1年の猶予(マジカルリーリャ…始まります)
変わる世界
ガウスとの戦いから一週間後、CLOSEは新たな仲間を加えて定例の幹部会議を行っていた。
「では、幹部会議を始める…とりあえず新しく入った幹部補佐2人の自己紹介を頼む」
そうクロウが言うと即座に立ち上がり声を上げる少女。
「コレットといいます!リーリャの補佐として頑張っていきます!」
一人目の幹部補佐は契約金1億と月給につられて、ホイホイと入社してしまったコレットだった。あいも変わらず少し気の抜けた表情ではあるが、その実力は本物である。
調子に乗りやすく盛大に自爆しかねない為に、唯一舵取りが上手く出来るリーリャが面倒を見る事になった。リーリャとしてもコレットは少々…頭がアレな友人という認識なので快く引き受けてくれたのだ。
「続いて私だな、元イザナギ朱雀…あー…新しい通り名とか考えた方が良いのか?一応アリアの補佐になるらしい」
そう、朱雀だ。
「朱雀で良いと思うぞ?」
「ふむ、確かにソチラの方が通りは良いか?相わかった、しばらくは朱雀でいくとしようか」
「さて、耳聡い皆なら知ってると思うが…イザナギの首脳陣が青龍によって暗殺されていた事が分かった。秘密主義が過ぎたせいで発覚が遅れ、組織内部が虫食い状態に陥り四聖の内青龍と白虎は足抜けをして玄武は行方不明…そして朱雀もイザナギに見切りを付けて我々に付いた状態だ」
「ま、有栖を守ってくれそうな組織が此処しか無かったとも言うけどね」
肩をすくめて苦笑いする朱雀、口ではこう言っているが実際の所ではクロウに感謝しても仕切れない恩を受けたと思っている。
もともと有栖はイザナギに所属していたとある夫婦の忘れ形見であり、以前から何かあったら娘を頼むと言われていた朱雀が面倒を見ていたのだ。そして、その身にオリジンのオモイカネを宿していると言う事が発覚、幸い朱雀以外気づいていなかった為に即座に少女を隠した。
オモイカネの能力は惑星単位でのシミュレーション、簡単に言うと星の未来を観る事が出来るのだ。有栖を押さえれば世界征服程度ならば片手間に行え、ディストピアだろうが荒廃世界だろうが好きに作り変える事が出来るだろう。
だがCLOSEはその力を別段悪用するつもりもない。というか、そもそも幹部連中だけで大概の事がなんとかなる為に使う必要も無いと言った所だろうか。
「最早イザナギは組織としては死に体だ、結果として図らずとも我々が日本でトップの退魔組織に収まった形になる…が、以前から話しに出てた通りマンパワーが足りない」
「其処で、新しく他の組織を取り込む事になった訳やね?」
葛乃葉が合いの手を入れるとクロウは頷いて言葉を続ける。
「そうだ…だが信頼信用に足る組織も少ない。その為、輪転道と提携を結び此方が人材の選定を行うまでの間、手が回らない所はアチラの黒鉄という精鋭部隊が対処してくれる事になった。それと朱雀の伝でイザナギ残党から人員の引き抜きを掛けてもらっている為、一先ずの戦闘員の数は整う予定になっている」
「後、人形もようやく実戦に耐えうる判断力をプログラム出来たわ、今必要なのは戦闘力よりも現場での判断力かしら?」
リーリャの言葉に頷くクロウ。
「今後皆の直轄の部下も増えて行く予定だから一応全員そのつもりで頼む。それと、頭数が増える前に決定事項を幾つか伝えておく、俺に何かあった場合リーリャを次の社長として朱雀を社長補佐にする…これは戦闘面における実力だけでなく総合的な観点からの決定事項だ、異論があるなら俺が生きてる内に言ってくれ」
「あー…異論というか、新参の私が社長補佐でいいのか?」
恐る恐るという雰囲気で声を上げた朱雀。だが誰からも異論は上がらない、というか誰も社長補佐などという胃が死ぬポジションに入りたく無いのだ。
「満場一致だ、任せるぞ朱雀」
「ええ…?本当にいいのかねこれ…」
「ゴホン…続いての議題だ」
厄介毎を押し付けられたのであると気づかれる前に、クロウがそそくさと話しを進めた。
「天使の輪が落ちた事によって一部悪魔が消えた、リーリャと葛乃葉の解析によると…どうやら一定以上の力を持つ怪異等は天使の輪が落ちると昇華され、此方側の世界に干渉できなくなるようだ…恐らく神々が居る住居へ強制的に引っ越しさせられるのでは?という話しだ」
「恐らく青龍と白虎も昇華した言うんがウチとリーリャちゃんの見解やねぇ、それと…気になったんが、あの件の魔導書…解析した結果何も分からへん言う事が分かったんよ」
場の空気が僅かに引き締まる。リーリャと葛乃葉の2人を持ってしても何も分からないというのは…最早異常事態であろう。
「というのも此方からの干渉を通過してしまうの。光や電磁波やありとあらゆる方法での干渉を試してみたのだけれど…暖簾に腕押しって奴かしら?」
「だが手に持つ事も実際に見る事も出来るんだろ?」
「……あるべき物が其処に無いのであれば其処には確かに何かある、バレッダの口癖だ」
アルフォンソが口にしたのはバレッダからかつて教えられた警句である。ある筈の物が無いというのは不自然な状況だ。だからこそ、その違和感を忘れてはいけないという意味合いらしいのだが…。
「おそらく天使の輪が落ちている間でなければ観測は難しいと思うよ」
「……この本の作者には是非とも隠形を教わりたいわね」
「まったくだよ、当時に戻って攻撃の魔術ばかり教わっていたのを殴りたい気分だ」
自己嫌悪に陥っているアルフォンソを敢えて無視して話題を進めるクロウ。進行役の辛い所である。
「続いての報告だがCLOSEに出資者が出来た、政界の名門である門脇家だ…本当は断ろうかと思ったんだが魔界になった後の事を考えると、門脇家とのつながりが合った方が良いと言う結論に至った訳だ」
「へぇ、社長政治とか嫌ってそうだけど?」
アルフォンソが軽く茶化すと意外にも真剣な面持ちで頷くクロウ。
「その通り、だが…政界にも動いてもらわねばならない。門脇家には既に魔界に関しての情報の提供と家族の身辺警護の一部を引き受ける契約で、それとなく各所への根回し…及びアジテーターの用意を仕込んでもらっている」
「アジテーター?」
首を傾げるアルフォンソ。
「アイドルを一人此方の計画にまわして貰えるそうだ、魔界になった後、そいつを希望の象徴にして無用な混乱や暴動を避ける魂胆さ」
「美人かい?」
「まぁ…アイドルって言うぐらいだから多分?今後付き合いも出来るが…隠密にな」
「アイドルの恋人とかすごく楽しそうじゃないかい!?」
テンションを上げるアルフォンソを冷ややかな目で見る面々。本人は一切気にして居ないので対した効果は望めなさそうだ。
「アホは放置して次、門脇家の娘さんの学校での護衛をリーリャとコレットが担当する事になった。これは政府からの要望でもあり、政界の重鎮の血縁が集う学校に強固な守りが欲しいと言う要望と擦り合わせを行った結果のお試し派遣だと思ってくれ」
ついでに言うとリーリャにも学校生活を楽しんで欲しいと言うクロウの願望でもある。
「はい社長!」
「却下だアルフォンソ、お前には新人研修をしてもらわにゃならん」
「えー…」
「女の子も新人に来るだろうからそっち口説いてろ」
「はーい」
アルフォンソの間の抜けた返事に軽いため息をつくクロウ。
「それと、マギア・クラフトワークスの件だが、無事我々の傘下となった。今はたこ焼き屋で働いてもらって居るが、後々には現場で式神兵を指揮してもらう予定だ、それに付随して葛乃葉には彼女達の装備を作って貰っている」
「試作品は完成したよって…後は微調整だけどすなぁ、リーリャちゃんも手伝ってくれはったさかいに出来は上々やと思いますえ?」
「一先ずはこんなところだ、ほかに報告は?」
その言葉に恐る恐る上がる上原の手。
「ん、なんだ?」
「その…何て言ったら良いか分からないんですが」
非常に言いづらそうに口籠る上原、このような彼女は珍しく思ったクロウはふと気付いた。
「女同士で無いと言いづらい事か?」
「い、いえ…その、ふざけている訳では無いんですが…体重が」
「「「「体重?」」」」
思わず全員が首を傾げた。
「体重が…変わらなくなりました」
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