少年期[596]それは無理な体験
「はぁ~~、戻ってきたって感じがするな」
地上に戻り、太陽の光を浴びると地上に戻ってきた強く思うゼルート。
ダンジョンの中にも疑似的な太陽はあるが、ゼルートとしてはダンジョンの中と地上の太陽か発せられる暑さや光の感覚が少々違って感じた。
「とりあえずギルドに行って素材を売るのよね。売っても良い素材は決まってるの?」
「勿論だ。ちゃちゃっと売っちまうぞ」
一回宿に戻らず、そのままギルドまで一直線。
そして何事も無くギルドに到着し、素材売り場にやって来たゼルートはアイテムバッグの中からそこそこの量の素材を取り出してカウンターに乗っけて行く。
「もうちょいあるんで、少し別の場所に置けますか?」
「分かりました。少々お待ちください」
一目で品質が良く、ある程度の値段が解る素材をササっと別の場所に置いていき、ゼルートが取り出す大量の素材を冷静に対処していく受付嬢。
(なんか、普通の人とはちょっと違う感じがするな)
今回ゼルートの素材買取を担当した受付嬢から普通の美人な受付嬢とは少々違う何かを感じたゼルートはこっそり鑑定しようと思ったが、流石にギルド相手にそれをするのは宜しくないと思って踏み留まった。
(別にそこまで知りたい内容でもないしな)
ただ、綺麗な銀髪のポニーテールに鋭いクール系の美形。
そしてスタイルもかなり整っている。そして一般的には驚かれる素材の量を冷静に捌いていく。
そんな受付嬢にゼルートは少々興味を持った。
だが決して行為を抱いたとかそういう話ではない。
(もしかしたら元冒険者って可能性はありそうだな)
美形、可愛い系の女性冒険者が辞めた後に受付嬢になるケースは少なくない。
「それでは少々お待ちくださいませ」
「分かりました」
(……結構人気なのかもな)
周囲をぐるっと見渡すと、先程の受付嬢に見惚れている男性冒険者が多くいた。
「あの人、もしかしたら元冒険者かもしれないわね」
「あっ、やっぱりか。なんとなくだけどそんな雰囲気出してるよな」
「……ゼルートと同じく隠すのが上手いという事か。しかし容姿ゆえに戦えそうと思われそうだな」
「勘が鋭い人は気付くかもしれないな」
案にゼルートには見た目では強さを感じないという言葉を本人はスルーしていた。
「…………あの人に惚れてそうな冒険者は多そうだけど、元冒険者とかになると余計に難攻不落の要塞って感じがするな」
「自分より弱い人とは付き合えない、そして死ぬ可能性が高い冒険者と障害を共にすることなんて出来ないってことかしら」
「そんなところだな。受付嬢として働くようになって後半の思いは余計に強くなったんじゃないかな」
ゼルートとアレナが軽く話し合った内容がドンピシャで当たっており、二人の会話が聞こえていた冒険者達の表情が一気に暗くなる。
(す、ストレートに言い過ぎたか? でも、驚いた表情をしていないってことはその内容が当たっていて、それを冒険者達も知ってるって事だよな)
誰にも靡かず惚れず、高嶺の花だと解っていてもクールな銀髪の受付嬢に惚れてしまっている者は多い。
そしてその状態がいかに彼女が魅力的なのかを表している。
「見た目はちょっとツンとしてるけど、中には暖かい優しさがあるのかもしれないな」
「元冒険者なら現役冒険者の辛さも解るから、的確な言葉を出せるのよ。実戦の痛みを解っている人の言葉には他の人では感じない優しさがあるのよ」
アレナも過去に対応してもらった受付嬢の言葉で心が軽くなったことが何度もあった。
「解っているからこそ暖かく感じる言葉、か……それなら受付嬢志望の娘は全員一度冒険者になればいいのではないか? それなら全員の言葉に温かさを感じるだろ」
「いや、それはだな………た、確かにそうかもしれないが、それは普通に考えて無理だと思うぞ」
ギルドの花である受付嬢志望の娘が冒険者として短期間の間活動するなど、到底無理な話だ。
ルーキーの多くは大した実戦経験がなく、スタートラインは同じかもしれない。
しかし心の持ちようが全く違う。
片や上のランクを目指して必死で成り上がろうとする者。
もう片方は仕事に役立つ経験を得られるかもしれないとはいえ、重労働に加えて死ぬかもしれない冒険に出なければいけないハードな仕事を体験する……日々の仕事に対してのモチベーションに差が出るのは必然だ。
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