第6話 誰だ、貴様ぁぁぁあ!!

 夜が明けた。簡単に朝食を済ませると、王族が拠点にしていたという土地を目指して移動する。

 1号を通じてルシアちゃん達にもそう伝言をしてもらった。


 しかし、本当に人っ子一人いない。

 商隊などもこの道を通っているはずなのだが、彼らはどこに行ってしまったのだろう?

 見渡す限り何もないのだ。草原も遥か彼方で、この辺り一帯は草木1本生えていない。



「おい、そろそろ気を引き締めろ」

『む?』

「あ、あれは!」



 うっすらと草原が見えてきた頃、突然1号が警戒の声を出す。前方の草原が不自然に揺れている。

 そして、飛び出してきたのは見覚えのあるフォルム。そう、イナゴだ。

 ギチギチと歯を噛み鳴らしながら一直線に飛んでくるイナゴの群れ。その体表は――。


『黒モンスター!』

「く、数が多すぎます!」

「ぎゃあぁぁぁぁあああ」


 エヴァを庇う事ばかりに気を取られていたら、俺の頭の上にいた1号がイナゴに攫われた。

 そちらを見ると、地面に押さえつけられた1号がブチッと上半身を食いちぎられるところだった。


『1号!』


 しまった、と思った瞬間、にゅっと上半身が生える。またブチッと食われる。またにゅっと生える。

 ブチッ、にゅっ、ブチッ、にゅっ……もう放っておこう。


「ちょ、まっ、たすっ」

『頑張れ』


 さて、今は目の前の敵に集中だ。


「全てを見通す神の眼!」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【ネロ・ロクスタ】〔成虫〕


HP:4570/4570

MP:1000/1000


基本はミスカンタスを好んで食べるが雑食。その強靭な顎は人の身体をも容易く噛み千切る。短距離であれば飛行も可能。群れで行動することが多く、1匹見かけたら1,000匹いると思えと言われている。幼虫を珍味として好んで食べる人もいる。成虫はモンスターに分類。その旺盛な食欲から、ロクスタの通った土地には何も残らないと言われているが、実際には糞や死骸により土地が肥沃になる。暗黒破壊神によって強化された群れは、個体の強さも群れの数も倍加していて厄介の一言。頑張って。


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 誰だ、貴様ぁぁぁあ!!

 何か頑張れとか言われたんだが? まさか、女神か?

 いや、それより、群れの数、倍加? 


 最初に襲ってきた個体以外はまだ俺達など眼中にないとでも言うようにミスカンタスを貪っている。わさわさと草をかき分け蠢く黒い物体は何となくアレを彷彿とさせる。

 前方の草原がイナゴに喰われ、みるみる剥げていく。



「今なら、まだこの1匹にしか気づかれていません。ゆっくり下がって迂回しましょう」

『ならぬ』


 え、何で逃げるのさ? 数は多いけど、探し求めていた黒モンスターだよ? 倒すに決まってるじゃん。

 経験値、ゲットだぜ。


『エミーリオはエヴァを連れて下がっていろ。ついでに1号を救出してやれ』

「さすが聖竜様。これ以上被害が出ないようにとお考えとは……」


 違う、そうじゃない。俺が暗黒破壊神になるための礎にするためだよ?

 けど今はそんな説明している場合じゃない。気づかれている。多数の殺気がこちらに向いている。


『早く下がれ。エヴァを失えば足が無くなるぞ』


 臆していた自分が恥ずかしい、と剣を抜くエミーリオを急いで下がらせる。

 が、それよりも黒い塊が周囲を取り囲む方が早い。


「血飛沫と共に踊れ!」


 斬撃にばらばらとなったイナゴのパーツが舞い落ちる。

 少々グロいが、体液が飛び出ないだけましだ。

 退路を確保してやるとそこからすかさずエミーリオが脱出した。しっかり1号を掴んでいる。やるな、エミーリオ。


「さぁ、死にたい奴だけかかってきな!」


 くぅ、一度言ってみたかった台詞を言える日が来るとは!

 一度切り拓いた退路はわらわらと集まってくるイナゴによって即座に塞がれる。馬に乗って遠ざかるエミーリオには目もくれず、ギチギチと歯を噛み鳴らし俺を取り囲むイナゴども。


『――≪リージェ≫がスキル≪挑発≫を入手しました――』

『――スキル≪挑発≫が≪死にたい奴だけかかってきな≫に改名されました――』


 ちょっと?! 何か勝手にスキル認定されたよ?!

 ああ、でもエミーリオを追おうとしていたイナゴが一斉に俺を取り囲んだのはそういうことか。


 エミーリオが俺を案じる叫び声が聞こえるが、大丈夫だ。

 辺りは食い荒らされ草の1本も生えていない。これならブレスも使える。

 喰らえ、俺の称号・中二病(笑)と害虫キラーのコンボ!


「我が劫火に焼かれよ!」


 俺の口から扇状に炎が吹き荒れる。その威力は凄まじく、至近距離にいたイナゴを一瞬にして消し炭にし、その後方にいるイナゴも火達磨にしていく。

 側面後方から次々と迫ってくるイナゴ共にも炎を浴びせるべく、炎を吐いたままくるくると回転する。


 イナゴの油は良く燃えるらしく辺り一面が火の海だ。ちょっと熱い。

 が、痛覚が無いのか怯える心が無いのか、燃え盛る仲間を踏み潰してどんどんおかわりがくる。どうせならお肉のおかわりをください。


「くっそぉ。どうせ戦うなら食べれる相手が良かった~!」


 イナゴも鑑定結果だと食べ物枠だけど、俺はアレを食い物だとは認めねぇ!

 有り余るMPの4分の1を使って炎を撒き散らす。炎に巻かれながらもまだ動き回るイナゴ。ダンジョンで遭遇したものより強化されているとはいえ、一体一体はそんなに強くない。

 数も、最初は途方もない数に見えたが半分くらい削ったか?


 あともう少し、と思った時、威嚇の効果が切れたのかエミーリオの方に飛んでいくのが見えた。

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