少年期[738]多分……もう、避けられない
土の魔力によって作った簡易トラックに乗って特に問題と遭遇することなく、ゼルートたちはゲインルート家が治める領地へと到着した。
「これはゼルート様、お帰りなさいませ」
「ただいま。最近は何か問題が起きたりしていなか?」
「えぇ、特に厄介な問題が起きることなく過ごせていますよ」
門兵と軽く挨拶をし、中へと入ったアレナは以前訪れた時と同じ事を思った。
「ねぇ、ゼルート。やっぱりどう考えても男爵家の街並みって感じじゃないわよね」
「あぁ~~~…………うん、確かにそうかもな」
元々は男爵家らしい街並みだったが、かなり前から栄え始め……いくつもの街を見てきたアレナとしては、到底男爵家の街とは思えない。
「俺がパーティーに参加した際に行った決闘で大金を手に入れたからな。その金を使って少しずつ発展したんだよ」
「そういえば一対三の決闘でボコボコにして、没落させたって言ってたわね……多分子爵か伯爵家の領地並みに賑わってる。爵位が上がったりはしないの?」
「どうなんだろうな? 俺はそこら辺興味ないから自分から訊かないし……それに父さんもそこまで爵位の拘りはないと思うからな……でも、今回の戦争で大なり小なり活躍すれば、その戦果の報酬として爵位が上がるかもしれないな」
ゼルートの父親であるガレンが最前線からは退いているものの、体を鈍るのが嫌で街の外に出て魔物を狩るのは日常茶飯事。
家に仕える兵士たちもガレンの強さは重々承知しているので、そこら辺の魔物や盗賊に殺されるとは一ミリも思っていない。
(ガレンさんなら、今度の戦争で戦果を挙げるのはそこまで難しくなさそうね。元々強いというのもあるけど、ゼルートがガレンさんの為にオルガさんに造ってもらった風の聖剣、ホルガストがある)
ガレンが現在も愛用している魔剣も一級のロングソードだが、オルガが造り上げた聖剣ホルガストも負けず劣らずの一級品。
オークションに出品すれば凡人には到底手が届かない値段が付く。
「……ゼルート、確かにガレンさんが戦果を挙げれば爵位が上がるかもしれないが、お前が戦争で大活躍すれば国から爵位が授与されるのではないか?」
ルウナの何気ない一言を聞いたアレナはピシっと固まった。
「……………………アレナ。やっぱりそうなるの、か?」
「そ、そういえばその可能性をすっかり忘れてたわね」
ぶっちゃけた話になると、ゼルートは既に男爵程度の爵位を授与されるぐらいの戦果は挙げている。
Sランクという災害が形を成した魔物をソロで討伐したという功績は、冒険者のランクが上がるだけではなく、国から爵位を授与されてもおかしくない内容なのだ。
だが、プライドが高い貴族たちは冒険者が自分と同じ立場に登ってくることを嫌う。
ゼルート自身は男爵家の令息だが、それでも現在は冒険者という立場に変わりはない。
そしてゼルートが生まれ国、オルディア王国の国王はゼルートがあまり権力などに興味を持っていないことを知っているので、敢えて王城に呼んで爵位を授与することはなかった。
しかし!! 今回起こる戦争でゼルートが圧倒的な活躍をすれば、もはやゼルートの意志や国王の気遣いなど関係無く、爵位を授与しなければならない状態となる。
「なぁ、アレナ。俺まだ領地を治めたりしたくないというか……ぶっちゃけ引退後は兄さんの補佐みたいな職に就きたいんだけど」
「そ、それはまぁ……良い老後ね。いきなり領地を治めろなんて言われないと思うけど……そうね。多分、爵位は授与される筈よ。名誉騎士とかを越えて、男爵の爵位を授かるのは確実じゃないかしら」
「……仕方ない。それは覚悟しておくか」
爵位を授与される可能性を恐れて敵国に手加減しようなどと思える訳もなく、ゼルートはこれから増えるかもしれない厄介な称号を受け入れるしかないと覚悟し、深いため息をついた。
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