少年期[495]何故売らないのか

警備の兵士に案内されたゼルート達は鑑定士がいる部屋へと案内され、中へと入る。

そこには一人の成人男性と中年の男性が待っていた。


「ご苦労だった、持ち場に戻って良いぞ」


「はい! 失礼いたしました!!!」


兵士は速足でその場から立ち去り、元いた場所へと戻っていた。

支配人である中年の男性はゼルートの前に立ち、自己紹介を始める。


「グラット・ソートだ。今回ここで開かれるオークションの支配人をしている。君があのゼルート・ゲインルートで合っているかな?」


「はい、そのゼルート・ゲインルートで合ってます」


オークキングを単独で倒したのか、それとも三つの貴族の家を変則賭け試合で潰したのか、悪獣を単独で倒したのか。


どれを指しているのかゼルートには解らないが、大きな噂を持つゼルート・ゲインルートはこの世で一人しかいいない。


「それで、そちらの女性達と男性が君の仲間で合ってるかな?」


「はい、そうですよ。ただ、本来の姿とは違う者もいますけど」


「……なるほど、そういう事か。ならば今私達は随分珍しい光景を見ることが出来ているということになる。なぁ、ロウガット」


「そうですね。中々見ることが出来ない光景かと」


ゼルートの言葉から直ぐにゲイル達が人の姿に変えている事を察したグラットは愉快そうに笑う。

鑑定士であるロウガットも無表情な顔から驚きの表情へと少し変化する。


「それで、君はどんな物をオークションに出品するんだい?」


「こちらの商品です」


予め用意されていた品を置く台にゼルートはアイテムバッグの中からラッキーティアを取り出してゆっくりと置く。

傷一つなく、その輝きで無条件に人の目を惹きつけるラッキーティアに二人は思わず口が大きく開いてしまう。


イケおじとそこそこ整ったイケメンの顔が台無しになってしまった。


「……おっと、あまりの輝きに目を奪われてしまった。ロウガット、鑑定を頼むぞ」


「か、かしこまりました・・・・・・・・・・・・グラット様、どうやらこちらは本物のラッキーティアのようです」


実物を見たことが無い二人だが、ラッキーティアがどのような宝石なのか人伝には聞いたことがある。

ただ、本物を見たことが無いので初めは確証を持てなかった。


しかしロウガットは自身の鑑定スキルで視た結果、グラットはロウガットの鑑定を信用している結果、本物のラッキーティアだと確信する。


「これは、いったいどこで手に入れたんだい?」


「それは内緒です。というか、何度も手に入れられる方法では無いので」


「……ふぅーーー、それもそうだな。個人の機密を探るような真似をして申し訳なかった」


ラッキーティアをどの様な方法で手に入れたのか。それは職業関係無く殆どの者が知りたい情報。

常識を弁えているグラットでもついついそれをゼルートに尋ねたくなってしまった。


「大丈夫ですよ。誰でも気になってしまう情報でしょうし」


「そう言ってくれると助かるよ。それで、オークション自体にも君達は参加するのかな?」


「はい、一応結構懐には余裕があるので」


ゼルートの言葉にアレナ達は全員ちょっとどころでは無いだろと心の中でツッコミを入れた。


「そうか、それならこのカードを渡しておこう。これがオークションに参加する証明書となる」


「分かりました、ありがとうございます・・・・・・どうしたっすか? なんか聞きたい事でも?」


「そうだね。オークションに商品を出品するなら、ラッキーティアの他に悪獣の素材もかなり高価な値段がつくと思ってね。それは出さないのか気になって」


「あぁーー、なるほど」


Sランクに該当する悪獣。その素材は勿論のこと、魔石も一般的な貴族ですら驚愕の値段で落とされることは珍しく無い。


場合によってはラッキーティア以上の値段で落とされてもおかしく無い。それはゼルートも分かっている。

ただ、ゼルートには冒険者らしく出品しない理由があった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る