少年期[470]さっさと片付ければ良かった
チャーディルの渾身のタックルは無慈悲にもゼルートの両腕に止められてしまった。
それも、身体強化のスキルを一切使っていない生身の力に止められた。
「やっぱり一歩も動かないってのは無理だったか」
その場に完全に踏みと留まることは出来ず、十センチ近くゼルートは後ろに押されていた。
しかし特に角を掴んだ手に痛みは無く、ダメージは無いに等しい。
「良いタックルだったぞ」
生死を賭けた戦いの最中だとは思えない程余裕な表情でゼルートはチャーディルの突進を止めている右手を離す。
その瞬間をチャンスだと思ったチャーディルは再びアクセル全開でゼルートを気に叩きつけようとする……のだが、やはりこれ以上動かすことは叶わなかった。
「おいおい、それ以上無理に動こうとすればこっちの角がボキっと折れるぞ」
ゼルートが右手を離すことで当然力のバランスが崩れるが、それを左手の力を加える方向を変えることでチャーディルの態勢変えずにいた。
「安心しろ、殺した後はキッチリ焼いて食うからよ」
振り上げた右腕を振り下ろし、そのまま脳天に振り下ろす。
身体強化を使っている事でチャーディルの耐久力が上がっているとはいえ、ゼルートが無造作に力を込めた手刀に耐えることは出来無かった。
「いっちょ上がり。そっちも終わったみたいだな」
「おう、終わった終わったけど……お前の倒し方は何と言うか、ゼルートらしいな」
素の身体能力に物を言わせた戦い方。
ゼルートは魔法に才能が特化しているが、基本は武器や素手か投擲で戦いを終わらせる。
それを知っていたデックだが、その戦い方が中々見られるものでは無かった。
「チラッと見てたけど。デックさんも中々あっさりと勝ってたよな」
「そりゃチャーディルが相手だからな。基本的にこいつらの攻撃方法は突進だ。歳を食ったチャーディルなら話は別だが、今戦った奴らぐらいならそこまで倒すのに苦労はしない」
デックの言葉に嘘は無いが、それを実践するためにはそれ相応の実力が必要になる。
チャーディルの突進は直前の回避には弱いが、ビビッて避ける距離を見誤れば一気に進路を変更して突っ込んでくる。
そしてデックは身体強化のスキルを使う瞬間を上手く使い、チャーディルを油断させた。
(移動最中に加速するのは慣れていなければ自滅に繋がる行為だ。ベテランのデックの経験値を嘗めている訳じゃないけど、簡単な技術では無い)
それを難なく行うデックにゼルートは感心する。
「流石Cランクの冒険者だな」
「実質Aランクオーバーの実力を持ったルーキーが何言ってんだよ。結局こいつの首をスパッと切れたのはこの魔剣のお陰だしな」
デックが持つ魔剣には風の実力が宿っており、刃の切れ味を上昇させる効果を持つ。
「その魔剣を手に入れられるのもデックとパーティーの力だろ」
「まっ、そうかもしれないな。というか、ゼルートだって魔剣の一本や二本は持ってるだろ?」
「一応な。こいつが俺が偶に使っている魔剣だ」
アイテムリングの中からゼルートはフロストグレイブをデックに見せる。
「そいつぁ……中々の代物じゃねぇか。ランク五……いや六か」
「良い目してるな。こいつは昔偶々拾ったんだよ。そっからこいつをちょいちょい使ってる。確か・・・・・・オークキングを倒した時もこいつを使ったな」
「オークキングを……つまりBランクのモンスターには通じるって訳か。まぁ、ランク六の魔剣なら妥当か」
「そりゃ対峙する相手にもよるけどな……デックさん、チャーディルの解体はちょっと後で良いか?」
二対のチャーディルから視線を逸らしたゼルートの目は木々の奥を見ている。
「別に構わねぇけどよ。解体はなるべく早い方が……あぁ、なるほどな。そういうことなら後回しで良いな。ただ、先にリングかバックにしまっといてくれ」
「了解。数は幾つぐらいだと思う?」
「そうだなぁ……多くても十はいないな」
「ならそこまで手間は掛からないな」
チャーディルの首から流れた大量の血の匂いに釣られて新たな魔物がゼルート達に迫る。
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