第8話 は? 何だそれ

「聖竜様、それは、一体?」

「俺は人畜無害な群馬県産食用キノコだよ! 煮て良し、焼いて良し、俺的にはバター炒めがお勧めです!」

『そのネタはもう良い』


 自己紹介がそれってどうなんだ?


「ああ、夕食の材料ということですか。ありがとうございます。では、さっそく」

「あぁぁぁぁ! 待って待ってごめんなさい! 謝るから食べないで! ごぉぉぉぉめぇぇぇえんんんなぁぁぁさぁぁぁぁあいいいいいい!」


 手を伸ばすエミーリオから泣き喚くきのこを引き離す。

 いくらモンスターも食べる世界だからって、喋るきのこを躊躇なく食べようとするとか……エミーリオ、恐ろしい子!!


『聞きたいことがあるんでな。食わんでやってくれ』

「聖竜様がそう仰るなら……」

「ん? 何だ、食材が足りないのか?」


 そういうわけではない、というエミーリオの言葉も聞かず森に向かって「本体~!」と叫ぶきのこ。本体?

 嫌な予感、と思った瞬間ガサガサと草の陰から出てきたのは、エミーリオの腰ぐらいまでの背丈の巨大な二足歩行のエリンギだった。巨大なエリンギにマスコットのような顔と手足をくっつけた、怪しさ満点の物体。

 まさか、ずっとついてきていたのか?


「「ちょっと待ってな」」


 思わず剣に手をかけたエミーリオに、ユニゾンでそう言うと本体、と呼ばれた巨大きのこがばふばふと胞子を飛ばす。

 その気の抜けた口調と突飛な行動に唖然としてしまったが、次のきのこの言葉に我に返る。



「そっちのでかい兄ちゃんは転移者じゃないみたいだな」

『あ、ああ。エミーリオはこちらの人間だ』

「そうか。俺の知っている情報を話すから、そっちの情報も教えてくれ」


 そう言っている間に、小さいエリンギがにょきにょきと生えて好き勝手に走り回る。

 それを巨大きのこは事も無げに捕まえるとエミーリオに渡した。エミーリオはあまりの事に状況を把握できないようで、固まっている。


「うん? 何だ? エリンギじゃないほうが良いのか? ん゛~……」


 受け取らないエミーリオに困惑したきのこは急に力み始める。すると、にゅっ、ときのこの後ろ正面、やや下の際どい部分から松茸が生えた。エリンギから何故松茸……。

 それをぶちっと抜くと再びエミーリオに「はい、食材」と渡すきのこ。ちょっと待て。


『貴様、今どこから生やした!?』

「石突だけど?」


 あらやだほほほ、どこからだと勘違いしたのかしら、と笑うきのこ。すっげぇえむかつく!


「前が良ければ前からも生やせるけど」

『やめぃ!』


 それはビジュアル的にアウトだ! そんな場所に生えた松茸なんて誰が食うか!

 って思ったけど、エミーリオがいそいそと料理を始めてしまった。


「聖竜様が連れてきた方のくださったものですから、安全でしょう」


 って。確かに正真正銘松茸の薫りだが……。生えてるとこ見ちゃうと、ねぇ。

 つぅか、こいつマジで誰なんだ? 声は聞き覚えあるんだが……。



「さ、悪ふざけはこのくらいで。本題に入ろうか。聖竜様は何君?」

『俺様か? 俺様は……』

「あ、ちょっと待ってわかった。君、暗黒破壊神様でしょ」

「暗黒破壊神だと? よりにもよって聖竜様を捕まえて……」

『わぁぁぁ、エミーリオ、落ち着け!』


 きのこに見事前世を当てられたが、その台詞にエミーリオが過剰反応。剣を抜いてしまった。

 慌てて誤解だの何だの取りなして何とか落ち着いてもらったが、その間きのこは「暗黒破壊神様がそれを倒す聖竜様に転生とかウケる」と腹を抱えて大笑いしていやがった。むかつく。


「で? 聖竜様、その姿は何なの?」

『起きたらこの姿だった。半年前からだ。貴様は? 死んだ時のことを覚えていたりしないのか?』


 このやりとりでエミーリオに俺が転生者だとばれたが仕方ない。

 俺が勇者召喚で呼び出された元人間で、目の前のきのこも同じ世界の関係者だとだけ説明した。


「俺? 覚えてないねぇ。何しろ死んでないし」

『は? 死んだことは覚えてなくても、生まれた時のことくらい覚えておろう?』

「いやいや、本当に死んでないのよ。俺、異世界と日本とを自由に行ったり来たりできるの」


 は? 何だそれ。

 固まる俺に、正確には異世界旅行のスキルは俺の奥さんが持ってるんだけど、ときのこが言う。


「代償、っていうのかな? 異世界に来ると何故かきのこになるのよ、俺。あだ名がきのこだからかな」

『……ちょっと待て、貴様、もしや木下か?!』

「先生をつけろ、先生を」


 そう、目の前のきのこ、こと木下楓は、非常勤講師。

 あの日、俺の後頭部を出席簿で叩き教室に押し入れ、そして一緒に異世界召喚されたはずの人間。



「奥さんがいち早く気づいて干渉しようとした結果、俺だけ森の中に飛ばされたんだよねー。おかげで生徒達とはぐれちゃって。いやあ、お前と出逢えて良かったわ」


 この姿だと人間の街に入れないからさ、と笑うきのこ。

 もし、きのこの話が本当であれば聞きたいことがある。


『あれから半年、リアルの方はどうなっている?』

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