第2話 え? 食うの、それ?

「あ、そうだ。聖竜様、これを」


 エミーリオが青い布を取り出すとスカーフのように俺の首に巻く。


「何もしていないと、武器を向ける不届き者がいるかもしれませんので。聖女様のではなくて嫌かもしれませんができるだけつけていてください」

 教会でのやり取りをある程度話してあったので色々気にしてくれたらしい。

 俺もできるだけ面倒は避けたいので大人しく巻かれてやるか。嫌だけど。



 エミリーオの話だと、このまま街道沿いに進むといくつかの集落と商業で発展した大きな街が一つあり、それを抜けると砦があり国境を超えるらしい。



「ところで、オチデンのどこに向かいます?」

『マジィアだ』



 ウェルナー君のおかげでこの世界の地理もだいたい頭に入っている。

 オチデン連合国は七つの小国が同盟を結ぶことによって生まれた国。

 盟主国たるオチデン、連合国の食糧のほとんどを担う農業国ヴォングスタイオ、職人が多く集まる工芸国アルティジャーノ、未攻略ダンジョンで人を集める迷宮国アッヴェントゥーラ、魔法使いの育成に力を入れる魔術国マジィア、林業の発達した緑溢れる山国センプレヴェルデ、オチデン連合国の入り口にして他国との貿易で栄えた交易国アッファーリから成る。


 その中でも、今回は勇者を召喚したというマジィアに行く。

 セントゥロからマジィアに行くにはアッファーリとオチデンとアッヴェントゥーラを抜けなければいけないらしい。そこそこ距離があるからひとっ飛びというわけにもいかない。

 

 勇者がどこで死んだのか情報を集め、その周辺で黒モンスターを探すのが今回の目的。

 エミーリオはどうやらオチデンに巣食うモンスターの一掃と復興支援に向かうと勘違いしているようだ。まぁ、やる事はほぼ一緒だしな。

 復興云々はドラゴンの俺には関係ないから、エミーリオに勝手にやらせておけばいい。

 俺は俺で行動するだけだ。






 エミーリオのスピードに合わせて街道を進む。

 馬もだんだんと俺に慣れてきて、たまに頭や背に乗せてくれる。懐くと結構可愛いな、と思ってたらいきなり齧られた。前言撤回。


 最初の村は壊滅状態だった。

 そういや、偽暗黒破壊神が王都周辺の村々を潰して回ったって聞いたな。

 高い柵に覆われていたが、内側から押し倒されていた。恐らく空からの急襲があったのだろう。火の手が上がったのか、炭になってしまっている家が多数あった。



「生存者は誰もいないようです」


 巣くっていた狼型のモンスターの群れを掃討し、エミーリオは村を一周して回った。

 俺も索敵を発動してみたが、近くに気配はない。皆逃げ出したか食われたのだろう。

 村にはポンプ式の井戸があった。エミーリオが数回押すと水が出てくる。


『今日はここで休もう』


 次の村に日のある内に着けるかわからない。なら、壊滅していてもまだ壁があるここの方が危険は少ないだろう。水場もあるしな。

 エミーリオは反対することなくモンスターの血抜きに取り掛かった。え? 食うの、それ?


「任せてください! 騎士団の訓練で森に一週間ほど籠るというのがあるのです。食料は現地調達というのがルールでしたから、食べられる程度のものは作れます!」


 お、おう……。

 味は期待しないでおこう。


「本当は吊るすのが良いのですが……」


 残念そうにしつつも狼の首を落とすと、魔法で深く掘った穴に引っ掻けるように置いた。

 どうやら穴に血を落とすようだ。


『エミーリオ、先ほどの水といい今といい、一体どれほど魔法を使えるのだ?』

「え? 生活に必要な最低限のことしかできませんよ?」


 謙遜かと思ったが、水はただ出すだけ、火も灯す程度、土も掘るだけといった具合で戦闘には使えないらしい。

 団長を任されるだけあって、魔法の効果は人一倍なのが自慢だと胸を張るエミーリオ。


『これだけの大穴を空けられるなら敵の足止めくらいにはなるだろうに』

「!! さすが聖竜様! そんな使い方は思いもつきませんでした!」


 ああ、またキラキラした目が鬱陶しい。

 そのくらい誰でも思いつくだろうに。何なの? 騎士団長、実はアホの子なの?

 俺はいたたまれなくなって周囲を警戒してくると言ってその場を後にした。



 索敵してみても特に効果範囲内には何もいなかったのでぐるっと上空を旋回してから戻る。

 エミーリオはその間に焼け跡から使える食料品や調理器具を探したり、炭化した家を解体して焚火を起こしたりしていたらしく。戻るとすっかり竈のようになっていた。


「あ、おかえりなさい聖竜様! 今肉も焼けますのでもうちょっと待っていてくださいね!」


 エミリーオが用意したのはきのこと野草と肉の入ったスープと串焼きだった。

 塩味だけだがきのこが良い出汁になっていてなかなかうまい。串焼きは少し臭みがあったが、まあ食えないことはない。ああ、ムッカのステーキが食いたい。



 夜間は交代で見張りをした。

 考えてみれば、こんなキャラでもエミーリオがついてきてくれて助かったかもしれん。

 メロンみたいに生で食べれるようなものなんか見かけなかったし、一人だったら何も食えずにいたに違いない。生肉なんて死んでも嫌だからな。

 それに、見張りをしてくれるから夜間も多少は安心して眠れるし。うん、エミーリオがいてくれて良かったよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る