少年期[681]できない事ぐらいある
「えぇ、勿論大丈夫よ」
アレナだけではなく、ルウナたちもゼルートが一人で四十一階層から五十層まで探索することに関して、全くもって心配していない。
「……そうか、アルゼルガさんたちは知らないのね。ゼルートは戦闘だけじゃなくて、探索も出来る。武器や体術の腕だけじゃなく、魔法の腕も超一流。料理だって美味しいのつくれるし、一人で何でも出来るんです」
「そ、そうなのか……もはやなんでもありだな」
槍を使うゼルートと戦ったことがあり、再度なんでも出来るのだと思い知らされた。
「そうなんですよ。料理の腕なんで、女として負けたって思うほど美味しいんですよ」
「ゼルート殿に出来ないことなんてあるのか?」
「どうなんでしょうね……もしかしたら、ないかもしれませんね」
そんなことはない。
創造のスキルや幼い頃から積み上げてきた努力のお陰で常識から外れた力を得たが、出来ないことの一つや二つはある。
一番分かりやすいの欠点は腹芸ができないこと。
絶対的な力を持っているからこそ、物事を物理的に解決しようとする。
状況によっては完全な悪手。
自分の関係者に迷惑を掛ける可能性が大きい。
ただ……そんなことをすれば、地の果てまで逃げても制裁を加えられる。
ボコボコにズタボロ雑巾になるまで壊し続ける……そんな甘いことはしない。
ぶっ壊れたスキルと魔法の才を持っているからこそ、体だけではなく心も永遠に壊すことができる。
「ゼルートは私と同じで戦闘大好きだが、他のことにも色々と興味を持ってるからな。今頃エボルサーペントを相手にバチバチ楽しく戦ってるんじゃないか? ゼルートならAランク……Sランクに成長したエボルサーペントが相手でもそのスタンスを崩さず倒すだろう」
「いや、さすがにエボルサーペントがSランクまで成長するのはあり得ない……というよりも、そんなことになれば大惨事だ。そしてさすがのゼルート殿も、相手がSランクとなれば戦いを楽しむ余裕はないのではないか?」
戦いを楽しむ……アルゼルガはその感覚を知っている。
元々どちらかといえばバトルジャンキーよりの性格だが、生死が懸かった戦いの中で稀に……本当に稀にだが、楽しさを感じる時がある。
だが、Sランクのモンスターは文字通り次元が違う強さを持つ災害そのもの。
「そうか、あの戦いを観ていないのでは知らないのも当然か……笑ってたんだよ、ゼルートは」
「Sランクの悪獣と戦っている最中に、ということか」
「えぇ、その通りよ。あの時、ゼルートは確かに笑っていた……心の底から楽しいと感じてる笑みを浮かべていた。それは間違いないわ」
アレナだけではなくルウナ、ゲイルたちも高速で動くゼルートの表情が時折ハッキリと見えた。
人によっては凶悪な笑みに見えるかもしれないが、仲間であるアレナたちにはそれがどんな笑みなのか直ぐに解った。
「ゼルートは普段から力を抑えて戦ってるの。だからSランクぐらいが丁度心置きなく全力で叩き潰せる相手なのかもしれないわね」
「そうだったのか……そうか」
薄々解っていた。
以前手合わせをした時、ゼルートは全く本気ではなかった。
それはアルゼルガも同じだが、お互いに本気を出して戦った結果……お互いに槍を使って戦ったとしても、勝てるビジョンが湧かない。
技術にはアルゼルガに分があるだろう。
しかし身体能力には縛りを開放したゼルートに大きな分がある。
技術はその差に打ち勝つ武器だが、あまりにもその差が大きい。
(本当に……心の底からゼルート殿と本気でぶつかることにならなくて良かった)
仮に本気でぶつかったとしたら、銀獅子の皇は間違いなく壊滅する。
上位陣が一斉に襲い掛かれば可能性はある。
だが、そういった戦法で挑んだとしても確実に勝てるとは思えなかった。
ボス部屋前にいる冒険者全員がアレナたちの話を信用してはいないが、アルゼルガだけは信じた。
そして思った……あと少しで起る戦争。
こちら側が負けることは決してあり得ないと。
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