第15話 俺はようやくこの世界に踏み出すのだ――。

「さて、今日の予定だが。できれば17階層まで一気に上がりたい」


 朝食後、アルベルトがそう提案した。

 ベルナルド先生が言うには、その階層も森林フィールドで水場があるらしい。勿論、反対する者など誰もいない。



 ひたすら駆け足で進む。

 出会うモンスター全て、接敵する前にドナートの一矢で即死する。走りながら射れるとか、かなりの技量だと思う。

 ドロップアイテムも例によってスルー。雑魚のドロップは荷物になるだけで拾う時間が無駄とのこと。

 今回は素材収集に来たわけではなく、聖女を迎えに来た急ぎの行軍であるというのも大きな要因だろう。



 22階層でお昼休憩。煮炊きに適した場所がなく、燻製肉をかじるだけだった。

 休憩時間が短かったため、19階層でもう一度休憩になった。



「あと2階層で目標の17階層だ」


 よく頑張ったとアルベルトがルシアちゃんを雑に褒める。

 走りっぱなしで息が上がっているのはルシアちゃんと俺くらいなものだ。

 ダンジョンの中は月も太陽もでたらめで、時間の感覚がわからなくなるが、時告げの実だともう少しで4オーラ――夕刻だ。体の疲れが酷いのもそのせいだろう。

 


「ここを上ればまた階層ボスがいる。装備の点検をしろ。バックアタックで速攻するぞ」


 アルベルトの号令で皆が一斉に武器や防具の点検を始める。

 ベルナルド先生がこそっと耳打ちしてくれた話だと、浅層のボスだから、前衛二人で余裕だって。点検させているのは休憩も兼ねてなんだと。

 そういう事なら、俺もスキル上げさせてもらおう。


 階段を上った所にいたのは、どう見てもファンタジーで定番のオーク。いや、王冠を被っているしオークキングってやつか。

 後ろから来た俺達に気付く様子のない階層ボスに段取り通り速攻を仕掛ける二人。

 俺はその隙にスキル上げも兼ねて鑑定をかける。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【オークキング】〔出血(大)〕


HP:498/885

MP:290/290


オークを従える上位種。知能・身体能力全てにおいてオークを上回る。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 アルベルトが袈裟切りにし、ドナートが矢を射かけたが致命傷にはならなかったらしい。だが、出血の状態異常になっており、数秒刻みでHPがぐんぐん減っていっている。

 その攻撃で俺達に向き直ったオークキングの顔は憤怒に満ちていた。


 オークキングが棍棒を振り上げ投げつけてきた。と思ったら光の柱が現れる。気にせずにオークキングの懐へ潜り込み切り込むアルベルト。

 オークキングは二人に任せれば良いだろう。

 光の柱から、オークが現れていた。まっすぐこちらに向かってくる。


「ヴィー!」

「おうよ!」


 後ろを振り返ることなくアルベルトが怒鳴り、バルトヴィーノが飛び出す。

 バルトヴィーノはその勢いのままオークを一刀両断した。強ぇぇぇ!

 ハッ! 見惚れている場合じゃないな。スキル上げするんだった。うん。



「血飛沫と共に踊れ!」


 まだアルベルトと切り結んでいるオークキングの背中に回り込んでザシュザシュと爪を立てる。

 フギィィィィ、と鳴き声とも悲鳴ともつかぬ声を上げて、倒れた。


『――≪リージェ≫がオークキングを倒しました。経験値1225を入手しました――』

『――≪リージェ≫のレベルが23になりました――』


 よし、楽勝だったな。ドロップアイテムは魔石と脂身タップリの豚肉。わぁぁぁぁあい! トントロぉぉぉぉぉぉ!

 いかん、涎が。


 

 俺は豚肉をさっと包んで背負うと先に行った皆を追いかけた。

 ん? 何か揉めてる?



「私はまだ大丈夫ですわ!」

「ダメだ! いくら浅層だとはいえ、ここはダンジョンだ。罠だってある。休めるときには休め」


 ルシアちゃんがアルベルトに食って掛かっている。


『どうした?』

「わたくしは、王都が……家族が心配なだけですの」

「聖女様がな、まだ頑張れるから先に進みたいって」


 階層ボスのいた18階を抜け、ここは当初の目的地であった17階層。話に聞いていた通り森林フィールドが広がっている。

 まだ3オーラと半分。予定より早く着いてしまったので、ルシアちゃんが一人でも先に進むと聞かないそうだ。それをアルベルトが押し留めているのだと。



『ルシア。体力を温存しながら進むのも大事だ。辿り着きました、倒れましたじゃ何の意味もない』

「リージェ様……」

『アルベルトよ。明日の出発を早めるとかはできないか?』


 俺の提案にアルベルトが頷いた。

 ルシアちゃんの気持ちもわかるから、早く休憩する分明日は早く出発しよう、と言ってくれた。それでルシアちゃんも納得したようだった。



 夕食の準備をしながら、ルシアちゃんが皆に謝っていた。ルシアちゃんの行動はパーティー分裂、下手すれば全滅の危機を招く行為だ。

 でもそこはベテラン勢。相手が幼い女の子だっていうこともあり笑って許していた。

 俺はこの先暗黒破壊神として波乱の道を行くつもりだけど、こういう雰囲気も良いな。いつまでも彼らと共に旅していたい気分だ。



 翌日。日も登り切らないうちに起きだした俺達はパン粥と燻製肉でしっかりと朝食を摂り出発した。

 浅層のモンスターなど敵にもならないとばかりに突き進む。


 10階層で燻製肉をかじるだけの軽い休憩を取り、突き進むこと2オーラ。ついに、1階層の出口が見えた。

 洞窟のよう薄暗いフロアの向こう、ぽっかり空いた出口から陽の光が見える。


 ドラゴンとして生まれ落ちて2ヶ月、俺はようやくこの世界に踏み出すのだ――。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【ステータス】


名前   : リージェ    


レベル  : 23

EXP  : 2021/ 246383


HP   : 1356 / 3195

MP   : 218/ 1382

Atk  : 5123

Def  : 1348


スキル  : タリ―語 

       我が劫火に焼かれよ Lv.4

       血飛沫と共に踊れ Lv.5

       全てを見通す神の眼 Lv.2

       念話 Lv.1

       我を害さんとする者よ、姿を現せ Lv.1



称号   : 中二病(笑)

       害虫キラー

       農家

       ドM

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