基準がずれているが、レベル1でHP300なら俺が産まれた時よりずっと強い。俺がレベル1の時はHP50の攻撃20なんてクソザコナメクジだったからな。
これ、レベリングしていけば自分の身を守れるくらいにはなるんじゃなかろうか。まぁ、たった二日間でモンスターと遭遇できるかは謎だが。
ルシアちゃん達からステータスの見方を教えてもらって要さんが自分のステータス詳細を伝えると、その能力値の高さに驚いていた。やはりこの世界の人の基準でも高いようだ。
「えっと、称号は
「世界地図?!」
「何だそれ?」
「この世界の詳細がわかるということですか?」
要さんのスキルにバルトヴィーノが食いついた。
他のメンバーはキョトンとしている。
その反応から、かなり珍しいスキルだとわかる。
「この世界には正確な地図がなく、誰も人族の領域の外側を知らないんだ。そのスキルは、暗黒破壊神の支配地の向こうも分かるのか?」
おお、バルトヴィーノが興奮している。
何でも、世界の果てを見てみたくて冒険者になったのだそうだ。
要さんもまたどんなスキルか把握していなかったようで、バルトヴィーノに気圧されながら、そのスキルをベルナルド先生にアドバイスされながら発動した。
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